求人情報ガイドライン
求人情報ガイドラインの概要
求人情報提供ガイドラインは、粗悪な求人広告による募集時や採用時のトラブルを防止するため、2017年に求人広告メディア各社が連携して、求人情報提供事業者の倫理要項や、求人情報を提供する際に明示すべき事項などをガイドライン化したものである。
求人情報提供ガイドラインにおいて、求人広告メディアは、求職者が応募先を選択する際の判断のための情報として、求人元企業に対し、次の項目について情報提供を求め、各種求人媒体の求人情報欄に掲載することとしている。
<掲載にあたり明示すべき項目>
〜新卒採用・中途採用共通項目
①求人企業の正式名称および所在地
②事業内容
③仕事内容(職種名または職務内容)
④雇用形態・雇用期間の定めの有無
⑤就業の場所
⑥就業時間
⑦賃金(採用時に支払われる最低支給額)
⑧試用期間や見習い期間と内容
⑨応募資格(必要な学歴、経験、公的資格等)
⑩応募方法
<掲載にあたり明示するよう努力する項目>
〜新卒採用・中途採用共通項目
Ⓐ時間外勤務の状況、休憩時間、裁量労働制等の場合はその旨
Ⓑ休日
Ⓒ適用される社会保険、労働保険
Ⓓ昇給制度がある場合はその旨
Ⓔ賞与制度がある場合はその旨
Ⓕ退職金制度がある場合はその旨
Ⓖ通勤交通費が支給される制度がある場合はその旨
Ⓗ定年制度がある場合はその旨
Ⓘ従業員数(法人・事業所)
Ⓙ資本金額
Ⓚ創業、法人設立年
Ⓛ就業場所における受動喫煙防止のための取り組み
〜新卒採用のみ適用される項目
Ⓜ新卒メディアの場合は過去に採用実績のある主な出身学校名および若者雇用促進法における職場情報
次のA~Cの各類型ごとに1項目以上
A)募集・採用に関する状況
①直近3事業年度の新卒採用者数・離職者数
②直近3事業年度の新卒採用者数の男女別人数
③平均勤続年数
B)職業能力の開発・向上に関する状況
①研修の有無および内容
②自己啓発支援の有無および内容
③メンター制度の有無
④キャリアコンサルティング制度の有無および内容
⑤社内検定等の制度の有無および内容
C)雇用管理に関する状況
①前年度の月平均所定外労働時間の実績
②前年度の有給休暇の平均取得日数
③前年度の育児休業取得対象者数・取得者数(男女別)
④役員に占める女性の割合および管理的地位にある者に占める女性の割合
適合宣言メディアについて
ハローワークに求人票を公開している企業をターゲットに、無料と偽って自社に求人広告を出稿するように勧誘して、後日に高額な広告料を請求する詐欺まがいの業者が問題となってていたことから、求人情報提供ガイドライン適合宣言メディア企業制度が創設された。
これは求人情報提供ガイドラインに準拠した求人広告の提供に自発的に取り組んでいる優良メディアを、求人情報提供ガイドライン適合メディア宣言企業として公表するものである。ただし、この制度は2025年5月末までとなっており、すでに新規受付は終了している。
前述の制度に代わり、2022年より優良募集情報等提供事業者認定制度がスタートした。これは求職者と求人社が安心して求人情報などを利用できるよう、法令遵守、個人情報保護、募集情報等の表示や苦情対応について一定の基準をクリアした事業者を認定するものである。
2024年分については8月28日より求人情報を提供する事業者および求職者情報を提供する事業者を対象に、説明会の参加受付が始まっている。
求人情報に関する法令
雇入れ時の労働条件の明示
労働基準法は、新たに労働者を雇い入れる場合はその者に対して法令に定める労働条件を明示することを使用者に義務づけている。明示すべき労働条件には絶対的必要明示事項と相対的必要明示事項があり、非正規雇用者についてはあわせて特定事項も明示する。
さらに労働契約法では、使用者は労働契約を締結する時に、応募者が労働契約の内容を誤解しないように、できる限り書面でもってわかりやすく明示する義務を定めている。これらの詳細は別の記事で解説しているので、あわせてご確認頂ければと思う。
なお、労働基準法の絶対的必要明示事項と相対的必要明示事項および特例事項は、求人情報ガイドラインに定める明示項目と重複しており、求人情報の内容がそのまま雇用条件の明示とみなされる場合があるため、検討の際に留意すべきである。
令和5年の労働基準法改正により、採用後に転勤や配置転換を行う場合は、直近の異動の予定も明示する義務が追加された。さらに明示された労働条件が入社後のものと著しく異なる場合は、労働者は即時に労働契約を解除することができる。
令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます(厚生労働省)
求人条件を検討する際の注意事項
女性差別の禁止
労働基準法では、女性であることを理由に、給与条件を男性よりも低くすることを禁止している。また男女雇用機会均等法では、労働者の募集、採用、昇進、昇給、教育訓練など、人事に関するあらゆる処遇について、男女差別を禁止している。
年齢差別の禁止
