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001(制度概要)_労働基準

円滑なチーム医療のための労働契約と労働条件通知書の基礎知識

本記事は、労使関係の出発点であり、労務管理の根幹となる「労働契約」と「労働条件通知書」について、民法の雇用契約との違いを織り交ぜつつ、労働基準法や労働契約法の規定にもとづき、これらの概要や重要ポイントなどを解説してゆきます。

そもそも労働契約とはどのようなものか?

労働契約と雇用契約どっちが正しい?

人事担当者なら一度は経験したことがあるかもしれませんが、「労働契約」と「雇用契約」の使い分けに迷ったことはありませんか?社労士でもこれらの違いを正確に説明できる人は多くありませんが、現在の実務においては「労働契約」という用語を用いるのが適切です。

「雇用契約」は民法の用語です。契約法に準じて労働と報酬に関する契約ルールを定めたものです。しかし現実の労使関係では労働者の立場が圧倒的に弱いことから、民法の特別法として労働基準法が制定され、さらに労働基準法を補完するために労働契約法が施行されました。

労働契約と雇用契約との大きな違い

民法における雇用契約は「私的自治」と「民事不介入」が原則です。前者は契約の当事者が合意していれば、公序良俗に反しない限り、契約内容を自由に決めてよい、後者は契約を巡ってトラブルになっても国家は関与しない(民事訴訟で決着せよ)というものです。

しかし労働契約においては、労働法令の基準を満たさない労働条件は労使が合意していても無効です。民法は2週間前に通知すれば労使どちらも自由に雇用契約を解除できますが、労働契約では使用者側に解雇制限が適用され、法令に違反すると厳しく処罰されます。

柔軟な人員整理を目的として意図的に「雇用契約」という名称を使用しても、労働基準法や労働契約法は民法に優先しますので、解雇制限に関する法理が厳格に適用されます。実務において雇用契約と労働契約の名称の違いが問題にならない理由です。

労働基準法を補完する労働契約5原則

労働基準法(労働基準法の7つの基本原則)では、同法を下回る労働条件や国籍、信条、社会的身分を理由とする差別的取り扱いなどを禁止していますが、労働契約法はそこから一歩踏み込んで、労働契約の基本的な理念として次の5つの原則を定めています。

  1. 労使対等の原則:労働者と使用者が対等な立場において、お互いの合意にもとづき、労働契約を締結・変更すべきであるという原則
  2. 均衡考慮の原則:雇用形態(正規・非正規等)にかかわらず、就業の実態に応じてバランスよく処遇を決定・変更すべきであるという原則
  3. 仕事と生活の調和への配慮の原則:ワーク・ライフ・バランスに配慮した内容にもとづき、労働契約を締結・変更すべきであるという原則
  4. 信義誠実の原則:使用者も労働者も互いに労働契約を遵守し、信義に従い誠実に権利を行使し、義務を履行しなければならないという原則
  5. 権利濫用の禁止の原則:権利(懲戒権や解雇権等)の行使にあたっては、これを濫用してはならないという原則(労働者にも適用されます)

労働契約書と労働条件通知書の関係

労働契約は口頭でも成立する

民法は「契約は口頭でも成立する」としています。また労働契約法では「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うこと」について労使が合意すれば、契約が成立するとしていますが、契約書の作成義務には言及していません。

ただし口頭での約束は後日のトラブルの元となりますので、労働契約法第4条において、労働契約の内容について「できる限り書面により確認すること」を求めています。注意すべきは、ここでいう「できる限り」とは努力義務にすぎず、法的な強制力は無いという点です。

労働条件通知書はメールでもOK

労働基準法第15条では、使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して労働条件を明示しなければならないと義務づけており、このうち、特に重要な事項(絶対的明示事項)については、原則として「書面の交付」による明示が必要です(違反には罰則あり)。

このときに交付される書面が一般に「労働条件通知書」と呼ばれるものであり、労働者が希望した場合は、通知書の代わりにメールによる方法も認められます(ただしメール本文へのベタ打ちは作業が煩雑なので、通常はPDF化した通知書をメールに添付します)。

労働条件通知書があれば契約書は不要?

