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02_労働安全衛生

ハラスメント防止措置

ハラスメント防止措置

職場のハラスメントが経営に及ぼす影響

職場における主なハラスメント

ハラスメント(Harassment)とは、嫌がらせやイジメを意味する言葉である。日本の職場では、仕事における優位性を背景に、相手に対して不快感や不安感を与え、業務の遂行に支障をきたしたり、職場のモラルやモチベーションを悪化させる行為を指す。

職場の主なハラスメントには、パワハラ(身体や精神に対する暴力)、セクハラ(性的な要求や言動)、マタハラ(妊産婦に対する嫌がらせ)、パタハラ(育児に対する偏見)、モラハラ(人格や尊厳を傷つける言動)などがあり、人事管理上の大きな問題となっている。

ハラスメントの原因と問題

ハラスメントが起きやすい職場の特徴には、服務規律が明確でないこと、従業員教育が十分に行われていないこと、人材を育成できる管理監督者がきちんと育っていないこと、信賞必罰が公明正大に行われていないこと、社内コミュニケーションが悪いことなどがある。

もし経営者が自社のハラスメントに正面から向き合わずに放置すると、有能な従業員の離職、職場のモラルと生産性の低下、労災事故の多発、若手人材の採用難、企業イメージの低下、損害賠償請求訴訟などの法的リスクの増大、消費者の不買運動、企業競争力の低下などを招く。

パワーハラスメント

パワハラの定義

厚生労働省は職場のパワーハラスメントを「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させる行為」と定義している。

パワハラというと一般的には上司から部下に対して行われるものという認識があるが、部下達が結託して上司に対して嫌がらせを行う場合や、同僚の間で、特定の労働者を標的にして仲間外れにするなどの職場イジメもパワハラに該当する。

パワハラの6類型

  • 精神的な攻撃
    【例】同僚の目の前で叱責される。他の職員も宛先に含めてメールで罵倒される。必要以上に長時間、繰り返し執拗に叱る。
  • 身体的な攻撃
    【例】叩く、殴る、蹴るなどの暴行を受ける。丸めたポスターで頭を叩かれる。
  • 過大な要求
    【例】新人では仕事のやり方もわからないのに他の人の仕事までおしつけられ、同僚は皆先に帰ってしまった。
  • 過小な要求
    【例】運転手なのに営業所の草むしりを命じられた。事務職なのに倉庫業務を命じられた。
  • 人間関係からの切り離し
    【例】1人だけ別室に移される。性的指向、性自認などを理由に、職場で無視するなどコミュニケーションをとらない。送別会に出席させない。
  • 個の侵害
    【例】交際相手について執拗に問われる。妻に対する悪口を言われる。

パワハラ防止措置

経営者や管理職が行為者となる場合は、自分はエリート階級だというおかしな思い込みや精神論に偏った稚拙な人材マネジメント、一般社員が行為者となる場合は職場に服務規律が存在せず信賞必罰が徹底されていない、年功や関係官庁からの天下りで据えられたお飾り的な管理職が特定の従業員におもねって、まともに職責を果たしていないといった要因が考えられる。

セクシャルハラスメント

セクハラの定義

厚生労働省は、セクハラを「職場(出張先や懇親会の場も含む)において行われる、性的な要求や言動に対する労働者の反応により、その労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により職場環境が害されること」と定義している。

なおセクハラの認定には行為者の意図は関係ない。事後になって行為者が「下心は無かった」「コミュニケーションの一環だった」「ほんの冗談のつもりだった」などと見苦しい弁解をしても、被害者が不快に感じれば、それだけでセクハラが成立する。

セクハラの2類型

  • 対価型セクハラ
    対価型セクハラとは、労働者の意に反する性的な要求に対して、労働者が拒否したり、抵抗したことを理由に、その労働者を解雇、降格、減給、雇い止めするなど、不利益な処遇を行うことをいう(肉体関係を拒んだら労働契約を更新しない等)。
  • 環境型セクハラ
    環境型セクハラとは、労働者の意に反する性的な言動により、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響を及ぼすなど、その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいう(女性社員の前でわざと猥談する等)。

セクハラ防止措置

セクハラには女性から男性に対するものも含まれるが、統計では男性役職者から女性部下に対し懇親会などの場を悪用してセクハラが行われるケースが圧倒的に多いため、まず経営者がセクハラに潔癖な姿勢を社内外に示すこと、そして通報窓口(人事部長等)を設置し、セクハラ行為に対しては厳しい態度で臨む必要がある。

カスタマーハラスメント

カスハラの定義

厚生労働省はカスタマーハラスメントを「顧客等からのクレームや言動のうち、クレームや言動の要求の内容が妥当性を欠き、要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当であるために、労働者の就業環境が害されるもの」としている。

一方でクレームマネジメントは販売の質改善に有用であり、昔から小売業界ではクレーム対応はロイヤルカスタマー創出のチャンスとも言われているが、対応に先立ち自社のクレームポリシーを確立し、有益なクレームと不当な要求を見極める工夫が必要となる。

