人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院に勤務するパートの歯科助手(Bさん)の労働条件と残業代について相談です。 Bさんとは現在、以下の内容で労働契約を結んでいます。
- 契約時間: 1日4時間45分(休憩なし)
- 出勤日数: 週4日(月・火・木・金)
- 週の合計: 19時間(20時間未満)
Bさんは「家庭の事情で、雇用保険には加入せず、扶養の範囲内で働きたい」と希望しており、当院もそれに応じる形で週19時間の契約としました。
しかし、歯科クリニックの現場では、急患の対応や診療の延長により、どうしても定時で上がれないことが多々あります。先日も診療が長引き、Bさんが1日6時間勤務する日がありました。
院長として、以下の点を確認させてください。
- 契約上の「4時間45分」を超えて「6時間」働いた場合、超過した1時間15分については「残業代」として割増賃金を支払う必要があるのでしょうか?
- 今後、突発的な残業が続き、週の合計が「20時間」を超えてしまった場合、本人の希望に関わらず雇用保険に加入させなければならないのでしょうか?
- そもそも契約書に「週20時間未満とする」と定めておけば、残業が発生しても雇用保険の加入を回避できるのでしょうか?
ご相談への回答

歯科クリニックの運営において、パートスタッフの労働時間管理は、賃金計算の適正さと雇用保険の加入義務という2つの側面で非常に重要です。結論から申し上げますと、法定労働時間の範囲内であれば通常の時給で足りますが、雇用保険については「契約」よりも「就労の実態」が優先される点に注意が必要です。
「所定」と「法定」による残業代計算の違い
労働時間には、クリニックで決めた「所定労働時間」と、法律で定められた「法定労働時間」の2種類があります。
- 所定労働時間: 貴院とBさんが契約した「4時間45分」
- 法定労働時間: 労働基準法が定める上限である「1日8時間・週40時間」
Bさんが1日6時間働いた場合、契約上の4時間45分を超えた「1時間15分」は残業となりますが、これは8時間の枠内に収まっているため、「法定内残業」と呼ばれます。 この「法定内残業」については、通常の時給(1.0倍)を支払えば法的に問題ありません。もし、1日の勤務が8時間を超えた場合には、その超えた時間に対して25%以上の割増賃金(1.25倍)の支払いが必要となります。
雇用保険加入基準(週20時間)への影響
雇用保険は、以下の要件を両方満たす場合に、事業主・労働者の意思に関わらず強制加入となります。
- 31日以上の雇用見込みがある。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上である。
突発的な残業により一時的に週20時間を超えただけであれば、直ちに加入義務が生じるわけではありません。しかし、残業が常態化し、実態として週20時間以上の勤務が継続している場合には、契約書の内容にかかわらず加入させなければなりません。
労働契約と実態の乖離に関する法的リスク
ご質問の「週20時間未満と定めておけば加入を回避できるか」という点ですが、法律は「契約書の名目」よりも「就労の実態」を重視します。
実態として週20時間以上働いているにもかかわらず、本人の希望や契約書の記載を理由に雇用保険に加入させないことは、「雇用保険法違反」となります。 この状態で放置し、万が一の未加入が発覚した場合には、過去に遡って保険料を徴収されるだけでなく、クリニックに対して厳しい罰則(刑事罰や延滞金等)が科されるリスクがあります。
本件のポイント

- 1日8時間までの残業は「法定内残業」であり、割増なしの通常の時給支払いで足りる。
- 雇用保険の加入判定は「契約」だけでなく「実態」が重視されるため、週20時間以上の就労が常態化していないか注視が必要である。
- 残業代を1分単位で計算・支給することは、労働基準法の「賃金全額払いの原則」に基づく義務である。
- 本人が「扶養内で働きたい」と希望していても、実態が加入基準を満たせば強制加入となることを丁寧に説明し、理解を得ることが実務上の正解である。
急患対応等で労働時間が変動しやすい歯科現場だからこそ、正確な勤怠記録(タイムカード等)に基づき、実態に即した労働契約の締結と適切な賃金支払いを行うことが、最大のコンプライアンス対策となります。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。