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002(制度概要)_労働保険

労働保険の年度更新は労働保険料の算定と納付の方法を押さえる

労働保険の年度更新は、労働者を一人でも使用する事業者であれば、毎年夏場(6月1日~7月10日)に発生する年次のルーティーンです。労働保険の年度更新に苦手意識をもつ経営者も少なくありませんが、本記事では仕組みと手続きの要点について解説します。

労働保険の年度更新とは?

社会保険の保険料納付との大きなちがい

社会保険(健康保険料および厚生年金保険料)は、被保険者(個人)ごとにその月の標準報酬月額(あるいは標準賞与額)にもとづいて、報酬支払いの都度保険料が算定されます。保険料は労使で折半して負担し、翌月末日までに日本年金機構を通して納付する仕組みです。

一方の労働保険料は、原則として保険年度(4月1日から翌年3月31日まで)に当該事業場の労働者に支払った賃金の総額を基礎として、事業場単位でまとめて算定します。この保険料を年に一度、6月1日から7月10日までの間に申告・納付する手続きが「年度更新」です。

労働保険の年度更新は年末調整に似ている

さらに労働保険料を納付する際は、まずその年度の賃金見込額に基づく「概算保険料」を先に納付し、年度終了後に実際の賃金実績にもとづく「確定保険料」を算定して、その差額を精算するという独特の方式を採っています。

具体的には、年度更新の時期に「前年度の確定額の申告」と「当年度の概算額の納付」を同時に行います。この仕組みは、毎月の給与から概算で所得税を源泉徴収し、年末に確定させた年税額と精算する「年末調整」に近い考え方といえます。

労働保険の年度更新のやりかた

当年度の概算保険料を算定する

概算保険料は、その年度(4月〜翌3月)に従業員に支払う予定の賃金総額の見込額に、労災・雇用の保険料率を乗じて算出します。

  • 原則:当該年度の賃金総額の見込額を用いて計算します。
  • 例外:賃金総額の見込額が、前年度の賃金総額の「100分の50以上200分の100以下」の範囲内にある場合は、見込額ではなく、前年度の賃金総額(確定額)と同じ額を、概算保険料の算定基礎とします。

職員数の大きな増減や賃金テーブルの大幅な改定がなければ、「例外」ルールで概算保険料を算定するのが一般的です。

前年度の確定保険料を算定する

確定保険料は、前年度の1年間に実際に支払った賃金の総額にもとづいて計算します。

  • 支払確定の基準:賃金総額には年度内に支払いが確定した未払いの賃金も含まれます。例えば「末締め・翌月払い」のクリニックで3月分の給与が4月に支払われる場合でも、3月分の賃金は前年度の確定保険料の算定基礎に含める必要があります。
  • 遡及昇給の扱い:過去に遡って昇給が決定し、差額が支払われた場合、その差額分はそれぞれの年度の労働の対価として、該当する年度の賃金総額に振り分けて算入します。つまり損益計算書と同様に、支払いベースではなく発生ベースで計上します。

概算額と確定額の差額を精算する

申告書において、前年度に納付済みの「概算保険料」と、賃金を支払った実績にもとづき算出した「確定保険料」を相殺し、差額の精算を行います。

  • 概算保険料<確定保険料:確定額が概算額を上回る場合は、その差額を不足分として当年度の概算保険料と併せて納付します(不足分を追納)。
  • 概算保険料>確定保険料:概算額が確定額を上回る場合は、その超過額を還付請求するか、あるいは当年度の概算保険料等へ充当して相殺します。

労働保険料の納付のしかた

概算保険料の納付(分割可能)

当年度分の概算保険料は一括納付が原則ですが、概算保険料が40万円(労災保険か雇用保険のいずれかのみ適用される事業場なら20万円)以上の場合、または労働保険事務組合に事務を委託している場合は、年3回に分けて分割納付(「延納」といいます)することができます。

  • 第一期:7月10日迄(一括納付する場合の納付期日と同じ)
  • 第二期:10月31日迄(労働保険事務組合に委託した場合は11月14日迄)
  • 第三期:1月31日迄(労働保険事務組合に委託した場合は2月14日迄)

納付の方法は、銀行等の金融機関(日本銀行)での窓口納付のほか、事前に申出をすることで口座振替を利用できます。口座振替を希望しない場合は、ペイジー(Pay-easy)納付が便利です。事務所のパソコンから365日24時間いつでも保険料の納付が可能です。

確定保険料の納付

前年度の不足分(確定精算分)については、概算保険料と異なり延納(分割納付)は認められておらず、原則どおり一括納付する必要があります。ただし概算保険料の納付時に保険料の大部分を納付済ですので、追納するのは概算額と確定額の差額のみです。

認定決定の場合は要注意

事業主が期限までに申告書を提出しない場合や、申告した労働保険料の額が間違っているなど申告書の記載に誤りがある場合は、都道府県労働局の歳入徴収官が職権によって、本来納めるべき労働保険料の額を決定する「認定決定」が行われます。

  • 納付告知書:確定保険料が認定決定されると、通常の「納付書」ではなく、当局が金額を指定する「納入告知書」が送付されます。認定決定にかかる納付告知書が送られてきた場合、15日以内に指定された額の保険料を納付する義務があります。
  • 追徴金のペナルティ:確定保険料の認定決定を受けた場合、本来納めるべき保険料のほかに、その100分の10に相当する額の「追徴金」が課せられるため、労働保険の年度更新は、期限内かつ正しい内容での申告が不可欠です。

労災保険に特別加入している場合は?

労災保険の特別加入(第一種特別加入制度)

労災保険は本来「労働者」を対象とした制度ですが、医療法人あるいは個人開業の院長であっても、労働者に準じて業務に従事している実態がある場合、「第一種特別加入」制度によって、労災保険へ任意加入することができます。

特別加入者の保険料は、本人が選択した「給付基礎日額」に365日を乗じた「保険料算定基礎額」に、事業場と同じ労災保険料率を乗じて算出します。保険料算定基礎額は、3,500円から25,000円までの16段階の区分において、本人が希望する額を選択します。

労働保険の年度更新は労働保険事務組合が代行

中小事業主が特別加入するためには、「労働保険事務組合」に労働保険事務の処理を委託することが必須要件となります。したがって院長が労災保険の第一種特別加入者である場合は、労働保険の年度更新は労働保険事務組合が代行してくれます。

  • 事務組合ができること:保険料の申告・納付、保険関係成立の届出、特別加入の手続きなどの代行が可能です。事務組合に委託することで、保険料の額に関わらず延納が可能になる、第2期・第3期の納期限が約2週間猶予されるといったメリットもあります。
  • 事務組合ができないこと:労災・雇用の「保険給付」に関する請求(休業補償の請求など)や、雇用保険の「二事業」(助成金の申請など)に関する事務は、委託の範囲に含まれていないため、自院の側で行う必要があります。

当事務所でも北海道SR経営労務センターあるいは中小企業福祉事業団の労働保険事務組合に加入できます。労働保険の年度更新は煩雑ですので、社会保険労務士にそっくり事務を委託してしまい、院長先生は診療に専念するという選択肢も一考の価値アリでしょう。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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