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02_労働安全衛生

公的健康診断の種類

2024年9月12日

公的健康診断の種類アイキャッチ

公的健康診断の全体像

労働者を対象とした公的健康診断には、法令で事業主に実施を義務付けている(労働者に受診義務のある)健康診断と、受診について労働者の任意とする健康診断がある。

法的義務のある健康診断

労働安全衛生法は、事業主に対し、労働者の健康状態を把握するための一般健康診断と、危険有害業務に従事する労働者の健康障害防止ための特殊健康診断および歯科医師による健康診断の実施を義務付けている。

<一般健康診断>

  • 雇入時の健康診断
  • 定期健康診断
  • 特定業務従事者の健康診断
  • 海外派遣労働者の健康診断
  • 給食従事者の検便

<特殊健康診断>

  • 高圧室内作業および潜水業務従事者の健康診断
  • 放射線業務従事者の健康診断
  • 特定化学物質業務従事者の健康診断
  • 石綿業務従事者の健康診断
  • 鉛業務従事者の健康診断
  • 有機溶剤業務従事者の健康診断
  • 四アルキル鉛業務従事者の健康診断

<歯科医師による健康診断>

  • 塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、フッ化水素、黄燐等のガスや粉塵にさらされる場所の作業従事者の健康診断

これらの健康診断は法律で定められた事業主の義務なので、健康診断に要する費用は事業主が全額負担する。なお健康診断を受診する時間は、一般健康診断は勤務時間外で構わないが、特殊健康診断と歯科医師による健康診断は就業の必須要件なので勤務時間扱いとなる。

派遣労働者の場合、一般健康診断は派遣元に、特殊健康診断は派遣先にそれぞれ実施および費用負担の義務がある。

任意で受診できる健康診断

労働安全衛生法以外の法律にも、独自の健康診断が定められている。これらは労働者が任意で受診するものなので、原則として事業主に費用を負担する義務は生じない。

  • 生活習慣病予防健診(健康保険法)
  • 特定健康診査(高齢者医療確保法)
  • 二次健康診断(労働者災害補償保険法)

これらの健康診断は、原則として受診を希望する者が、自ら健康診断を実施している医療機関に直接申し込みを行う。また事業主には受診時間を勤務時間扱いとする義務は無いため、受診を希望する労働者は各自の休日や休暇を利用して受診することになる。

公的健康診断の主な内容

一般健康診断

一般健康診断は、労働安全衛生規則に定める11項目の検査を実施する。実施の時期は、新たに労働者を雇い入れた場合もしくは1年以内に1回となっているが、新たに雇い入れた労働者が直近3ヶ月以内に受診した健康診断結果票を提出した場合は、雇入時の健康診断を省略できる。

雇入時の健康診断はあくまでも雇用後に労働者の健康状態を把握するためのものなので、採用選考のために応募者に健康診断結果票を提出させることは認められない。

<一般健康診断の検査11項目>

  1. 既往歴及び業務歴の調査
  2. 自覚症状及び他覚症状の有無の検査 
  3. 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  4. 胸部エックス線検査及び喀痰検査
  5. 血圧の測定
  6. 貧血検査
  7. 肝機能検査
  8. 血中脂質検査
  9. 血糖検査
  10. 尿検査
  11. 心電図検査

 一般健康診断は、使用者が受診対象者をとりまとめ、最寄りの医療機関に申し込みを行う。なお1年未満の有期雇用契約の者や、週の所定労働時間が正社員の3/4未満の者については、受診させる義務はない。

ただし厚生労働省のガイドラインでは、短時間労働者であっても、週の所定労働時間が正社員の1/2以上の場合は、健康診断を受診させるのが望ましいとしている。

特定業務従事者の健康診断

使用者は、健康上有害な業務に従事させる労働者(特定業務従事者)に対し、6ヶ月ごとに健康診断を受診させなければならない。健康上有害な業務は労働安全衛生法施行規則に明示されており、小売業では主に重量物取り扱い業務と深夜業務が該当する。

特定業務従事者の健康診断の実施内容は、一般健康診断と同じである。健康診断の費用は事業主負担だが、受診時間は勤務時間外として構わない。また1年未満の有期雇用契約の者や、週の所定労働時間が正社員の3/4未満の者については受診させる義務はない。

重量物の取り扱い等重激な業務

何キロをもって重量物取り扱い業務とするかについて、労働安全衛生法では具体的な定義を明示していない。一方で年少者労働基準規則、女性労働基準規則、労働基準局長通達の中で、労働者に取り扱わせることができる重量物の上限が規定されている。

労働法令に定める重量物の取り扱い制限一覧

小売業では労働者の高齢化により、職業性腰痛が労災認定される事例が増えている。また全産業における休業4日以上の職業性疾病のうち、およそ6割が腰痛に起因することから、短時間労働者も含めて健康診断を実施した方がよいと思われる。

深夜業を含む業務

事業主は、深夜業務に従事する労働者に対して、6ヶ月ごとに一般健康診断を受診させなければならない。ちなみに深夜業務とは、労働基準法に定める22時〜翌5時の業務をいい、小売業では、24時間営業のスーパーやコンビニなどの業態が該当する。

なお、6ヶ月間を平均して1ヶ月あたり4回以上の深夜勤務を行っている労働者が体調不良を感じた時は、次回の健康診断の前であっても健康診断を受診することができる(ただし受診日から3ヶ月以内に、健康診断結果通知書を職場に提出しなければならない)。

海外派遣者の健康診断

商品部のバイヤー職など、6ヶ月以上にわたって労働者を海外に駐在させる場合、事業主は、その労働者を海外に派遣する前および帰国した後に、一般健康診断に加えて厚生労働大臣が定める次の4項目の検査を受けさせなければならない。

