人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

歯科クリニックの院長です。当院に勤務する歯科衛生士が、実母の介護のために「介護休暇」を取得したいと申し出てきました。当院の就業規則では、介護休暇の申請時に「要介護認定を受けていることを証明する書類」の提出を求めています。
しかし、本人からは「まだ認定申請中だが、急ぎ通院の付き添いが必要だ。プライバシーに関わることなので、あまり詳しく書類を出したくない」と言われました。
そこで以下の点について教えてください。
- 介護休暇の申請に「要介護認定証」のコピー提出を義務付けることは法的に可能でしょうか?
- 制度の要件である「2週間以上の常時介護を要する状態」であることを確認するために、医師の診断書を求めるべきですか?
- スタッフに過度な心理的負担をかけず、かつ不正取得を防ぐための実務的な運用方法を教えてください。
ベテランの衛生士なので、介護を理由とした離職は何としても避けたいと考えています。
ご相談への回答

介護と仕事の両立支援は、歯科クリニックの貴重な人材を守るための重要なガバナンス課題です。結論から申し上げますと、要介護認定証の提出を絶対的な条件とすることは法令違反となるリスクが高く、確認は本人の「申出書」による弾力的な運用が推奨されます。
介護休暇と介護保険の「認定」は別物
混同されやすいのですが、育児・介護休業法の「介護休暇」と、介護保険法の「要介護認定」は、根拠法令も目的も異なる制度です。
- 介護保険法の認定: 40歳以上が対象であり、保険給付の可否を判定するためのものです。
- 育児・介護休業法の介護休暇: 介護を理由とした労働者の離職防止を目的としており、対象家族の年齢に制限はありません。
したがって、要介護認定を受けていない(あるいは対象外の年齢である)家族であっても、心身の状態により介護が必要であれば休暇を取得する権利があります。認定証の提出を必須とすることは、この法定の権利を不当に制限することになり、適切ではありません。
「2週間以上の状態」の確認方法とプライバシー
介護休暇の対象となるのは、負傷、疾病又は身体上・精神上の障害により、「2週間以上の期間にわたり常時介護を要する状態」にある家族です。
この状態を確認するために医師の診断書を求めることは、直ちに違法とはなりませんが、スタッフに過度の金銭的・心理的負担を強いることになり、プライバシー配慮の観点からも望ましくありません。 厚生労働省の指針では、「労働者が対象家族の状態を記載した申出書」などの提出でも十分であるとされています。
実務的な運用と「時間単位」の活用
トラブルを防ぎ、スタッフが安心して制度を利用するためのポイントは以下の通りです。
- 申出書の活用: 専用の様式を用意し、①対象家族の氏名・続柄、②介護が必要な状態の概要、③2週間以上の期間が見込まれる旨、を本人が記入して提出する運用にします。
- 時間単位の取得: 介護休暇は、時間単位(始業から連続、または終業まで連続)での取得も可能です。歯科クリニックの診療の合間や、早退しての通院付き添いなどに柔軟に対応できるよう、ルールを周知しましょう。
- 助成金の活用: 介護休暇を「有給」としたり、仕事と介護の両立支援に関する「介護離職防止支援コース」等の助成金を活用したりすることで、クリニックのコスト負担を軽減しながら離職防止を図ることができます。
本件のポイント

- 「要介護認定証」の提出を休暇の条件にすることは、育児・介護休業法違反となるリスクがある。
- 介護が必要な状態の確認は、診断書ではなく「本人の申出書」による運用が実務上適切である。
- 介護休暇は「申し出」のみで取得できる法定の権利であり、使用者が拒否することはできない。
- 日頃から「健康情報取扱規程」を整備し、スタッフの機微な個人情報を適切に守る姿勢を示すことが、信頼関係の構築と定着率向上に繋がる。
歯科衛生士のような専門職に長く活躍してもらうためには、「家族の危機」をクリニック全体で支える文化が必要です。過度な証明を求めず、ルールに基づいた誠実な対応を心がけましょう。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。