01_雇用管理

労働基準法

この記事で伝えたいこと

シフトを組む店長

このブログは主に中小企業の小売店経営者を対象に、店舗運営に必要とされる人事マネジメントの要点を、できるだけわかりやすく、なおかつ簡潔に解説しようとするものです。

その第1回目となる本記事は、あらゆる人事マネジメント実務において基本中の基本となる労働基準法について、その概要を紹介してゆきます。

経営者に限らず、店舗のスタッフを管理・監督する立場にある店長や売場チーフであれば、労働基準法の概要を把握することはマストでしょう。

戦前の反省から生まれた労働基準法

奴隷労働

労働基準法の目的

労働基準法は、事業主や使用者が労働者を就業させる際の禁止事項や、遵守しなければならない義務を定めた法律です。

労働基準法が制定される前は、民法の一部に雇用契約に関する条文が記載されているだけだったため、戦前は過酷な強制労働が横行していました。

そしてその時の反省から、労働者の人権を強く保護すべく、昭和22年に民法の特別法として労働基準法が誕生したのです。

ココがポイント

事業主とは法人や個人事業者をいい、使用者とは事業主のために労働者を管理・監督する経営者や管理職などを指します。

労働基準法の効力

民法から独立分離した労働基準法ですが、民法が私的自治(私事に国は関与しない)と契約自由(私人間の契約は当事者間で決める)を原則としているのに対し、労働基準法は強行法規といって、私人間の契約に対して国家権力が強制的に介入できるのが特徴です。

そのため、たとえ労使間で合意した上で結んだ労働契約であっても、労働基準法に反する契約内容や、労働基準法に満たない労働条件は無効とされます。

労働基準法は全ての事業と労働者に適用される

スーパーで品出しする女性店員

労働基準法が適用される事業所

労働基準法は、原則として事業の種類や規模に関係なく、労働者を一人でも使用する事業所(本社や店舗、配送所など場所を単位とした就業場所)であれば強制的に適用されます。

例外は国家公務員と同居の親族のみで経営している個人商店などですが、後者については短期アルバイトであっても親族以外の者を雇えば、労働基準法が適用されます。

労働基準法で保護される労働者

労働基準法に定める労働者とは、性別、年齢、国籍、職業、役職、雇用身分などに関係なく、日本国内にある事業所で賃金をもらって働いている人の全てが該当します。

ゆえに派遣労働者や短時間アルバイトも労働者であり、請負契約であっても、実態として注文者と請負スタッフとの間に使用従属関係が認められれば(いわゆる偽装請負)、労働者とみなされます。

ココがポイント

部長や課長などの管理職は一般職にとっては使用者ですが、事業主との関係では労働者になります。また取締役(委任契約)は労働者ではありませんが、執行役員(労働契約)は労働者です。

労働基準法には何が書かれているか?

労働基準法の構成

労働基準法は13章で構成されています。ここでは労働基準法の全体像と、それぞれの章にどのようなことが定められているのか、簡単にご紹介します。

第1章 総則
〜労働基準法の7つの原則について書かれています。

①労働条件の原則(労働条件は労働者が人間らしく暮らせる内容とすること)
②労使対等の原則(労働条件の内容は労使が対等の立場により決定すること)
③均等待遇の原則(国籍、信仰、思想、社会的身分による労働条件の差別の禁止)
④男女同一賃金の原則(性別による給与条件の差別禁止)
⑤強制労働の禁止(暴行や監禁、脅迫による強制労働の禁止)
⑥中間搾取の排除(労働者の給与をピンハネする行為の禁止)
⑦公民権行使の保障(勤務中に選挙権などを行使する権利を保障すること)

第2章 労働契約
〜有期労働契約の上限、契約内容の禁止事項、労働条件の明示義務などが規定されています。労働契約を締結する際のルールは労働契約法に、明示すべき具体的な労働条件は労働基準法施行規則にそれぞれ記載されています。

第3章 賃金
〜賃金支払の5つの原則、平均賃金の計算方法、最低賃金の支払義務を定めています。平均賃金は年次有給休暇を取得した時の有給手当、会社の都合で労働者を休業させた時の休業手当、解雇予告手当の計算に用います。

第4章 労働時間、休憩、休日、有給休暇
〜法定労働時間、法定休日、休憩、時間外および休日労働、深夜労働、年次有給休暇、変形労働時間、裁量労働制などについて定められています。専門業務型裁量労働制の対象となる法定20職種は、労働基準法施行規則に記載されています。