カスハラの類型

厚生労働省の定義するカスタマーハラスメントとは主に次の4つをいう。

  1. 顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合
  2. 企業の提供する商品やサービスに瑕疵や過失が認められない場合
  3. 要求内容が企業の提供する商品やサービスと関係がない場合
  4. 要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動

また要求内容が一見妥当にみえる場合であっても、次の2点に該当する場合には、やはりカスタマーハラスメントに該当するとしている。

1)要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの

  • 身体的な攻撃(暴行、傷害)
  • 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
  • 威圧的な言動
  • 土下座の要求
  • 継続的で執拗な言動
  • 拘束的な行動(不退去、居座る、監禁)
  • 差別的な言動
  • 性的な言動
  • 従業員個人への攻撃、要求

2)要求内容の妥当性に照らして不相当とされる可能性が高いもの

  • 商品交換の要求
  • 金銭補償の要求
  • 謝罪の要求(土下座を除く)

カスハラ防止措置

クレームを受けたら安易にカスハラと決めつけず、クレームの内容をよく聴取し、どう解決するのがベターなのか、顧客ファーストで検討した上で、誠実に対応すべきだが、暴行や脅迫、恐喝などの刑事犯罪に該当する場合は、躊躇せずに最寄りの警察に通報すべきである。

また定年退職した警察官を防犯顧問として受け入れ、有事の際に備えて警察とのパイプを構築しておいたり、日頃より商品管理、施設管理、従業員教育、店内外の整理整頓などを徹底し、悪質クレーマーに付け入る隙を与えないように自衛策を講じることも有効だと思われる。

ハラスメントに関連した法令

ハラスメント防止措置の義務

労働施策総合推進法はパワハラ防止措置を、また男女雇用機会均等法はセクハラとマタハラに対する防止措置を、さらに育児介護休業法ではパタハラとケアハラ(介護休暇の取得に対するハラスメント)の防止措置を、使用者に対してそれぞれ義務付けている。

安全配慮義務

労働契約法に規定する使用者の安全配慮義務は、ハラスメントの被害に対しても当然に及ぶものとされており、使用者が職場のハラスメントを黙認したり放置したために、被害に遭った労働者が経済的損失を被った場合には、民事上の損害賠償責任を負う可能性がある。

派遣労働者に対するハラスメント

派遣労働者が、いわゆる派遣イジメなど、派遣先でのハラスメントによって休職や離職を余儀なくされた場合に、派遣先の事業主は使用者責任にもとづき、被害に遭った派遣労働者および派遣元の被った経済的損失に対して、民事上の損害賠償責任を負う可能性がある。

精神疾患の労災認定基準の改正

令和5年9月に労働者災害補償保険法の労災認定基準が改正され、従来のパワハラやセクハラに加えて、新たにカスハラ(カスタマーハラスメント)によって精神疾患を発症した場合の労災認定基準が追加された。

精神疾患による労災の認定は、従来よりハラスメントの程度によって「強・中・弱」の3段階によって判定されることになっているが、中程度のハラスメントであっても、使用者が黙認していたり、放置していた場合には「強」として判定される(労災認定されやすい)点に注意が必要である。

個別労働関係紛争解決制度

使用者がハラスメントを放置した場合、労働関係調整法にもとづき、労働組合が職場環境の改善要求にかかる団体交渉を申し入れてくる可能性がある。もし自社に労働組合がなかったとしても、被害に遭った労働者が地域合同労組を通じて団体交渉を申し入れることは可能であり、使用者はこれを拒否できない。

労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法、労働者派遣法、パートタイマー・有期雇用労働法、障害者雇用促進法といったハラスメントに遭いやすい労働者の保護を目的とした法令には、個別労働関係紛争解決法とは別に、紛争調整委員会による調停を行う規定が設けられている。

ハラスメント防止措置のまとめ

20年にわたっていくつかの企業で人事労務の実務を担当してきた経験から申し上げると、パワハラの多い職場は、経営者や管理職が精神論に偏りがちでマネジメントスキルが未熟であり、また職場において服務規律が教育されておらず、信賞必罰が徹底されていないために、使用者から労働者に至るまで組織全体の民度が低いという共通の特徴がある。

セクハラの場合は、昭和チックなウェットな人間関係を良しとする職場風土が根強く残っており、セクハラくらい男の甲斐性みたいなものだといった古い価値観の経営トップがいることが原因である。今どき清濁併せ呑むなどといった考え方はOSのアプデ終了と同義であり、自らの組織を衰退に導く元凶となることをよく自覚すべきだろう。

カスハラについてはマーケティング思考があれば自ずからモンスタークレーマーへの対応は決まってくる。そもそもお客様は神様ではない。売り手と買い手がウインウインの関係でもって、長きにわたって共栄共存できるパートナーでなければならない。売り手の事情などお構いなしに一方的に理不尽な要求ばかりしてくるような輩は、客とみなさなければ良いのだ。

 

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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