<海外派遣時>

  • 腹部画像検査
  • 血液中の尿酸値
  • B型肝炎ウイルス抗体検査
  • ABO式とRH式の血液型検査

<帰国した時>

  • 腹部画像検査
  • 血液中の尿酸値
  • B型肝炎ウイルス抗体検査
  • 糞便塗抹検査

給食業務従事者の検便

労働安全衛生法では、給食業務に従事する労働者に対し、雇入時と給食業務に配置した時の検便を義務付けている。これは食中毒の多くが細菌性であり、食材は直接殺菌したり滅菌したりできないので、食中毒菌の保菌者が食材に触れた時に感染拡大する恐れがあるからである。

ゆえに給食業務従事者の検便は、労働者の健康のためというより、消費者の安全のために実施する検査である。なお労働安全衛生法の給食業務とは、健康増進法に規定する学校や病院に設置された給食施設での調理業務をいい、食品スーパーの惣菜部門などは該当しない。

ただし食品衛生法の食品等事業者に該当する場合は、惣菜部門や生鮮部門の担当者に対し、HACCPに準拠した計画的な検便を実施する必要がある。

生活習慣病予防健診

生活習慣病予防健診は、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している事業所において、35歳以上の者を対象に、がんの早期発見を目的として、一般健康診断の11項目に胃部レントゲンなどの検査を追加した健康診断である。

職場の健康診断の際に、「35歳を過ぎたら健康診断の項目が増えたな…」と感じた経験のある人は少なくないかもしれないが、これは35歳以上になると、定期健康診断に加えて、生活習慣病予防健診が追加されるからである。

生活習慣病予防健診は、法令によって事業主に実施を義務付けているものではないため、実施するかどうかは事業主の任意であり、健診費用を負担する義務もない。

ただし費用の一部を協会けんぽが負担してくれること、また大企業のように人間ドックを実施することが予算的に難しい中小企業では、自社の福利厚生の一環として、費用の差額を事業主が負担した上で、定期健康診断とセットで実施するケースが多い。

会計処理上は、定期健康診断は法定福利費、生活習慣病予防健診は福利厚生費で仕訳する。なお全ての労働者に公平に受診させる制度にしないと、特定の労働者に対する現物給与として源泉課税されるので注意が必要である。

特定健康診査

特定健康診査は、通称「メタボ健診」として知られている検査で、40歳〜74歳の健康保険(協会けんぽ、組合健保)の被保険者と被扶養者、国民健康保険の被保険者を対象に、メタボリックシンドロームの予防と改善のために行われる。

特定健康診査は、受診を希望する者が、勤務先を通さずに、自分が加入している健康保険に対して直接申し込みを行い、自宅に送付された受診券と健康保険証を持参して、健康診断を実施している医療機関にゆけば受診することができる。

特定健康診査は全額自己負担だが、加入している健康保険から費用の一部を補助してもらえる。なお二次健康診断以外の健康診断は、医療保険の適用外なので、受診しようとする医療機関に、あらかじめ健診料金を確認しておくことをお勧めする。

二次健康診断

二次健康診断は、過労死の原因となる脳疾患や心疾患の発症を予防することを目的とした健康診断であり、労働安全衛生法の定期健康診断において、①血圧、②LDLコレステロール、③血糖値、④BMI測定値の全てに異常があった場合に、受診することができる。

二次健康診断を受診するかどうかは労働者の任意だが、受診費用は全て労災保険が負担してくれる。なお二次健康診断については、どこの医療機関でも受診できるわけでなく、労災指定病院などに限られており、受診できるのは年1回までとなっている。

健康診断を実施した後の措置

健康診断結果通知書の取り扱い

一般健康診断および特殊健康診断、歯科医師の健康診断、生活習慣病予防健診を受診すると、事業主宛に労働者ごとの健康診断結果通知書が、それぞれ2通送られてくるので、速やかに1通を本人に渡し、もう1通は事業場で5年間保管しなければならない。

さらに常時50人以上の労働者を使用する事業場は、所轄労働基準監督署に健康診断結果報告書を提出する義務がある。

健康診断結果通知書は特定個人情報に該当するので、特定個人情報管理区域(通常は本社人事部)のキャビネットで施錠保管しなければならない。

異常所見者に対するフォロー

健康診断の結果に異常の所見があった労働者がいた場合、事業主は、健康診断の受診日から3ヶ月以内に、その労働者の健康管理のために留意すべき事項について産業医の意見を聴き、衛生委員会で報告した上で、勤務時間の短縮や業務の変更などの措置を講ずる義務がある。

異常所見者について産業医から聴取した内容は、意見書としてまとめたり、その労働者の健康診断結果通知書(会社控)に付記するなどの方法で記録し、健康診断結果通知書とあわせて5年間保存しなければならない。

公的健康診断の概要まとめ

公的健康診断は種類が多く、根拠法令もそれぞれ異なるため、人事担当者でもこれらの制度を体系的に把握できていない者が少なくない。また各制度の目的や趣旨を正しく理解していないために、実施義務者や費用負担者などを誤って運用しているケースも多々あると思われる。

特に労働安全衛生法に定める健康診断については、実施を怠ったり、特定個人情報を漏洩したりすると、事業主や使用者に懲役刑や罰金刑などが科されるため、店長など使用者の立場にある者は、これを機会に事業場の健診事務を再点検し、あるべき運用に是正する必要がある。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニやスーパーの販売職を経て三十路を機に人事業界に転身。20年以上にわたり人事部門で勤務先の人事制度改革に携わった後に起業。社会保険労務士試験合格。日商販売士1級、建設業経理士1級、FP技能士2級など多数取得。

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