人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院の歯科衛生士が、診療室での器具洗浄・滅菌作業中に誤って鋭利なインスツルメントで手指を深く切創し、全治約2週間(14日間)の療養を要する業務災害が発生しました。被災した職員本人から、「労災保険は給与の6割しかもらえないため、手取りが減らないように手持ちの年次有給休暇を充てて療養したい」との強い要望がありました。
このように、休業期間を本人の希望により年次有給休暇で処理し、労災保険の休業補償給付を請求しない場合であっても、所轄労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」を提出する必要はあるのでしょうか?
ご相談への回答

年休を充当した場合でも報告義務がある
結論から申し上げますと、労災事故による療養のために年次有給休暇を充当した場合であっても、労働者死傷病報告を提出しなければなりません。
労働安全衛生規則第97条において、事業者は労働者が労働災害その他就業中等の負傷・疾病により死亡し、または休業したときは、所轄労働基準監督署長に報告しなければならないと規定されています。
労働者が療養のために労務に服せない状態であれば、賃金支払いの形態が年次有給休暇であっても実質的な「休業」に該当します。労災保険からの休業補償給付を受けないからといって、報告義務が免除される特例は存在しません。
労働者死傷病報告を行う際の注意事項
労働者死傷病報告の提出期限は、休業日数によって次のように区分されています。
- 休業4日以上:事故発生後、遅滞なく提出
- 休業4日未満:四半期ごと(1〜3月、4〜6月、7〜9月、10〜12月)にまとめ、各期間の翌月末日までに提出
本件では約14日間の休業が見込まれるため「休業4日以上」に該当し、遅滞なく所轄労働基準監督署へ提出する必要があります。また、労働安全衛生関係の届出については原則として電子申請(e-Gov電子申請等)による提出が義務付けられている点にも留意が必要です。
年休処理に伴う「労災隠し」リスク
被災職員の希望に基づき、休業補償給付に代えて年次有給休暇を充当して100%の賃金を保障すること自体は違法ではありません。しかし、年次有給休暇を充当したことを理由に労働者死傷病報告を提出しなかった場合、行政当局から業務災害の発生を隠蔽した「労災隠し」と判断されるリスクが極めて高いといえます。
労災隠しは労働安全衛生法違反(50万円以下の罰金など)として送検・処罰の対象となる重大な違法行為です。職員からの要望であっても、労災事故の発生報告は事業者の公的な義務であるため、適正に報告書を提出しなければなりません。
なお、労災保険の付帯事業に「被災労働者援護事業」というものがあり、労災保険の保険給付とセットで特別支給金が給付されます。例えば休業補償給付金(平均賃金の約6割)が支給される場合は、休業特別支給金(平均賃金の約2割)が加算されます。
本件のポイント

- 労災事故による療養で年次有給休暇を充当した場合であっても、休業の事実に変わりはなく、労働者死傷病報告の提出義務は免除されない。
- 休業日数が4日以上の労災事故については、事故発生後「遅滞なく」所轄労働基準監督署長へ報告書を提出しなければならない(4日未満は四半期ごとの翌月末日)。
- 労働者死傷病報告などの届出は、原則として電子申請によって行うことが義務付けられている。
- 本人の希望による有休処理であっても、報告を怠ると「労災隠し」として労働安全衛生法違反(刑事罰)に問われる重大なリスクがある。
- 休業補償給付(特別支給金を含め約8割補填)と年次有給休暇の権利消化について本人に正しく説明し、納得を得た上で適正な労務手続きを行う必要がある。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


