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004_給与計算のFAQ

【1ヶ月単位の変形労働時間制】月の総枠(177.1h等)を超えたら残業代を支払う…じゃダメなのか?

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

依頼者からのご相談

首をかしげる医師

当院は院長である私と、スタッフ8名(歯科衛生士、助手、受付)が勤務する歯科クリニックです。ちなみに当院はスタッフが10人未満のため、いわゆる「特例対象事業場」として、週44時間までの労働が認められていると聞きました。

現在、診療の繁忙期に合わせて「1ヶ月単位の変形労働時間制」を導入しており、就業規則には「1ヶ月の法定労働時間の総枠(31日の月は177.1時間、30日の月は171.4時間)を超えた時間について残業代を支払う」と定めています。

しかし、事務長から「月末に総枠を超えたかどうかを確認するだけでは、計算ミスや未払い残業代が発生するリスクがある。日単位や週単位でもチェックが必要だ。」と指摘されました。

  1. 1ヶ月単位の変形労働制であっても、月末の「総枠」を超えたかどうかだけで残業代を清算してはいけないのでしょうか?
  2. 具体的に、どのような順番で残業時間を計算するのが正しい実務ですか?
  3. 「月の総枠を超えていないから残業代はゼロ」という処理が違法になるケースを教えてください。

ご相談への回答

できるビジネスパースン

1ヶ月単位の変形労働時間制は、業務の繁閑に合わせて労働時間を効率的に配分できる便利な制度ですが、残業代の計算については「月末の一括清算」という誤った運用が非常に多く見られます。結論から申し上げますと、残業代は「日単位」→「週単位」→「月単位」の3ステップで順に判定しなければならず、月末の総枠に収まっていても日・週単位で発生した残業代は支払う義務があります

残業時間を判定する「正しい3ステップ」

変形労働時間制における時間外労働(割増賃金の対象)は、以下の順番で集計します。

  • ステップ1:日単位
    • あらかじめ8時間を超える時間を定めた日は「その時間」を超えた分。
    • それ以外の日は「8時間」を超えた分。
  • ステップ2:週単位
    • ステップ1でカウントした時間を除き、あらかじめ40時間(特例対象事業場は44時間)を超える時間を定めた週は「その時間」を超えた分。
    • それ以外の週は「40時間(同44時間)」を超えた分。
  • ステップ3:月単位(変形期間全体)
    • ステップ1および2でカウントした時間を除き、変形期間の法定労働時間の総枠(31日の月なら177.1時間)を超えた分。

なぜ「月末の一括清算」が危険なのか

「実労働時間の合計 - 月の総枠 = 残業時間」という計算を行うと、「日単位での超過」と「別の日での早退・不足」を勝手に相殺してしまうことになります。

労働基準法では、一度発生した「日単位の残業代(割増賃金)」を、別の日の不就労で打ち消すことは認められていません。これを放置すると、月末の計算上は残業がゼロに見えても、実態としては「割増賃金の未払い」が発生し、労働基準監督署の調査で遡及支払いを命じられるリスクがあります。

「月の総枠」はあくまで上限の目安

ご相談にある「177.1時間(31日の月)」などは、その期間内に収まっていれば「週40時間」という原則の枠外で働かせても法違反にならないという「免罰効果」の基準です。

特に歯科クリニックに多い特例対象事業場(従業員10人未満)では、週平均44時間まで総枠を広げられますが、それでも「日単位で8時間を超えて働かせた分」をその日の残業代として正しく認識し、支払うことがガバナンスの基本となります。


本件のポイント

気づきを得た白衣の男性
  • 残業代は月末の総枠だけで判断せず、「日・週・月」の順で段階的に計算しなければならない。
  • ある日の残業と別の日の早退を月単位で「相殺」する処理は、賃金未払い(労基法違反)となるリスクが極めて高い。
  • 月の法定労働時間の総枠(177.1時間等)は、あくまで変形労働制が法的に有効に機能するための「上限枠」である。
  • 「テックジャパン事件」等の判例でも、各日・各週で生じた時間外労働への割増賃金支払いは、月の総枠に関わらず義務であるとされている。

変形労働時間制を正しく運用することは、スタッフの不信感を払い、ホワイトな職場環境をアピールする強力な武器になります。まずは勤怠システムの設定が「3ステップ計算」に対応しているか確認することをお勧めします。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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