人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
【早期退勤】片付け早期終了時の退勤打刻と賃金計算の注意点
依頼者からのご相談

当院は、院長である私のほかに、常勤の歯科衛生士3名、受付・歯科助手2名(スタッフ計5名)が勤務する外来専門の歯科クリニックです。
当院の診療時間は18:30までですが、診療後の器材の洗浄・滅菌処理や衛生材料の補充、チェア周りの清掃などの後片付け時間を見込んで、所定の終業時刻を19:00と設定しています。
しかし、患者数が少なかった日などは予定よりも早く後片付けが終了することがあります。先日も18:40頃にはすべての片付けが終わったため、スタッフが18:45に退勤打刻をして帰宅しました。
そのことについて事務長から「当院の終業時刻は19:00までなのだから、仕事が早く終わっても19:00まで院内に待機させるべきではありませんか。また18:45に帰宅させた場合は、不就労となった15分間を早退扱いとして賃金カットすべきではありませんか。」と言われました。
- 片付けが早く終わった際、院長承認のもと、所定終業時刻(19:00)より前に退勤打刻をさせて帰宅させることに法的な問題はありますか?
- 繰り上げて帰宅させた場合、不就労となった15分間の賃金を「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき控除することは可能でしょうか?
- 19:00まで院内に待機させる運用と、退勤時刻を繰り上げる運用はどちらが合理的でしょうか?
ご相談への回答

貴院の承認のもとで18:45に退勤打刻を行い帰宅させること自体は法的に可能ですが、使用者の都合で退勤させた以上、19:00までの15分間分を早退扱いとして賃金カットすることはできず、所定の19:00まで勤務したものとみなして賃金の全額を支払う義務があります。
繰り上げ退勤は「早退」に該当しない
労働基準法における労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている状態」を指します。使用者の指示や承認によって所定の終業時刻前に退勤した時点で、労働者は労働の義務を免除され、指揮命令下から完全に脱することになります。
したがって勤務先の判断で繰り上げ退勤させた部分は労働時間ではありませんので、「早退」には該当しません。また、打刻については「実際に指揮命令下を脱した時刻」を客観的に記録するのが原則であるため、18:45に退勤したのであれば、18:45の打刻記録をそのまま残す必要があり、事後的に19:00に訂正するような行為は、勤怠記録の改ざんとみなされます。
ノーワーク・ノーペイと民法の賃金請求権
不就労時間分の賃金を控除できる「ノーワーク・ノーペイの原則」は、労働者個人の私的な理由(遅刻、私用早退、欠勤など)で労務を提供できなかった場合に適用される法理です。業務が早く終了したからといって、使用者の都合で労働時間を終了(労務の受領を拒否)した場合には、ノーワーク・ノーペイの原則は適用されません。
さらに民法第536条第2項の規定により、使用者の責めに帰すべき事由(勤務先の指示による繰り上げ退勤)によって労働者が就労する機会を失った場合、労働者は本来獲得できたはずの所定の賃金(反対給付)を使用者に対して全額請求する権利を有します。
そのため月給制や時給制などの賃金形態を問わず、使用者の指示または承認により繰り上げ退勤させた15分間について賃金を差し引くことはできません。所定の終業時刻まで勤務したものとして賃金の全額を支払わなければなりません。
院内留め置きのリスクと所定労働時間の有効活用
事務長が懸念される「19:00まで院内に留まらせる」運用についても注意が必要です。所定の終業時刻まで職場に待機させる(業務命令)以上、賃金の支払いが発生しますが、単に規定を忠実に守らせるためだけに、時間を潰させるだけの不合理な待機はスタッフのモチベーション低下にもつながります。
したがって繰り上げ退勤させるのであれば所定の終業時刻までの賃金を保障する、あるいは繰り上げ退勤の要因となるアイドルタイム(暇な時間)そのものを生じさせないようなオペレーション上の工夫が必要となります。
- 繰り上げ退勤を認める場合: 退勤打刻は業務が終了した時に実態通りに行わせ、繰り上げ退勤した時は所定労働時間を働いたものとして、賃金控除を行わずに全額支給します。ただし職場単位あるいは年度単位での人件費ロスは無視できない額になると思われます。
- ワークスケジュールの整備:日常的に実施できない業務(待合室の清掃、歯科材料等の整理整頓など)を予め月次・年次のワークスケジュールに落とし込み、アイドルタイムが生じた場合に、それらの業務を所定の終業時刻まで実施させるようルール化します。
本件のポイント

- 当院の指示・承認のもとで所定終業時刻を繰り上げて退勤させた場合、労働義務が消滅した時間に対して早退扱いとすることはできない。
- 打刻は実際に退勤した時刻で行う必要があり、事後的に所定の終業時刻まで勤務したかのように打刻データを修正(改ざん)してはならない。
- ノーワーク・ノーペイの原則は労働者の私的事由による不就労に適用されるため、使用者側の都合による繰り上げ退勤には適用されない。
- 繰り上げ退勤によって就労の機会を失った労働者は、民法第536条第2項に基づき、所定労働時間分の賃金請求権を取得する(賃金カットできない)。
- 人件費ロスを回避するには、日常的に実施できない業務を月次や年次のワークスケジュールに落とし込み、アイドルタイムに実施させる運用が有効。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


