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006_福利厚生のFAQ

【医療費減免】スタッフや家族への「自家診療」。窓口負担(一部負担金)の免除はなぜNGなのか?

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

依頼者からの相談

疑問な白衣の女性

当院は、歯科医師である私と、歯科衛生士・助手合わせて8名ほどが勤務する歯科クリニックです。最近、スタッフの福利厚生を充実させようと考え、スタッフやその家族が当院を受診した際、「身内なのだから」という理由で、窓口での3割負担(一部負担金)を無料にしたり、割引いたりしています。

また、院長である私自身も、診療の合間に自分の歯を自分で治療(自己診療)し、それを保険請求しようと考えていますが、事務長から「これはルール違反になるのではないか?」と指摘を受けました。

  1. スタッフやその家族に対して、一部負担金を徴収しない、あるいは減免することは法的に問題がありますか?
  2. 院長自身が自分を診察する「自己診療」を保険請求することは可能でしょうか?
  3. もしこれらが不適切な場合、個別指導や監査ではどのようなリスクが想定されますか?

良かれと思って始めた福利厚生ですが、クリニックを守るために正しいルールを知っておきたいと考えています。


相談への回答

できるビジネスパースン

歯科クリニックにおいて、スタッフやその家族を診療する「自家診療」は日常的に行われますが、保険診療のルール(療養担当規則)上、非常に厳格な運用が求められます。結論から申し上げますと、一部負担金の免除や自己診療の保険請求は、健康保険法および関連規則に違反する不適切な行為であり、重いペナルティの対象となります。

一部負担金の徴収は保険医の「義務」である

保険診療において、患者から法令で定められた割合(3割など)の費用を徴収することは、保険医療機関の法的義務です。

  • 特定の患者への減免禁止: 療養担当規則等の規定により、患者から受領できる費用の範囲は厳格に定められています。職員やその家族など、特定の患者に対して一部負担金の減免措置をとることは、原則として認められません
  • 「福利厚生」という言い訳は通用しない: 自院のスタッフであっても、保険診療を行う以上は一般の患者と全く同じ扱いが求められます。一部負担金を徴収しない行為は、公的医療保険制度の公平性を損なう「不当な患者誘致」や「利得提供」とみなされる恐れがあります。
  • 不適切な運用の温床: 自家診療では、実際に診察を行わずに薬だけ渡す(無診察投薬)や、診療録(カルテ)の記載を簡略化するといった問題が起こりやすく、監査でも重点的にチェックされる項目です。

院長自身の「自己診療」は請求不可

院長(歯科医師)が、自分自身に対して診察や治療を行う「自己診療」については、さらに厳しいルールがあります。

  • 保険診療の対象外: 現行の医療保険制度は「被保険者等の患者(他人)」に対して診療を行うことを前提としています。したがって、自己診療を保険診療として請求することは一切認められません
  • 適正な対応方法: 院長が治療を必要とする場合は、自院の他の勤務医に診察を依頼するか、他院を受診する必要があります。この場合であれば、通常通り保険請求が可能です。

指導・監査における重大な経営リスク

厚生労働省による「指導」や、不正が疑われる際に行われる「監査」では、これらの不適切な取り扱いが発覚した場合、クリニックの存続に関わる処分が下されます。

  • 過去5年分の返還: 不当な請求が認められた場合、原則として過去5年分に遡って診療報酬を返還しなければなりません。
  • 40%の加算金: 返還すべき金額に対し、さらに40%の加算金が課されることがあります。
  • 指定・登録の取消し: 不正内容が悪質であると判断された場合、保険医療機関の指定取消や、保険医の登録取消という、医療機関として最も重い処分を受けることになります。

本件のポイント

気づきを得た白衣の女性
  • スタッフやその家族を診療する場合でも、一部負担金(3割負担等)は必ず徴収し、診療録を適正に作成・保管しなければならない。
  • 院長本人の「自己診療」を保険請求することはできず、適正な手続きを踏まない請求は「不正」とみなされる。
  • 一部負担金の免除は、療養担当規則等の諸規則に違反する行為であり、指導・監査の対象となる。
  • 不適切な運用は、5年間の遡及返還や重い加算金、保険医登録の取消しといった、経営破綻に直結するリスクを孕んでいる。

スタッフへの還元は、保険診療の枠組みを歪める形ではなく、公的保険外の範囲(自費診療の割引優待や、法定外の健康診断補助など)で、就業規則に基づき明文化して運用することが、健全なクリニック経営の鉄則です。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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