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001(制度概要)_労働基準

年次有給休暇の基本的なルールと職場でありがちな誤解

病院経営や歯科クリニック運営において、年次有給休暇(以下、有給休暇)の適切な管理は、労働基準法の遵守のみならず、スタッフの定着や良好な職場環境の構築に不可欠です。以下に、有給休暇に関する原則的なルールから実務上の留意点までを詳しく解説します。

年次有給休暇の原則的なルール

年次有給休暇の付与義務と付与日数

有給休暇は、以下の2つの要件を満たした労働者に対して、法律上当然に発生する権利です。

  1. 雇入れの日から6ヵ月間継続勤務していること。
  2. 全労働日の8割以上出勤していること。

正規職員(週所定労働時間が30時間以上、または週所定労働日数が5日以上)の場合、最初に10日の有給休暇が付与されます。その後、継続勤務年数に応じて付与日数が増加し、勤続6年6ヵ月以上で最大20日(繰越分を含め最大40日)が付与されます。

勤続年数付与日数
6ヵ月10日
1年6ヵ月11日
2年6ヵ月12日
3年6ヵ月14日
4年6ヵ月16日
5年6ヵ月18日
6年6ヵ月以上20日(最大)

出勤率の計算では、業務上の傷病による休業期間や産前産後・育児・介護休業期間、有給休暇を取得した日は「出勤したもの」とみなして計算しなければなりません。

年次有給休暇の比例的付与(短時間職員)

パートタイム労働者など、所定労働日数や時間が少ないスタッフに対しては、その労働日数に応じた「比例付与」が行われます。対象となるのは、「週所定労働時間が30時間未満」かつ「週所定労働日数が4日以下(または年間216日以下)」の労働者です。

例えば、週4日勤務で半年間継続勤務したスタッフには、正規職員(10日)の約8割に相当する7日が付与されます。この日数は、基準日時点の契約内容に基づいて決定されます。

週所定労働日数年間所定労働日数6ヵ月1年6ヵ月2年6ヵ月3年6ヵ月4年6ヵ月5年6ヵ月6年6ヵ月以上
4日169日〜216日7日8日9日10日12日13日15日
3日121日〜168日5日6日6日8日9日10日11日
2日73日〜120日3日4日4日5日6日6日7日
1日48日〜72日1日2日2日2日3日3日3日

年次有給休暇の例外的なルール

斉一的付与

本来、有給休暇の基準日は個々のスタッフの入社日によって異なりますが、全職員の基準日を特定の日(例:4月1日)に統一することを「斉一的付与」といいます。

なお斉一的付与に移行する場合、法定の基準日よりも前倒しして付与日を設定する必要があります。また短縮された期間は出勤率の算定において「全期間出勤したもの」として扱う必要がある点にご留意願います。

斉一的付与への移行にともなう人事管理上のメリットは、全職員の有給休暇の管理(付与日数や取得日数の把握)を一括で行えるため、事務負担が大幅に軽減されます。また、後述する「年5日の取得義務」の管理ミスを防ぎやすくなります。

計画的付与

「計画的付与」とは、労使協定を締結することで、有給休暇のうち5日を超える分について、あらかじめ計画的に割り振る(事前に勤務シフトに組み入れる)制度です。

注意すべきは、各スタッフが付与されている年次有給休暇の手持ち日数のうち、スタッフが自由に使える分として最低5日は残しておかなければならない点です。なお計画的付与はクリニック全体で一斉に実施(休診日)しても構いません。

歯科クリニックにおける人事管理上のメリットは、お盆や年末年始、院長の学会出席日に合わせて一斉休業とすることで、診療に支障をきたすことなく確実に有給休暇を消化させることができ、スタッフのワークライフバランス向上にも寄与する点です。

年次有給休暇にありがちな誤解

年次有給休暇に使用者の承認は必要か?

有給休暇は、要件を満たせば労働者の請求や上司の承認に関わらず当然に発生する権利です。年次有給休暇の取得にあたって上司の承認を条件としたり、特定の目的以外の取得を認めないといった誤った運用が散見されますが、労使それぞれの権利は次のとおりです。

  • 時季指定権:労働者が「いつ休むか」を決める権利(時季指定権)を持っており、「年次有給休暇を取得するのに使用者の承認を要件とする余地はない」という判例も存在します。したがって休暇の目的を申告する義務もありません。
  • 時季変更権:使用者に認められているのは、その日に休まれると「事業の正常な運営を妨げる」場合に限って他の日に変更してもらう権利(時季変更権)のみです。単に「忙しいから」という理由だけでは認められにくい点に注意が必要です。

年次有給休暇を公休日に取得できるか?

筆者が一般企業で人事部長を務めていたとき、「お金が欲しいので公休日に年次有給休暇を使いたい…」といった相談を受けることがありました。しかし有給休暇とは、労働日の労働義務を免除し、心身の疲労回復やワークライフバランスを促進するためのものです。

そして年次有給休暇を取得する場合に、その日の賃金を法律によって保証することで、労働者にとって経済的な心配をせずに、安心して休暇を取得できる…というのが制度の趣旨ですので、就業規則で定められた公休日に有給休暇を充当することは認められません。

年次有給休暇を買い取ることはできるか?

有給休暇は、心身の疲労回復と休養を目的としているため、年次有給休暇を取得させる代わりに、年次有給休暇を取得した場合に支払う賃金を支払う(休暇の買い取り)は禁止されています。ただし、例外として以下の場合は法律違反とはなりません。

  • 退職時に残っている有給休暇の買い取り:退職日を超えて時季変更権を行使することはできませんので、退職日までに消化できなかった年次有給休暇の残日数を賃金として清算することは可能です。
  • すでに時効(2年)で消滅してしまった年次有給休暇や、労働基準法の年次有給休暇とは別に、自院独自で設けた有給休暇の買い取り。

年次有給休暇を取得させないとどうなるか?

年5日付与義務違反のペナルティ

2019年から、有給休暇が10日以上付与される全ての労働者に対し、毎年5日分については使用者が時季を指定して確実に取得させることが義務づけられました。これを一般的に「年5日付与義務」といいますが、これに違反すると「30万円以下の罰金」が科されます。

注意すべきは、この罰則は年5日以上の年次有給休暇を取得できなかった労働者「1人あたり」に対して適用されるため、対象人数が多いほど高額な罰金となります。また勤怠管理の責任者(士長や事務長)のみならず、法人や個人事業主もあわせて処罰されます。

医療業界における年次有給休暇の現況

医療業界、特に小規模な歯科クリニックでは、深刻な人手不足(歯科衛生士不足など)を背景に、一人でも欠けると診療が回らないという実態があり、「休みたくても言い出せない」「管理者が有給休暇を正しく理解していない」といった問題が依然として存在します。

しかし、近年は若い人材ほどワークライフバランスを重視しており、年次有給休暇を適切に取得できる環境を整えることは、求人上の強力な武器になるだけでなく、スタッフのモチベーション向上を通じて患者満足度を高め、自院の経営安定化に繋がります。

年次有給休暇制度を適正に運用するには斉一的付与や計画的付与などが効果的ですが、移行にあたっては、社会保険労務士などの専門家のアドバイスをもとに、コンプライアンス違反とならないような制度設計および移行手続きが不可欠です。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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