当サイトはアドセンス広告およびアフィリエイト広告を利用しています。

004_給与計算のFAQ

【賞与】業績連動賞与の一部を月給へ組み込む。主任歯科衛生士への「実質減額」の妥当性

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

依頼者からのご相談

首をかしげる医師

当院は、スタッフ12名(歯科医師、歯科衛生士、助手、受付)が勤務する歯科クリニックです。現在、賞与制度の見直しを検討しています。

当院の賞与は「業績連動型」を採用しており、目標達成率に応じて年間最大5.0ヶ月分を支給してきました。しかし、昨今の採用難により月々の固定給を引き上げて求人力を強化するため、賞与原資のうち「0.5ヶ月分」をカットし、その分を毎月の基本給に組み込む(前払い化する)案が出ています。

事務長からの提案では、以下の運用を予定しています。

  1. 主任クラス(歯科衛生士 Aさん等):賞与0.5ヶ月分を月給へ組み込み、月々の手取りを増やす。
  2. 一般職(歯科助手 Bさん等):月給への組み込みは行わず、賞与の支給基準のみを「最大4.5ヶ月(従来は5.0ヶ月)」へ引き下げる。

この変更について、スタッフから以下の質問や不満が出ています。

  • 「目標達成率が100%であっても、従来の5.0ヶ月から4.5ヶ月に減るのは不利益変更ではないか?」
  • 「主任だけ月給が上がり、一般職は賞与の期待値だけ下がるのは不公平だ」

経営の安定と求人力強化のための変更ですが、法的な妥当性と実務上の進め方を教えてください。


相談への回答

できるビジネスパースン

賞与の一部を月給へ組み込む制度変更は、一見すると「年収総額が変わらない」ように見えますが、計算の仕組み上、「不利益変更」と「不当な待遇格差」の2つの法的リスクを孕んでいます。

賞与減額による「期待権」の侵害リスク

労働基準法において賞与は、就業規則に定めがある場合、その支給基準は労働条件の一部となります。

  • 一般職への影響:従来の基準(100%達成で5.0ヶ月)を、特段の代償措置(月給増など)なしに「4.5ヶ月」へ引き下げることは、労働者にとって純粋な不利益となります。これは、将来得られるはずだった賃金に対する「期待権」の侵害とみなされる可能性が高いです。
  • 有効性の要件:この変更を有効にするには、クリニックの経営上の高度な必要性があること、不利益を緩和する措置(経過措置)があること、そしてスタッフ代表との誠実な協議と周知が不可欠です。

管理職(主任)と一般職のバランス

「主任には月給として還元し、一般職には還元しない」という区別自体は、職責の重さに基づいた合理的な理由があれば直ちに違法とはなりません。

  • 説明責任:なぜ主任クラスに限定して固定給化(安定化)を図るのか、その目的(責任の重さや役割の変化など)を職務要件(ジョブ・ディスクリプション)と紐づけて客観的に説明できる準備が必要です。
  • 不合理な格差の回避:同一労働同一賃金の観点から、非正規雇用スタッフが含まれる場合は、正社員との待遇差が不合理にならないよう特に注意が必要です。

実務的な解決策:激変緩和措置の提案

スタッフの納得感を得るために、以下のような「激変緩和措置」をセットで提示することを推奨します。

  • 調整給の導入:賞与が減る分、年収が下がってしまう一般職に対し、一定期間(例:1〜2年)は「調整手当」を支給し、手取り額が急激に減らないように配慮します。
  • 達成基準の見直し:ご相談の事例のように、高い目標(達成率115%以上など)を達成した場合には、従来以上の月数(例:6.0ヶ月)を支給する仕組みを設け、頑張り次第で年収が増える「夢」を残す設計にします。
  • 個別面談の徹底:一方的な通告ではなく、一人ひとりと「人事評価面談」を行い、制度変更の趣旨を丁寧に説明します。部下の成長を応援するための面談という姿勢が、不信感を払拭する鍵となります。

本件のポイント

気づきを得た白衣の男性
  • 賞与基準の引き下げは、代償措置がない限り「不利益変更」に該当するリスクが高い
  • 管理職のみにメリット(月給組み込み)を集中させる場合は、職責に基づいた客観的な説明が求められる
  • 「サービス・プロフィット・チェーン(SPC)」の視点を持ち、職員の満足度(ES)が下がれば診療の質と患者満足(PS)も下がることを認識すべきである
  • 制度変更の際は、労使間での十分な協議と、激変緩和措置(調整給など)による丁寧な合意形成がガバナンス維持の鉄則である

「求人力を高めるための固定給アップ」という目的は正当ですが、既存スタッフのロイヤルティ(忠誠心)を損なっては本末転倒です。制度の「合理性」と「誠実なプロセス」を両立させた運用を心がけましょう。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

-004_給与計算のFAQ