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02_経理のしごと

医療会計の基本を押さえる②「貸借対照表(B/S)の読み方と活用法」

筆者は人事部出身の社会保険労務士ですが、かつて建設会社で8年、総合病院で2年にわたり経理部門で年次決算や資金繰りなどの実務にも携わっていました(1級建設業経理士、日商簿記2級、FP技能士2級)。本カテゴリーでは、元経理マンとしての筆者の経験などを踏まえつつ、歯科クリニック経営に資する財務会計の基礎知識をご紹介します。

貸借対照表の目的

貸借対照表(BalanceSheet:B/S)は、一定時点(通常は決算日)における歯科クリニックの財政状態を明らかにするための基本財務諸表です。

損益計算書が「1年間でどれだけ稼いだか(営業活動の成果)」というフローの業績を示すのに対し、貸借対照表は「これまでに蓄積された資産や負債がどのようになっているか(資産や借金の期末残高)」というストックの状態を示します。

歯科経営においては、高額な診療ユニットやレントゲン・CT等の設備投資、開業資金や運転資金にかかる借入金の状況を正確に把握し、クリニックの財務的な健全性や将来の支払能力(安全性)を確認するために極めて重要な役割を果たします。

貸借対照表の構成

貸借対照表は、複式簿記の原則に基づき「借方(左側)」と「貸方(右側)」に分かれており、両者の合計額は必ず一致します。

貸借対照表のイメージ図
  • 借方(左側・資産の部):調達した資金がどのような財産や設備として保持・運用されているかを示す「資金の運用形態」を表します。
  • 貸方(右側・負債の部および純資産の部):事業に必要な資金をどこから調達してきたかを示す「資金の調達源泉」を表します。
    • 負債の部:銀行借入金など、将来返済しなければならない「他人資本」です。
    • 純資産の部:開設時の出資金や過去の利益の蓄積(利益剰余金)など、返済不要なクリニックの正味財産である「自己資本」です。

なお、資産と負債は、決算日の翌日から1年以内に現金化・返済されるかどうか(ワン・イヤー・ルール)等に基づき、「流動」と「固定」に整理・区分されます。

「なぜ資産が借方で負債が貸方???」と悩む会計ビギナーは少なくありません。この理由として複式簿記の原型が銀行簿記(預金はお借りするもの、借入金は貸し付けるもの)という説もありますが、医療経営においては「右側」「左側」程度の理解で充分です。

主な勘定科目(B/S編)

歯科クリニックの貸借対照表で用いられる主な勘定科目は以下の通りです。

  • 資産の部
    • 流動資産:現金預金、医業未収金(患者窓口負担や社会保険・国保からの診療報酬未回収分)、診療材料・薬品などの棚卸資産
    • 固定資産:診療用ユニット、レントゲン、CT、建物、土地などの「有形固定資産」、電子カルテ等のソフトウェアなどの「無形固定資産」
  • 負債の部
    • 流動負債:1年以内に支払・返済期限が到来する買掛金、未払金、短期借入金、1年以内返済予定の長期借入金など
    • 固定負債:返済期限が1年を超える長期借入金や医療機器等のリース債務など
  • 純資産の部
    • 出資金:開設時や増資時に出資者から払い込まれた資金の元手
    • 利益剰余金:毎期の診療活動で得られた当期純利益から蓄積された内部留保

主要科目の平均値(B/S編)

「第25回(2025年)医療経済実態調査」における歯科診療所(1施設当たり・前年実績)の資産・負債・資本の平均値は以下の通りです。

  • 資産合計:8,078.1万円(100.0%)
    • 流動資産:4,093.7万円(50.7%)
    • 固定資産:3,830.3万円(47.4%)
    • 繰延資産:154.2万円(1.9%)
  • 負債合計:4,136.5万円(51.2%)
    • 流動負債:1,125.6万円(13.9%)
    • 固定負債:3,010.8万円(37.3%)[うち長期借入金:2,629.6万円(32.5%)]
  • 資本(純資産)合計:3,941.7万円(48.8%)

平均像として、総資産約8,000万円のうち約49%が返済不要の純資産(自己資本)で賄われ、残り約51%が負債(主に長期借入金)によって調達されている構造が伺えます。

主な財務分析指標(B/S編)

自院の財務的安全性を把握・管理するために、B/S上で特に注視すべき指標は以下の4つです。

  1. 自己資本比率
    • 計算式:(純資産÷資産合計)×100(%)
    • ポイント:総資産のうち返済不要の自己資本が占める割合で、財務の長期的安定性を示します。歯科全体平均は約48.8%です。高いほど資金的なゆとりがあり、破綻リスクが低くなります。
  2. 流動比率
    • 計算式:(流動資産÷流動負債)×100(%)
    • ポイント:1年以内に返済すべき流動負債に対し、1年以内に現金化できる流動資産がどれだけあるかを示し、短期的な支払能力を測ります。200%以上が望ましいとされ、歯科平均は約363.7%と非常に良好な水準です。
  3. 固定長期適合率
    • 計算式:[固定資産÷(純資産+固定負債)]×100(%)
    • ポイント:回収に時間がかかる固定資産(ユニットや建物等)への投資が、返済期限の長い安定資金(自己資本と固定負債)で収まっているかを示します。100%以下であることが必須で、歯科平均は約55.1%です。
  4. 医業収益対長期借入金比率
    • 計算式:(長期借入金÷年間医業収益)×100(%)
    • ポイント:本業の年間診療収入に対してどれだけの長期借入金を抱えているかを示す指標です。歯科平均(長期借入金2,629.6万円÷医業収益7,740.2万円)では約34.0%となります。

営業活動が貸借対照表に反映されることから、損益計算書と貸借対照表は「原因」と「結果」の関係にあるといっても良いかもしれません。また貸借対照表の借方と貸方は「目的」と「手段」の関係でもあります。例えば歯科ユニット(資産)の取得が目的であれば、その手段が借入金やリース(負債)です。このように捉えると貸借対照表も理解しやすいです。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/人事コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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