労働施策総合推進法は、事業主は労働者の募集および採用について、年齢に関わらず均等な機会を与えなければならないとしている。また高年齢者雇用安定法は、60歳未満の定年制の禁止、雇用継続や再雇用など65歳までの雇用確保措置を事業主に義務付けている。
あわせて高年齢者雇用安定法は、労働者の募集・採用において65歳未満の年齢制限を設ける場合は、求職者に対してその理由を示す義務も定めている。
障害者差別の禁止
障害者雇用促進法は、事業主は労働者の募集および採用について、障害者の有無に関わらず均等な機会を与えなければならないとしている。また障害者雇用促進法、パートタイム・有期雇用労働法は障害の有無や雇用身分による不合理な差別的労働条件を禁止している。
求人申し込みの不受理
職業安定法にもとづき、ハローワークは、これら諸々の法令に違反する求人や、法令で明示が義務付けられている労働条件を明示しない求人の申し込みを受理しないことができる。
求職者の職業選択のための情報の公表
新卒者等に対する職場情報の公表
若者雇用促進法は、新卒採用でのミスマッチによる早期離職を解消し、若者が充実した職業人生を歩んでゆけるよう、事業主に対して労働条件を的確に明示すること、および就活生から問い合わせがあった場合は、事業主は次の情報を提供しなければならない義務を定めている。
①募集・採用に関する状況
②職業能力の開発・向上に関する状況
③職場への定着促進に関する実施状況
正規雇用への転換促進のための求人情報の提供
パートタイマーや契約社員、派遣社員などの非正規雇用者は雇用が不安定なので、次の法令では、事業主が新規に正規雇用の募集・採用を行おうとする場合は、まず非正規雇用者に求人情報を提示し、正規雇用への転換を行うように義務付けている。
(1)パートタイム・有期雇用労働者法では、使用者は、新たに正社員を募集・採用する場合、まずパートタイマーや契約社員に対し、次のいずれかの方法で、正社員への転換を促さなければならないと定めている。
①求人情報の周知
②社内公募等で応募の機会を提供する
③正社員登用試験を実施する
(2)労働者派遣法でも、使用者は、次のいずれかの事業所で新たに人材の募集・採用を行う時は、まず派遣社員に対し、求人情報を提示しなければならないとしている。
①同一の職場で同一の派遣労働者を1年以上継続して受け入れている事業所
(正社員の募集・採用に限る)
②同一の職場で同一の派遣労働者を3年間受け入れる予定の事業所
(派遣元が派遣先に直接雇用を依頼し、派遣社員が派遣先への就職を希望する場合)
募集・採用をめぐるトラブルが起きた時
労働紛争解決のための法令はいくつか存在するが、これらは原則として労使間のトラブルを解決するための法令であり、いまだ労使関係に至っていない求人者と求職者との間のトラブルには対応していない。
しかし近年は募集・採用をめぐる求人者と求職者との間の紛争が増えていることから、個別労働関係紛争解決促進法にて、募集・採用時のトラブルが発生した時は、都道府県労働局が紛争解決のための情報提供および相談、助言・指導などを行ってくれることになっている。
求人情報のまとめ
昭和→平成→令和への移行とともに、採用を取り巻く社会経済環境や雇用慣行は激変している。そこでこれからの時代の採用活動において留意すべき点などについて紹介させて頂き、本記事を終わりとしたい。
マーケティング思考にもとづく採用
自社にふさわしい人材を採用し、できるだけ長く働いてもらうには採用時のミスマッチを最小限に抑えることである。ミスマッチ防止のポイントは、求職者の知りたい情報をリサーチし、ニーズに適合した情報を求職者にとって適切なタイミングと手段でアピールすることである。
一方で行き当たりばったりの採用を行っている企業に限って、自社に都合の悪い情報を伏せて求人情報を提示し、採用してしまえば諦めて大人しく働くだろう…などと考えている場合もあるが、結局は早期離職を招き、不適切な採用手法をSNSで暴露されるのがオチである。
ジョブ型雇用による柔軟な人材活用
超高齢・人口減少社会では、新卒一括採用を前提とした年功序列型組織および正規雇用を中核とした雇用身分に基づく人事制度など構築できない。ゆえにジョブ型雇用と適所適材人事制度を確立し、性別、年齢、人種、雇用身分に関係ない柔軟な採用を行う必要がある。
ジョブ型雇用と適所適材人事制度とは、LSPにもとづき社内業務を職務ごとに細分化し、細分化した職務に適材を配置してゆく人員配置の方法である。そこには経営者の個人的好き嫌いや社歴の長短、雇用身分による評価や処遇が入り込む余地はない。
完成品ばかり欲しがらない
人材難の時代にあっても依然として完成品の人材を欲しがる経営者は少なくない。しかし今の御時世にそんな人材を地方の中小企業が獲得するのは至難の業である。したがってできるだけ程度の良い仕掛品を発掘し、自前で完成品に仕上げるといった発想が必要である。
それにはオリジナリティある自社独自の人材教育制度が不可欠である。また有能な人材ほどエンプロイアビリティ(他社でも通用する能力)を重視するため、辞められたら損などといった狭量な考えは捨て、人材ファーストの教育システムを作り上げてゆくべきだろう。