人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、歯科医師5名、歯科衛生士12名が在籍する大規模な歯科クリニックです。現在、歯科衛生士のリーダーである「主任歯科衛生士(チーフ)」の待遇について悩んでいます。
主任は、スタッフのシフト管理や新人教育に加え、新しい歯科器材の導入選定や、材料メーカー等との打ち合わせも担当しています。先日、取引先のカレンダー(土日稼働)に合わせ、主任が土曜日と日曜日にメーカー担当者と新製品導入の打ち合わせを行いました。
当院では、主任を労働基準法上の「管理監督者」として扱っており、役職手当を支給する代わりに、日頃の残業代や休日手当は支給していません。しかし、今回主任から「土日に仕事をした分、せめて平日に振替休日が欲しい。それが無理なら休日手当を出してほしい」と相談がありました。
- 主任歯科衛生士が「管理監督者」に該当する場合、土日の業務に対して休日手当を支払う必要はないという認識で正しいでしょうか?
- 本人の希望通り「振替休日」を認めると、本人の裁量が否定され、逆に「管理監督者ではない(=残業代を支払うべき一般労働者である)」とみなされるリスクはありますか?
- 「管理監督者は労働時間管理の対象外」と聞きましたが、どれだけ長時間働かせても、院長がその時間を把握したり、健康を気遣ったりする必要はないのでしょうか?
ご相談への回答

歯科クリニックの組織化において、主任やチーフを「管理監督者」として処遇するケースは多いですが、その実態が伴っていなければ、後に多額の未払い残業代請求を招く恐れがあります。また、法的な「休日」の規定は適用外であっても、安全配慮義務は免除されません。
管理監督者の休日手当と「深夜割増」の注意点
労働基準法第41条により、「監督若しくは管理の地位にある者(管理監督者)」については、労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されません,。 したがって、主任が真に管理監督者に該当するのであれば、日曜日のような法定休日に労働させても、35%以上の休日割増賃金を支払う義務はありません,。
ただし、注意が必要なのは「深夜割増(午後10時〜午前5時)」です。管理監督者であっても、深夜業に関する規定は適用されるため、打ち合わせが深夜に及んだ場合は、25%以上の深夜割増賃金を支払わなければなりません,。
「振替休日」の付与と管理監督者性の関係
事務長様が懸念されている「振替休日を認めると管理監督者性が否定されるのでは」という点については、むしろ逆です。
管理監督者の要件の一つに、「自らの出退勤について裁量権を持っていること」があります,。 会社側が「振替休日は認めない、有給休暇を使え」と硬直的な対応をすることは、本人の裁量を否定していると捉えられかねません。むしろ、土日に仕事をした分、本人の判断で平日に休みを取れるような「自身の出退勤に裁量がある実態」があることこそが、管理監督者として認められるための重要な根拠となります。
労働時間把握の義務と「安全配慮義務」
「管理監督者は労働時間管理の対象外」というのは、あくまで「労働基準法上の残業代計算」の話です。労働安全衛生法においては、管理監督者を含めたすべての労働者について、事業者は客観的な方法で労働時間を把握する義務を負っています。
また、労働契約法に基づく「安全配慮義務」も免除されません。 たとえ管理監督者であっても、土日出勤により「7日連続勤務」が常態化するような状況は、心身の健康を損なうリスク(脳・心臓疾患や精神障害)を高めます。もし過重労働で主任が倒れた場合、時間を把握していなかったとしても、院長は安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる恐れがあります。
本件のポイント

- 管理監督者は休日手当・時間外手当の対象外だが、深夜割増賃金は支払う必要がある。
- 管理監督者が自身の判断で振替休日(代休)を取得することは、出退勤の裁量がある証拠となり、管理監督者性を補強する材料になる。
- 労働安全衛生法に基づき、管理監督者であっても日々の労働時間を客観的に把握(タイムカード等)しなければならない。
- 1ヶ月の時間外・休日労働が80時間を超える場合は、医師(産業医)による面接指導の対象となり得るため、適切な健康管理が不可欠である。
- 「安全配慮義務」は役職に関係なく発生するため、連勤や長時間労働を放置することは重大な経営リスクとなる。
単に「肩書き」を与えるだけでなく、経営者と一体的な立場にふさわしい権限と待遇(役職手当等)を与えつつ、健康を守るための時間管理を徹底することが、主任に長く活躍してもらうための健全なガバナンスといえます。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。