人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談
当院は、歯科医師・歯科衛生士・助手を合わせて12名が勤務する歯科クリニックです。
これまで、労働基準法に基づき年次有給休暇(年休)を付与してきましたが、2年の消滅時効により使い切れずに失効してしまう有休が毎年発生しています,。スタッフのモチベーション向上と福利厚生の充実のため、この失効する有休を一定数まで積み立て、特定の目的に使用できる「ストック休暇(積立有休)」制度を導入したいと考えています。
スタッフからは「小学校のPTA活動」や「不妊治療」にも使わせてほしいという要望が出ています。そこで制度設計にあたって以下の点について教えてください。
- 「PTA活動」や「自己研鑽(資格取得)」などを対象に含める際、トラブルを防ぐための留意点はありますか?
- 産前産後休業や育児・介護休業、健康診断の受診時間など、他の制度との調整はどのようにすべきでしょうか。
- スタッフが通常の有休ではなく「ストック休暇」を優先して使いたいと言った場合、認めてもよいのでしょうか?
ご相談への回答
歯科クリニックのような専門職が活躍する現場において、スタッフのライフイベントやキャリア形成を支える「ストック休暇」は、離職防止に繋がる非常に有効な施策です。積立有休は法定外の福利厚生制度であるため、その対象範囲や運用ルールを就業規則で明確に定めておくことがガバナンスの要となります。
対象事由の限定列挙と運用の工夫
ストック休暇は、通常の有休とは異なり「利用目的」を限定することができます。
- PTA活動: 役員会や公式行事への出席など、適用範囲をあらかじめ定めておくことで、承認を巡るトラブルを防止できます。
- 不妊治療・自己研鑽: 近年ニーズが高まっている事由です。他にも「裁判員休暇」や「資格取得のための試験休暇」などを想定しておくと、スタッフの利便性が高まります。
- 私傷病・看護・介護: 一般的には「私傷病での長期欠勤(例:7日超)」や、法定の「子の看護休暇」「介護休暇」を使い切った際の上乗せとして設定するケースが多いです,。
他の休業・休暇制度との調整
- 産前休業・育児・介護休業: 労働者がこれらの休業を申し出た際、ストック休暇を取得する余地はありませんが、ストック休暇が「賃金全額支給」の設計であれば、公的な「出産手当金」や「育児・介護休業給付金」よりもスタッフにとって経済的に有利になります。そのため、スタッフがどちらを優先するか選択できるような設計にすることも一案です。
- 産後休業: 産後8週間(医師が認めた場合は6週間)は労働基準法で就労が禁止されている期間であるため、本人の意向に関わらずストック休暇を充当することはできません,。
- 健康診断: 一般健康診断の受診時間は原則として無給でも構いませんが、厚生労働省の指針では「労働時間として扱うことが望ましい(有給が望ましい)」とされています。そこでストック休暇を充当させる前に、まずは受診時間の扱いを整理しましょう,。
「時効」を意識した利用優先順位の考え方
実務上、スタッフが「通常の有休(時効2年)」よりも「ストック休暇(特定の時しか使えない)」を先に使いたいと希望することがあります。
しかし、年次有給休暇は労働者の心身の疲労回復が目的であり、消滅時効があるものです,。「先入れ・先出し(古い有休から消化する)」を原則とし、ストック休暇は「通常の有休を使い切った後」や「特定の事由に該当した場合のみ」利用できるというルールにすることが、スタッフの権利(有休の時効失効)を守る観点からも望ましいといえます。
本件のポイント
- ストック休暇の対象事由(PTA活動、不妊治療、自己研鑽等)を就業規則に具体的に明記し、承認基準を明確にする。
- 「産後休業」は就労禁止期間のためストック休暇は使えない。産前や育休・介護休業については、給付金との有利不利を考慮してスタッフが選択できる余地を残す。
- 健康診断の受診時間は「労働時間(有給)」として扱うことが強く推奨されている。
- 通常の有休(法定)には2年の時効があるため、原則として通常の有休を優先的に消化させ、ストック休暇は「いざという時の予備」として位置づける運用が合理的である。
スタッフが安心して長期的にキャリアを形成できる環境を整えることは、診療の安定とクリニックのブランド向上に直結します。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。