雇用契約の基本原則
就職とは雇用契約の成立
就職とは労使が対等の立場で「雇用契約」を結ぶことをいいます。
そして「雇用契約」とは、労働者は使用者に対して労働サービスを提供し、使用者はその対価として賃金を支払う、という契約です。
なおここでは「労働契約」を「雇用契約」に、そして「労働条件通知書」を「雇用契約書」という言葉に統一して解説します。
雇用契約の5原則
雇用契約は労使関係の根幹となる重要事項であり、「労働契約法」によって5つの原則が定められています。
<労働契約の5原則>
1、労働契約は労働者と使用者が対等の立場で、互いに合意した上で締結すること
2、正規雇用か否かに関わらず、仕事の実態に応じた公平な契約内容とすること
3、労働者と使用者にとって、仕事と生活が調和するような雇用条件に配慮すること
4、労働者と使用者は雇用契約を遵守し、誠実に権利を行使し、義務を果たすこと
5、労働者と使用者は、労働契約にもとづく権利を濫用しないこと
(労働契約法第3条1~5項)
男女差別の禁止
「男女雇用機会均等法」では採用時の選考や採用後の労働条件について、男女差別を禁止しています。
また採用後の労働条件とは具体的に次のとおりです。
・配属、昇進および降格、教育訓練
・住宅資金の貸し付けその他福利厚生
・職種および雇用形態の変更(正規職員→非正規職員)
・退職勧奨、定年、解雇、雇用契約の更新
さらに使用者は女性労働者に対し、結婚、妊娠、出産を理由に退職を強要したり、その他不利益な取り扱いをすることが禁じられています。
(男女雇用機会均等法第5~6条)
無効な雇用契約
「就業規則」に定めた労働条件を下回る雇用契約は、その部分について無効となり、無効となった条項は、就業規則に定める労働条件に引き上げられます。
(労働基準法第13条)
就業規則とはその会社における就業ルールのことで、常時10名以上の労働者を雇用する使用者は、就業規則を作成して労働基準監督署に届出しなければなりません
「労働基準法」を下回るような労働条件を定めた雇用契約も、その部分について無効となり、労働基準法に定める労働条件に引き上げられます。
(労働契約法第12条)
「就業規則」に定めた労働条件が「労働基準法」を下回っている場合は、その部分について無効となり、労働基準法に定める労働条件に引き上げられます。
(労働契約法第13条)
「労働基準法」 >「 就業規則」 >「 雇用契約」の順に効力が強くなります。そして上位ルールに満たない雇用条件は、その部分について無効となり、自動的に上位ルールの条件が適用されます(部分無効・自動引上げ)
雇用契約に定める内容
雇用条件の明示義務
使用者は、労働者と雇用契約を結ぶ時は、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。
(労働基準法第15条)
絶対的明示事項
「絶対的明示事項」とは、雇用契約を結ぶ際に、労働者に対して必ず明示しなければならない労働条件であり、書面でもって明示しなければなりません。
<絶対的明示事項>
・雇用期間
・就業場所
・従事する業務
・始業および終業の時間
・時間外勤務の有無
・休憩時間
・休日および休暇
・シフト勤務の場合は各シフト時間帯
・給与の決定、計算、支払方法
・給与の締め日と支給日・退職時のルール
相対的明示事項
「相対的明示事項」とは、もし自社に該当する制度があれば、雇用契約を結ぶ際に、労働者に対して明示しなければならないものです。
これは書面で行う必要はありませんが、一般的には「絶対的明示事項」とあわせて雇用契約書に盛り込むケースが多いようです。
<相対的明示事項>
・昇給に関すること
・退職金の支給対象と計算および支払方法
・賞与支給に関すること
・精勤手当や勤続手当、最低賃金に関すること
・労働者負担の食費や作業着に関すること
・安全および衛生に関すること
・職業訓練に関すること
・災害補償および私傷病扶助に関すること
・賞罰に関すること
・休職時のルール
(労働基準法施行規則第5条1~3項)
書面による契約内容の確認
使用者は労働者に対し、雇用契約の内容について労働者にきちんと説明し、また労働者が理解しやすいように、なるべく書面でもって確認作業を行う義務があります。
(労働契約法第4条1~2項)
