当サイトはアドセンス広告およびアフィリエイト広告を利用しています。

002(制度概要)_労働保険

労災保険メリット制を活用して人件費管理と職員満足度を両立する

医療経営において、人件費の管理と職員の労働安全は重要課題です。その中でも「労災保険のメリット制」は、自院における安全衛生への取り組みが直接的に労災保険料に反映される制度ですので、メリット制を理解して無用な労務コストを抑制しなければなりません。

労災保険のメリット制とは?

労災保険のメリット制の目的

労災保険のメリット制とは、連続する3年間に発生した労災事故の多寡(収支率)に応じて、労災保険料率または確定保険料の額を最大40%の範囲内で増減させる制度です。

この制度の目的は、労働災害の防止に積極的に取り組んでいる事業主を正当に評価して経済的メリット(保険料の減額)を与える一方で、労働安全衛生の対策を怠り、労災事故が多い事業主には経済的ペナルティ(保険料の増額)を課すことにあります。

これにより、事業主の自主的な安全衛生意識を喚起し、職場環境の改善を促しています。

医療機関もメリット制の対象

メリット制は、一定の規模以上の事業場が対象となります。医療機関の場合、以下の要件を満たす必要があります。なお原則的なメリット制は、厚生労働大臣が職権で判定を行うため、要件(人数や収支率)に該当すれば自動的に適用されます。

  • 原則的なメリット制(主に病院等):連続する3保険年度の各年度において、100人以上の労働者を使用する事業場
  • 特例メリット制(中規模以上の診療所等):20人以上100人未満の労働者を使用する事業場で、かつ災害度係数(後述)が0.4以上であるもの。

ここでいう「労働者数」には、正職員だけでなく、パートやアルバイト、および労災保険の第1種特別加入者(院長など)も含まれます。なお、このメリット制は労災保険料に関する制度であり、雇用保険料には一切影響しません。

労災保険料が調整される仕組み

労災保険の給付実績で判定する

メリット制の判定に用いられる「収支率」は、連続する3保険年度を一つの単位として集計されます。例えば、令和8年度の保険料率を決定する場合、その前の3年間(令和4年度〜令和6年度)の労災保険の給付実績がカウントの対象となります。

なお労働保険年度は、4月から翌年3月までをいいます。したがって前述の例では、令和4年の4月から令和7年の3月における労災保険の給付実績をもとに、令和8年4月から適用される労災保険料の率を決定する…という意味です。

メリット制の収支率の計算方法

判定指標となる「収支率」は、以下の計算式で算出されます。

収支率=保険給付の額+特別支給金の額/保険料の額×第1種調整率

この収支率が85%を超える場合は「デメリット状態」として保険料率が引き上げられ、75%以下の場合は「メリット状態」として保険料率が引き下げられます。引き上げ・引き下げの幅は、非業務災害率(0.6/1000※後述)を除いた部分の最大40%の範囲内です。

調整後の労災保険料率の適用時期

メリット制の結果として改定された保険料率は、判定期間の最終年度(基準日:3月31日)の「次の次の保険年度」から適用されます。先ほどの令和4〜6年度の実績に基づく改定率であれば、令和8年度の概算・確定保険料から適用されることになります。

診療所は特例メリット制を活用せよ

原則的なメリット制との違い

中小規模の医療機関(使用する労働者数が20人以上100人未満)が対象となる「特例メリット制」には、原則的な制度と異なる点があります。最大の特徴は、保険料の増減幅が最大45%と、原則的なメリット制(40%)よりも大きく設定されている点です。

また、原則的なメリット制が要件を満たせば自動的に適用されるのに対し、特例メリット制は「労災保険率特例適用申告書」の提出が必要であり、さらに判定期間中に労働者の安全や衛生を確保するための一定の措置(労働安全衛生対策)を講じていることが要件です。

医療機関の労働安全衛生対策

人数要件を満たしたクリニックが特例メリット制の恩恵を受けるためには、次のような労働安全衛生対策が有効です。

  • 針刺し事故や感染症への曝露防止対策:医療安全管理委員会や院内感染対策委員会と連携し、事故原因の調査と再発防止策を徹底する。
  • 健康診断の事後措置の徹底:職業性腰痛などの有所見者に対する医師の意見聴取や就業上の措置を適切に行い、職員の重症化を防ぐ。
  • メンタルヘルス対策:ストレスチェックを実施し、高ストレス者への面接指導を確実に実施することで、精神障害による労災を防ぐ。

その他補足事項

災害度係数と非業務災害率

非業務災害率は、通勤災害や複数事業労働者への給付、二次健診等に充てる保険料率で、現在は一律で1,000分の0.6です。事業主の努力で防ぎきれない事故等の費用であるため、メリット制の収支率計算(保険料の増減判定)の基礎からは除外されます。

災害度係数は、従業員20人以上100人未満の事業場に適用される「特例メリット制」の判定指標です。計算式は「労働者数×(労災保険率−非業務災害率)」で、0.4以上であることが適用の要件となります。

DPC(包括算定)対象病院では内部原価管理が適正な医業収益確保の要となることから、メリット制や特例メリット制の恩恵を受けられると医業費用の抑制に結びつきます。労災事故も減るので職員満足度もアップし、医療経営にとって一石二鳥の効果が見込めます。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


(画像をクリックすると問い合わせフォームが起動します)

  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

-002(制度概要)_労働保険