人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、歯科医師3名、歯科衛生士5名、歯科助手・受付4名が勤務する歯科クリニックです。
昨今の地域別最低賃金の引き上げを受け、スタッフの給与が法令基準を下回っていないか再点検しています。特に、今年から「歯科衛生士リーダー(士長)」という役職を設け、月額1万5,000円の「士長手当」を支給し始めたスタッフのケースで迷っています。
事務長から「最低賃金のチェックにおいて、基本給以外の各種手当をどこまで含めて計算してよいのかルールがよくわからない…」と指摘されました。
- 「士長手当」のような役職手当は、最低賃金の計算対象に含めてもよいのでしょうか?
- 逆に、計算から除外しなければならない手当にはどのようなものがありますか? 歯科でよくある「精皆勤手当」の扱いはどうなりますか?
- 時給換算額を算出する際の、正しい計算手順を教えてください。
法違反による是正勧告などのリスクを避け、適正な賃金管理を行いたいと考えています。
ご相談への回答

地域別最低賃金の引き上げは、毎月の固定給で雇用しているスタッフであっても、その時給換算額をチェックする義務を事業主に課しています。結論から申し上げますと、「士長手当(役職手当)」は最低賃金の計算に含めることができますが、残業代や賞与、家族・通勤・精皆勤手当などは除外して計算しなければなりません。
最低賃金の計算に「含めてよい賃金」と「除外すべき賃金」
最低賃金の対象となるのは、毎月支払われる基本的な賃金です。名称にかかわらず、実質的に以下の項目を除外した残りの金額で判定します。
- 除外すべき賃金(最低賃金に算入できないもの)
- 臨時に支払われる賃金(慶弔見舞金など)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与、決算手当など)
- 割増賃金(時間外手当、休日手当、深夜手当)
- 家族手当、通勤手当、精皆勤手当(労働の対価性が乏しいもの)
- 算入できる賃金(最低賃金の計算に含めてよいもの)
- 基本給
- 役職手当(士長手当、チーフ手当など)
- 資格手当、職務手当
慣習的に支給されることが多い「精皆勤手当」については、法令により除外賃金として指定されているため、最低賃金のチェック時には含めることができない点に注意が必要です。
時給換算額の算出ステップ
月給制のスタッフが地域の最低賃金をクリアしているか確認するには、以下の手順で計算します。
- 対象賃金の抽出: 月給総額から、上記の「除外すべき賃金(残業代、賞与、家族・通勤・精皆勤手当)」を除算します。
- 1か月平均所定労働時間の算出: 年間の総所定労働時間を12か月で割って算出します。
- 時給換算: 「対象賃金の月額 ÷ 1か月平均所定労働時間」で算出された額が、地域の最低賃金額以上であれば適法です。
歯科経営におけるガバナンスとES(職員満足)
最低賃金はあくまで「合法的な最低水準」にすぎません。歯科衛生士のような高度な専門職を確保・定着させるためには、最低賃金を守ることは当然の義務であり、その上で職責に応じた「士長手当」などの処遇を明確にすることが重要です。
- サービス・プロフィット・チェーン(SPC)の視点: 職員の処遇への納得感(ES)が診療の質を高め、患者満足(PS)と経営改善に繋がります。
- 職務記述書(JD)の活用: リーダーとしての役割(教育指導、在庫管理など)を明確にし、それに見合った手当を支給することで、同一労働同一賃金の観点からも合理的な説明が可能となります。
本件のポイント

- 士長手当(役職手当)は、最低賃金の計算基礎に含めることができる。
- 精皆勤手当、家族手当、通勤手当、賞与、残業代は、最低賃金の判定から必ず除外する。
- 固定残業代(みなし残業)を導入している場合、その部分は「割増賃金」に該当するため、最低賃金の判定対象には含められない。
- 最低賃金以上の支払いは「事業主の法的義務」であり、1円でも下回れば50万円以下の罰金(地域別最低賃金の場合)の対象となり得る。
- 適切な給与設計と説明責任を果たすことは、スタッフとの信頼関係を築き、クリニックのガバナンスを強化する基盤となる。
最低賃金改定のタイミングは、自院の賃金体系を総点検し、より透明性の高い、スタッフが安心して働ける環境を整える絶好の機会です。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。