就業に関する記事

05 男女差別の禁止

2023年11月8日

この記事のポイント

2022年に女性労働者数が過去最高を記録した。今後もさらなる女性労働者の社会進出と職業生活の拡充が促進されると予想されるが、一方で女性労働者の内訳には非正規雇用が多いことにも注目すべきである。

OECDのレポートによると、日本の多くの職場や家庭では、前時代的な女性差別が根強く残っており、OECD加盟国の中でも、日本の女性管理職の割合や男女間の賃金格差はワーストの部類に入る。

日本では労働基準法と男女雇用機会均等法によって、職場における不合理な男女差別を禁止している。また女性活躍推進法では、女性の職業選択に資するために、企業に対して情報公開を義務付けている。

内閣府の男女共同参画白書は、男は仕事、女は家庭といった昭和モデルから、日本の将来を担う若い世代にとって、理想的な人生を実現できる令和モデルへ移行すべきと提言している。

日本の女性労働者の現状

日本の女性労働者数が過去最高を記録

the japan times(2023年7月21日付)によると、日本の女性労働者数は2022年に過去最高の3,035万人に達し、直近5年間で122万人も増加した。また育児と就労の両立を支援する政府の施策が奏功して、女性の就業率も53.2%と過去最高となっている。

岸田文雄首相は、男女平等を推進する取り組みを強化し、新しい資本主義政策の中核として、女性の経済的自立を促進すると発表し、政府の審議会は、東証プライム上場企業における女性役員の割合を、2030年までに30%以上に引き上げる女性活躍推進政策を承認した。

女性労働者の雇用形態

総務省統計局の労働力調査(2023年11月分)は、全国の雇用者数は6,100万人で、うち男性が53.8%の3,285万人、女性が46.2%の2,815万人としている。

依然として男性の雇用者数の方が多いが、前年同月比では男性は13万人の増加に対し、女性は33万人も急増しているため、いずれ雇用者数に占める男女比は、拮抗すると予測される。

総務省労働力調査(基本集計)2023年11月分より転載

ただし、雇用形態別に男女内訳を比較すると、男性の雇用者のうち77.4%が正規雇用なのに対し、女性は半数以上の53.9%が、パートタイマーなどの非正規雇用となっており、単純に女性の就労率の上昇だけを捉えて、女性の職業生活が拡充されたと考えるのは早計だろう。

日本の職場にはびこる根強い女性差別

日本の女性管理職の割合

OECD統計をもとに筆者作成

2023年のOECDのレポート「Joining Forces for Gender Equality What is holding us back?(ジェンダー平等のために力を合わせよう。我々を阻害するものは何か?)」では、日本の職場における男女差別の実態を、次のように紹介している。

日本はジェンダー平等に関して長年の課題を抱えている。日本はOECD加盟国の中で、労働参加率の男女格差はOECD平均より大きく、多くの母親がパートタイムで働いている。また公的部門の雇用の半分以下を占める日本人女性だが、OECD加盟国の中で公的リーダー職における女性の割合は最も低く、国会議員の議席数も最も少なくなっている。民間部門における管理職の女性の割合も同じである。

Joining Forces for Gender Equality What is holding us back?(OECD2023)
山口
かつて私が人事部長を務めていた時は、課長や係長をはじめ他のスタッフは全て女性ばかりでした。周囲からは色々言われましたが、有能な人材を厳選して採用していたら、結果的に全員女性だった、というだけです。

日本の男女間の賃金格差

OECD Gender wage gap より転載

またOECDのレポートは、日本における深刻な男女間の賃金格差についても述べている。同レポートによれば、日本の男女間賃金格差はOECD加盟国中、ワースト4位となっている。

男女間の賃金格差は、家事の不平等な分担、同じ技能でも職務や責任が会社内で異なる、女性主体の職業の過小評価など、長年の構造的不平等に起因する頑固な課題として残っている。日本では、フルタイム就労者の男女賃金格差は約22%と、OECD加盟国の中で最大級である。しかし、この格差は2010年以降約6パーセントポイント縮小しており、OECD全体の縮小速度の約2倍となっている。

Joining Forces for Gender Equality What is holding us back?(OECD2023)

男女差別を禁止する法令

労働基準法

日本では、労働基準法と男女雇用機会均等法で、男女差別禁止を規定している。労働基準法では、男女同一賃金の原則が明記されており、使用者は「女性は勤続年数が短いから」などといった、女性であることだけを理由として、不合理な賃金格差を設けることは許されない。