労働基準法上の明示義務を果たすだけであれば、労働条件通知書の交付で足ります。実際に労働契約書を作成せず、労働条件通知書のみで済ませる事業者は少なくありません。

なお、紛争が生じた際の解決方法(合意事項)や、医療情報・機密情報の保護、独自の誓約事項などは労働条件通知書への記載義務がないため、職種や役職によっては、労使双方が署名捺印する「労働契約書」を別途交わすことが、コンプライアンス的にベターでしょう。

明示しなければならない労働条件

絶対的明示事項

絶対的明示事項とは、必ず労働者に通知しなければならない事項です。ルールが適用されない場合でも省略できず、「適用しない」などと明示する義務があります。また「昇給に関する事項」を除き、必ず書面で明示しなければなりません。

  • 労働契約の期間(期間の定めがあるか、更新の有無等)
  • 就業の場所および従事すべき業務(雇入れ後の変更範囲も含む)
  • 始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇に関する事項
  • 賃金の決定、計算・支払方法、締切・支払時期、昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

相対的明示事項

相対的明示事項とは、自院で以下の労働条件を定める場合は、労働者に対して明示しなければならない事項です。これらは口頭による明示でも構いませんが、実務的には絶対的明示事項とあわせて労働条件通知書に記載してしまうのが一般的です。

  • 退職手当に関する事項
  • 賞与、臨時の賃金、最低賃金額に関する事項
  • 食費、作業用品等の負担に関する事項
  • 安全・衛生、職業訓練、災害補償に関する事項
  • 表彰および制裁(懲戒)に関する事項
  • 休職に関する事項

就業規則への委任

明示すべき内容が多く、労働条件通知書のページ数が膨大になりそうなときは、労働条件通知書に詳細をすべて記載するのではなく、労働者に適用される就業規則の条項名を示すことも認められます。例えば「賃金に関する事項は当院の賃金規程による」などです。

こういった簡便な運用を「就業規則等への委任」といいますが、委任する規程が適法に作成され、施行されている必要があります。労働基準監督署に届出していない、労働者に周知されていないといった法の要件を欠く場合は、就業規則等への委任は無効とされます。

労働条件の変更時に注意すべきこと

問題となるのは不利益変更

労働条件を変更する際も労使の合意が原則ですが、使用者が一方的に労働者に不利な労働条件に変更する「不利益変更」は慎重に行うべきです。労働契約法第9条は「使用者は労働者と合意することなく、労働条件を不利益変更することは認められない」と規定しています。

問題となるケースは、労働条件通知書の各事項を就業規則等の定めに委任している場合に、後から就業規則等の内容を不利益変更することです。社会通念上、合理性を欠いた就業規則の不利益変更も認められず、変更後の就業規則にもとづく新たな労働条件は無効です。

やむなく不利益変更をするとき

しかし社会経済情勢の変化や医療政策の変更など、不可抗力的な要素によって、やむを得ず不利益変更を余儀なくされる場合もあります。そこで次の要件を満たし、変更内容が合理的であると認められる場合には、合意がなくても変更後の就業規則が適用されます。

  1. 変更後の就業規則を労働者に周知させていること
  2. 以下の要素を総合的に考慮して、変更が合理的であること
    • 労働者の受ける不利益の程度
    • 労働条件の変更の必要性
    • 変更後の就業規則の内容の相当性
    • 労働組合等との交渉の状況

労働条件を決める際の重要ポイント

キャリアパスの明確化

2024年に労働基準法施行規則が改正され、労働条件の絶対的明示事項のうち「就業の場所および従事すべき業務」について、雇入れ直後の就業の場所と従事する業務だけでなく、「将来的な変更の範囲」についても明記することが義務付けられました。

これにより、雇入れ後の異動の予定(キャリアパス)を、採用時に明確にする必要があります。「採用後の働きぶりを見ながら配属先を決める…」などといった昔ながらのメンバーシップ型雇用では対応が難しくなります。何でも屋になりがちな事務部門は要注意です。

関連法令もしっかりおさえる

労働条件を検討する際は、労働基準法や労働契約法のみならず、男女雇用機会均等法(女性差別の禁止)や高年齢雇用促進法(65歳までの雇用確保措置)、パートタイム・有期雇用労働法(同一労働・同一賃金法理)などもしっかり確認しておく必要があります。

これらの法令以外にも、最低賃金法や育児・介護休業法など、労働条件にまつわる法令がいくつか存在しますが、多忙な院長先生が診療の合間にそれらを確認し、法令を網羅した労働条件を整理することは大変です。困った時は我々社労士に気軽にご相談ください。

本記事では労働契約および労働条件通知書の重要ポイントを解説しましたが、医療業界では価値観や背景の異なる多職種が協働するため、職種間の不公平が生じないよう、法令と自院の事情に適合した合理的な労働条件の整備が、円滑なチーム医療の要となります。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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