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労働基準法とは?
労働基準法は日本国憲法第25条第2項の「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という理念にもとづき昭和22年に施行された法律である。
もともと労働基準法は民法の雇用契約に関する条文に過ぎなかった。しかし産業の近代化によって労働者が増えたこと、またかつての強制労働の反省から労働者の人権をより強く保護すべく民法の特別法として分離独立した。

労働基準法の構成
第一章 総則
総則には労働基準法の基本理念である7つの原則が定められている。
- 労働条件の原則
~労働条件は労働者が人間らしい生活ができるような内容でなければならず、使用者は労働基準法に合わせて労働条件を引き下げてはならない。 - 労使対等の原則
~労働条件は労使が対等の立場において決定すべきであり、労働者と使用者は互いに就業規則や労働契約を遵守し誠実に履行しなければならない。 - 均等待遇の原則
~使用者は労働者の国籍、信仰、政治的思想、社会的身分によって賃金や就業時間その他の労働条件について差別的な取り扱いをしてはならない。 - 男女同一賃金の原則
~使用者は労働者が女性であることを理由として、給与条件について男性と差別的な取り扱いをしてはならない。 - 強制労働の禁止
~使用者は暴行、脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束するような手段により本人の意思に反して労働を強制してはならない。 - 中間搾取の排除
~職業安定法の職業紹介事業者等でない者が、他人の就業に介入して利益を得る(=他人を働かせて賃金をピンハネする)事業をしてはならない。 - 公民権行使の保障
~使用者は労働者が勤務中に選挙権などの公民権を行使しようとしたり、裁判員制度などの公務を執行しようとした場合に拒否してはならない。

労働基準法は労働者を一人でも使用する事業であれば、法人か個人かを問わず全ての使用者について適用される。また使用者には代表者のみならず他の役員や店長など、労働者に対して指揮命令権を行使する者全てが含まれる。
労働者は正社員やアルバイトのみならず不法就労の外国人をも含めたあらゆる労働者が労働基準法によって保護される。なお店長などの中間管理職は部下との関係では使用者であり、会社との関係においては労働者となる。

第二章 労働契約
第二章は労使間で労働契約を締結する際の禁止事項や、使用者が労働者に対して労働条件をきちんと明示する義務などを定めている。
明示しなければならない労働条件は労働基準法施行規則に具体的に列挙されている。また労働契約の内容の決め方、契約の更新や変更時のルールは労働契約法に規定されている。

第三章 賃金
第三章には賃金支払5原則(通貨払い、全額払い、直接払い、毎月払い、期日払い)、年次有給休暇を取得した時や労災の休業手当を支払う時に用いる平均賃金の計算方法などが定められている。また最低賃金法に定める最低賃金を支払う義務についても明記されている。
第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇
第四章は労働時間、休日、休憩、時間外労働、年次有給休暇など労働者を就業させる際の基本ルールや、変形労働時間制、みなし労働時間制といった変則的な働き方について定めている。みなし労働時間制の対象職種は労働基準法施行規則に具体的に列挙されている。

第五章 安全及び衛生
かつては第42条から第55条まで労働安全衛生に関する条文が記載されていた。現在は第42条に「労働安全衛生は労働安全衛生法に定める」という一文が残っているだけで、残りの条文は労働安全衛生法に移行した。
第六章 年少者
満18歳未満の年少者は従事させられる業務や就労できる時間に一定の制限が設けられている。また中学校卒業前の児童については映画やテレビの子役などの仕事を除いて原則として就労禁止となっている。

第六章の二 妊産婦等
妊産婦とは妊娠中の女性と産後1年を経過しない女性のことであり、第六章の二では母性保護のため妊産婦を就労させられない業務や期間について規定している。育児時間や生理休暇などもこの章に定められている。

第七章 技能者の養成
親分子分といった前時代的な徒弟制度の弊害を排除するための条文で、例えば従業員に修行と称して無給労働させたり、お礼奉公の名目で不当に職場に拘束したり、また経営者の私的な雑用に従業員を使用することを禁止している。
第八章 災害補償
第八章は使用者が業務災害で被災した労働者に対して災害補償を行う義務を定めており、たとえば被災労働者の療養、休業、障害、死亡等への経済的な補償をいう。なお労災保険が適用される場合には使用者の災害補償に代えて労災保険から補償給付が行われる。

第九章 就業規則
就業規則とは就業に関するルールブックであり、労働基準法に則り労働者の義務や権利などを職場ごとに定めたものである。第九章では就業規則に盛り込まねばならないルールや労働基準監督署への届け出の方法などについて規定している。
第十章 寄宿舎
寄宿舎とは社員寮のことで、第十章では寄宿舎の管理や運営に関するルールが定められている。主に使用者が労働者の寮生活に必要以上に介入することを禁止する内容となっている。
第十一章 監督機関
各職場において労働基準法が遵守されているかどうか、厚生労働大臣、厚生労働省労働基準局長、都道府県労働局長、労働基準監督署長らが使用者を監督することになっており、第十一章はこれらの機関の役割や権限などについて規定している。

第十二章 雑則
雑則では使用者に対し、法令および就業規則を労働者に周知する義務、労働者名簿と賃金台帳を調製して一定期間保存する義務、未払賃金や退職金の請求権の時効などについて定めている。なお請求権の時効は賃金5年(当分3年)、退職金5年、労災補償2年となっている。
第十三章 罰則
最後は罰則に関する章である。労働基準法は行政取締法規とも呼ばれており、法律違反に対して厳しいペナルティが科される。
労働基準法で一番重たい罰則は強制労働禁止違反に対する10年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、次いで重たいものは違法解雇や違法残業に対する6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金となっている。

労働基準法に関連した法令
労働基準法施行規則
施行規則とは厚生労働省令のことで、法律(本則)の実施に関する事務的なルールなどを補足するものである。例えば労働基準法第15条の「労働条件の明示」義務では、明示しなければならない具体的な内容を労働基準法施行規則に記載している。
労働安全衛生法
高度経済成長期に産業の工業化やビルの建設ラッシュにともなって重大な労災事故が多発したことから、労働基準法「第5章 安全および衛生」に危険有害物の取り扱いルールなどを追加し、昭和47年に労働安全衛生に関する特別法として成立したのが労働安全衛生法である。
労働者災害補償保険法
労働基準法では使用者に対し業務災害による被災労働者への災害補償を義務付けているが、使用者の資力不足によって被災労働者への補償が滞ることのないよう、労働者災害補償保険法にもとづき労災保険から被災労働者に補償給付を行う仕組みになっている。

労働契約法
就労の多様化により労働契約をめぐる労使間の紛争が増加したため2008年に労働契約法が施行された。労働契約法では労働契約5原則、安全配慮義務、解雇権濫用法理、有期労働者の無期雇用転換権などが規定されており、民法や労働基準法の労働契約条文を補完している。
男女雇用機会均等法
労働基準法では給与条件についてのみ男女差別を禁止していたが、男女雇用機会均等法では募集、採用、異動、昇進、教育訓練、定年などにおける男女差別も禁止している。また職場におけるセクハラ・マタハラ防止や妊産婦の健康管理上の措置を使用者に義務付けている。

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