ただし、労働基準法で男女差別を禁止しているのはあくまでも賃金のみなので、実際の職場では男女差別を解消するには不十分である。そこで、1986年に施行された男女雇用機会均等法において、その他の待遇についても差別的取り扱いを禁止する旨を規定している。

男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法は、人材の募集・採用から退職まで、雇用に関するあらゆる段階において、性別による差別的取扱いを禁止しており、具体的には、次のようなものがある。

  • 採用において、性別を理由に有利または不利な条件を設定する
  • 配置や昇進において、性別を理由に有利または不利な処遇をする
  • 退職や解雇において、性別を理由に有利または不利な条件を設定する

また、男女雇用機会均等法は、事業主に対して、性別以外の要件を課すことで、一方の性別に不利益を与える間接差別も禁止している。

例えば、募集や採用において、転勤を要件とする場合は、男性の方が転勤に応じやすいという理由で、女性に不利益を与えてしまう可能性がある。このような場合、転勤の必要性が合理的に説明できない限り、間接差別に該当する。

さらに、事業主は、女性労働者に対して、婚姻、妊娠、出産を理由とする不利益な取扱いをしてはならない。例えば、婚姻を理由に解雇したり、妊娠を理由に配置転換したりすることは法令違反となる。

山口
女性社員が寿退職(結婚退職)する場合には、退職金を増額するといった、一見して女性を有利に扱っているような制度も、男女差別に該当します。

日本における女性活躍のための施策

女性活躍推進法

女性活躍推進法は、女性の職業生活における活躍を、迅速かつ重点的に推進することで、男女の人権が尊重され、社会経済情勢の変化に対応できる、活力ある社会を実現することを目的として、2015年8月に制定された法律である。

女性活躍推進法では次の2つの施策が規定されている。

1.一般事業主行動計画の策定・公表
~常時雇用する労働者の数が100人を超える事業主は、女性の活躍状況を把握し、課題を分析した上で、数値目標を設定し、行動計画を策定・公表しなければならない。

2.女性の職業生活における活躍に関する情報の公表
~常時雇用する労働者の数が100人を超える事業主は、女性の職業選択に資するよう、その事業における女性の活躍に関する情報を定期的に公表しなければならない。

一般事業主行動計画の届出をした事業主のうち、女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優良な企業は、厚生労働省に申請することで、優良企業認定(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)を受け、自社のイメージ戦略に活用することができる。

男女共同参画白書(内閣府)

令和5年度 男女共同参画白書から転載

内閣府「令和5年度 男女共同参画白書」によると、どの年齢層でも女性の就業率が上昇したものの、夕方以降の家事・育児等の負担が妻に集中していることが、女性の職業生活を阻害しており、35~44歳の年代の女性は、非正規雇用の割合が大きくなっている。

しかし、この年代以上の女性は「子供が生まれても仕事を続けたい」と考えている人が多く、また、近年は若い年代の女性の間でも「長く働きたい、昇進したい、管理職になりたい」と考える割合が増えていて、世間と女性労働者との意識にギャップが生じている。

一方、男性労働者の側は、年齢が若いほど家事・育児に参加することに抵抗を感じておらず、むしろ自身の家事・育児スキルに対する自己評価が高く、それゆえに配偶者の満足度も高い、といった調査結果もある。

人生100年時代を迎え、日本における家族の姿は変容し、人生は多様化した。特に若い世代の理想とする生き方は、昭和の価値観から大きく変化しているため、日本の将来を担う若い世代が理想とする生き方・働き方を実現できる社会を作ることが重要である、と白書は述べている。

そして政府は、日本の家庭や職場に根強くはびこる「男は仕事、女は家庭」といった昭和モデルから、性別に関わらず全ての人が、自らの希望に応じて、家庭でも仕事でも活躍することができる令和モデルの社会にシフトしてゆかねばならないとして、白書を締めくくっている。

参考;小売業の女性従業者比率

商工業実態基本調査(2007最終更新)より転載

最後に小売業における女性従業者比率を紹介して、この記事を終わりとしたい。経済産業省の商工業実態基本調査によると、小売業平均では従業者の55%が女性であり、これは大企業も中小企業もほぼ同率となっている。

山口
比較的、早い段階から女性管理職の登用に積極的だった流通小売業ですが、最近になって、ようやくGMS(大型総合スーパーマーケット)クラスの店舗でも、女性店長が見られるようになってきました。

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  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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