雇用契約で禁止されていること
一方的な契約変更
使用者は労働者の合意なしに一方的に「就業規則」の変更を行い、「雇用契約」に定めている労働条件を引き下げることはできません。
しかし経営の悪化により「就業規則」を不利益変更する必要が生じ、それについて労働組合と充分な協議を行い、変更内容が合理的であれば例外的に認められます。
(労働契約法第9~10条)
損賠賠償契約の禁止
使用者は、労働者が遅刻、早退、欠勤など、雇用契約を守らなかったことについて、罰金を支払わせたり、損害賠償をさせるような契約をすることはできません。
(労働基準法第16条)
日本の職場では罰金制度は一切認められていません。しかし実際に生じた損害について、労働者に故意もしくは重過失(作業手順を守らなかった等)があれば、使用者は労働者に対して損害賠償請求ができます。
前借金と賃金の相殺禁止
使用者は労働者に給与を前借りさせ、返済と給与を相殺するような契約をしてはなりません。
前借金を完済するまで従業員は会社を辞めることができませんから、これは日本国憲法で保障された「人身の自由」と「職業選択の自由」に反するので認められません。
(労働基準法第17条)
社内預金の強制禁止
使用者は雇用と引き換えに労働者に社内預金を強制し、使用者がその預金を管理するような契約をしてはなりません。
外国人技能実習生の実例ですが、会社が実習生の給与から生活費を除く残額を社内預金に強制入金し、そのお金を会社の運転資金に充当していた悪質なケースがありました。
(労働基準法第18条)
雇用契約の解除
契約内容が事実と違う…
雇用契約の内容と実際の労働条件が全く違っていた場合、労働者は即時に雇用契約を解除することができます。
なお就職のために勤務先の近くに転居した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合は、使用者はその旅費を負担しなければなりません。
(労働基準法第15条2~3項)
解雇権濫用の禁止
社長といえども、使用者が労働者を好き勝手に解雇することは許されません。
就業規則に定める懲戒解雇相当の事由に該当するなど、客観的かつ合理的な理由がない限り、「解雇権の濫用」として無効となります。
(労働契約法第15~16条)
解雇のルール
解雇禁止の原則と例外
使用者は以下の労働者を解雇することはできません。
<原則>
・労災のために休職する期間と復職後の30日間
・産前6週間、産後8週間およびその後30日間の女性(労基法第65条の休業)
※妊娠中および産後一年を経過しない女性に対する解雇は無効です(男女雇用機会均等法第9条4項)
(労働基準法第19条1項)
ただし例外事項に該当する場合には、労働基準監督署長の認定を受けて労働者を解雇できます。
<例外>
・労災による療養の開始から3年以上が経過し、傷病が治癒しないため、労働者に対して平均賃金の1,200日分の打切補償を行う場合(労働基準法第81条)
・天災事変(災害や戦争)等の不可抗力により、会社を存続できなくなった場合
(労働基準法第19条1~2項)
解雇の方法
使用者が労働者を解雇しようとする場合は、労働者が次の就職先を見つけるための猶予期間として、解雇する日の30日前に「解雇予告」しなければなりません。
また解雇予告の代わりに、平均賃金の30日分の「解雇予告手当」を支払うか、もしくは「解雇予告」と「解雇予告手当」を併用(15日前の予告+15日分の手当)することも可能です。
ただし試用期間中(入社後14日以内)の者や、天災事変によって会社の経営が不可能になった場合や、労働者を懲戒解雇する場合には、解雇予告も解雇予告手当も不要となります。
(労働基準法第20条1~3項)
使用者は労働者から請求があれば7日以内に未払いの給与を支払い、積立金、保証金、貯蓄金などを労働者に返還しなければなりません。(労働基準法第23条)
契約とはトラブル防止のためにある
本来は契約とはトラブルを未然に防ぐためのものですが、残念ながら日本においては雇用契約を巡るトラブルが後を絶ちません。
雇用条件を偽って人材を募集し、劣悪な環境で酷使するブラック企業が存在することも一因ですが、労働者も事前に契約条件の提示を求めるなど、就労の常識を変えてゆく必要があります。
END