第5章 安全および衛生
〜かつては第42条から第55条まで、職場の労働安全衛生に関する規定が記載されていましたが、現在これらの条文は労働安全衛生法として労働基準法から分離し、労働基準法と相互補完的に運用されています。

第6章 年少者
〜満18歳未満の未成年者を就業させる場合の禁止事項や注意事項を規定しています。なお中学生以下の児童は原則として働かせることはできません。学生アルバイトを雇うことの多い小売業や飲食業は要チェックです。

第6章の2 妊産婦等
〜妊産婦とは妊娠中および産後1年を経過しない女性をいい、労働基準法では妊産婦の就業を禁止する業務や期間について定めています。他にも女性労働者に対する育児時間や生理休暇を付与する義務などがこの章に記載されています。

第7章 技能者の育成
〜前時代的な師弟関係に見られるような、修行や見習いと称して公私問わずに労働者を酷使する徒弟制度を禁止する規定です。つまり従業員の教育訓練は、あくまでも業務の一環として、勤務時間内に行わなければならないということです。

第8章 災害補償
〜労災で負傷したり労務不能により休業している労働者に対し、事業主が経済的補償を行う義務を定めています。なお事業主の資力不足によって災害補償が滞らないように、労災保険制度が補償を代行する仕組みになっています。

第9章 就業規則
〜就業規則は、労働者の就業ルールを定めたもので、常時10人以上の労働者を使用する事業所ごとに作成し、労働基準監督署へ届出する義務があります。この章では、就業規則に記載すべき事項や就業規則の作成・届出の手続きなどを定めています。

第10章 寄宿舎
〜寄宿舎とは社員寮のことです。この章では寄宿舎の管理や運営に関するルールを定めており、使用者が入寮者の私生活に不必要に介入することを禁止しています。観光地の宿泊サービス業などでは、寄宿舎を設けていることが多いようですので、確認しておきましょう。

第11章 監督機関
〜労働関係法令を所管する官公署(厚生労働大臣、都道府県労働局長、労働基準監督署長等)の役割や権限などについて定めています。

第12章 雑則
〜法令および就業規則を従業員に周知する義務、労働者名簿と賃金台帳を作成し、一定期間保存する義務、未払賃金や退職金などの請求権の時効について規定しています。

第13章 罰則
〜労働基準法は行政取締法規なので、法律違反に対して懲役刑や罰金刑などを設けています。特に強制労働違反の場合は、10年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金という、労働基準法上最も重い罰が科されます。

ココがポイント

労働基準法の番人である労働基準監督官は、悪質な労働基準法違反者を逮捕することができます。なお労働基準監督署以外に、税務署、消防署なども警察署と同様に逮捕権をもっています。

労働基準法の関係法令

法律書

かつて民法から労働基準法が枝分かれしていったように、産業構造の変化や就労形態の多様化に対応すべく、労働基準法に関連していくつかの法令が制定されました。ここでは特に労働基準法と関係の深い法令について、主なものをご紹介します。

労働基準法施行規則
施行規則とは厚生労働省令のことで、法律の実施に付随する事務的なルールを補足するものです。例えば労働基準法で労働条件の明示を義務づけ、具体的な労働条件は、労働基準法施行規則のほうに列挙する、という建付けになっています。

労働安全衛生法
高度経済成長期における産業の工業化とビルの建設ラッシュにともない、全国各地で労災事故が頻発したことから、労働基準法の安全衛生条項をより充実・強化し、昭和47年に労働基準法の特別法として制定されたのが労働安全衛生法です。

労働者災害補償保険法
労働基準法では、事業主に対して労災に遭った労働者への災害補償を義務づけていますが、事業主の資力不足によって災害補償が滞らないように、事業主を労災保険に強制加入させた上で、労働者災害補償保険法にもとづき事業主の補償義務を代行する仕組みになっています。

労働契約法
非正規労働者の増加によって労働契約をめぐるトラブルが増えたため、労働基準法の労働契約条項を補完する法律として、平成20年に労働契約法が施行され、これまで判例だった安全配慮義務や解雇権濫用法理、有期労働者の無期雇用転換権などが法制化されました。

男女雇用機会均等法
労働基準法では給与条件について男女差別を禁止していますが、それ以外の労働条件については、男女雇用機会均等法において男女差別を禁じています。また職場におけるセクハラ防止義務もこの法令に規定されています。

最低賃金法
労働基準法では最低賃金の支払義務を定めていますが、最低賃金そのものについては最低賃金法に規定されています。最低賃金は都道府県ごとに定められ、毎年10月に改定されます。なお違反した事業主には違反1名あたり50万円の罰金刑が科されます。

<当サイトご利用上の注意>
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  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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