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10 変形労働時間制

2024年2月28日

この記事のポイント

変形労働時間制とは、閑散期の労働時間を短縮する代わりに、繁忙期は合法的に法定労働時間を超えて従業員を労働させることができるため、割増賃金の増加を抑制しつつ、柔軟に投入人時のコントロールを行うことができる制度である。

変形労働時間制には、実施する期間ごとに、①一年単位の変形労働時間制、②一ヶ月単位の変形労働時間制、③一週間単位の非定型的変形労働時間制があり、変形労働時間制の派生タイプとして④フレックスタイム制などもある。

学生アルバイトなどの未成年者も例外的に変形労働時間制で労働させることができるが、成年者に比べて就業できる労働時間の上限が厳しくなっている。妊産婦は、本人が請求した場合に限り、変形労働時間制で労働させることはできない。

変形労働時間制とはどのような制度か?

制度の目的

労働基準法では原則として法定労働時間を超える労働を禁止しているが、変形労働時間制を導入し、閑散日の所定労働時間を短縮することで、1週間の平均労働時間を法定労働時間内に収めるのであれば、繁忙日に法定労働時間を超えて従業員を労働させることができる。

山口
変形労働時間制を採用することで、1日8時間、週40時間を超えて従業員を労働させても割増賃金の支払いが不要となります。

制度の概要

変形労働時間制には、一年単位、一ヶ月単位、一週間単位(業種と事業規模の制限あり)の3種類があり、一年変形は季節によって業務の繁閑が著しい業種、一ヶ月変形は、月の中で月初や月末といった特定の時期に業務の繁閑が集中するような業種に適している。

制度のメリット

変形労働時間制を導入することで、使用者は総額人件費(割増賃金)を抑制しつつ、繁忙期に所定労働時間を増やし、閑散期には減らすことができるため、弾力的に投入人時のコントロールを行うことが可能となり、人時生産性を向上させることができる。

一年単位の変形労働時間制

制度の仕組み

季節によって繁閑の差が著しい業種に適した変形労働時間制であり、1ヶ月超~1年以内の対象期間において、週の平均労働時間が40時間以内に収まっているのであれば、特定期間(繁忙期)中は、法定労働時間を超えて、従業員を労働させることができる。

山口
従業員10人未満の小規模小売業(特例対象事業)が一年単位の変形労働時間制を導入する場合は、法定労働時間の特例(週44時間)は適用されません。

導入する要件

  • 労使協定を締結して所轄の労働基準監督署に届出すること
  • 特定期間であっても労働時間の上限を1日10時間以内、1週間52時間以内とすること
  • 対象期間を3ヶ月以上とする場合には労働日数を年間280日以内とすること
  • 週48時間を超えて就業させる週を連続3回以内とすること
  • 週48時間を超えて就業させる週を3ヶ月間に3回以内とすること

導入時の注意

  • 対象期間のうち、最初の月の労働日および労働日ごとの労働時間を決定しておくこと
  • 2ヶ月目以降の各月における労働日数と1ヶ月の総労働時間を決定しておくこと
  • 2ヶ月目以降の各月の労働日および労働日ごとの労働時間を前月初日までに決定すること
山口
要するに使用者が日々の繁閑を見ながら、その時々で労働時間を長くしたり、短くしたりするような運用は認められていません。

一ヶ月単位の変形労働時間制

制度の仕組み

毎月、特定の週や日に繁閑が集中するような業種に適した変形労働時間制であり、1ヶ月以内の変形期間において、週の平均労働時間が40時間以内に収まっているのであれば、特定期間(繁忙期)中は、法定労働時間を超えて、従業員を労働させることができる。

山口
従業員10人未満の小規模小売業が一ヶ月単位の変形労働時間制を採用する場合は、週の平均労働時間が44時間内に収まっていればOKです。

導入する要件

  • 労使協定を締結して所轄の労働基準監督署に届出するか、就業規則に規定すること

導入時の注意

  • 各日および各週の労働時間を労使協定または就業規則に明記すること
山口
一年単位の変形労働時間制の方が制度運用の労力が少なくて済みますが、一ヶ月単位の変形労働時間制には1日の労働時間の上限がありません。

一週間単位の非定型的変形労働時間制

制度の仕組み

小規模な独立系スーパーマーケットやスープカリー専門店など、突発的な繁閑に対して柔軟に人員をやりくりできるような余裕の無い事業者については、週の平均労働時間が40時間以内に収まっているのであれば、特定の日に10時間まで従業員を労働させることができる。

導入する要件

  • 小売業、旅館業、料理店、飲食店のうち、常時使用する従業員が30人未満の事業者
  • 労使協定を締結して所轄の労働基準監督署に届出すること

導入時の注意

  • 週の各日の労働時間を遅くとも前々週の末日までに、従業員に対して書面で通知すること
山口
従業員10人未満の小規模小売業(特例対象事業)が一週間単位の非定型的変形労働時間制を導入する場合には、週44時間の法定労働時間の特例は適用されません(週40時間を超えた労働時間に対して割増賃金の支払が必要)。

フレックスタイム制

制度の仕組み

フレックスタイム制とは、日々の始業・終業時刻を従業員の裁量に任せる制度であり、清算期間を1ヶ月以内とした場合は週の平均労働時間が40時間以内、1ヶ月超とした場合は同様に週50時間以内であれば、特定の日に法定労働時間を超えて労働することができる。

山口
サイバーモールであればフレックスタイム制を導入できる余地アリかもしれませんが、シフト勤務のリアル店舗ではちょっと難しそうですね。

導入する要件

  • 清算期間が1ヶ月超の場合は労使協定を締結して所轄の労働基準監督署に届出すること
  • 清算期間中の総労働時間、標準的な1日の労働時間を労使協定に明記すること

導入時の注意

  • 清算期間を1ヶ月超とした場合でも、中途採用者の平均労働時間は週40時間が上限となる

未成年者や妊産婦の扱い

未成年者

学生アルバイトなどの未成年者については、前述の変形労働時間制ごとに定められた労働時間の上限が、次のとおり厳格化されている。

  • 一年単位の変形労働時間制~1日8時間、1週48時間を上限とする
  • 一ヶ月単位の変形労働時間制~1日8時間、1週48時間を上限とする
  • 一週間単位の非定型的変形労働時間制~週の労働日のいずれか1日を4時間以下にすること
山口
未成年者をフレックスタイム制度で働かせることは禁止されています。

妊産婦

妊娠中の女性および産後1年を経過しない女性を妊産婦といい、妊産婦が使用者に請求した場合には、一年単位の変形労働時間制、一ヶ月単位の変形労働時間制、一週間単位の非定型的変形労働時間制のいずれにおいても、法定労働時間を超えて労働させることはできない。

山口
勤務時間を従業員が柔軟に決めることができるフレックスタイム制度は、妊産婦にはむしろ都合が良いので、適用可能となっています。

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当サイトは主に小売業に従事する職場リーダーのために、店舗運営に必要な人事マネジメントのポイントを平易な文体でできる限りシンプルに解説するものです。よって人事労務の担当者が実務を行う場合には、事例に応じて所轄の労働基準監督署、公共職業安定所、日本年金事務所等に相談されることをお勧めします。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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