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01_雇用管理

長時間労働を抑制する法令

長時間労働を抑制する法令

長時間労働による健康被害の防止

長時間労働者の医師の面接指導

労働安全衛生法は、長時間労働に起因する健康障害を防止するため、事業主に対し、労働者が次の要件に該当した場合は、医師による面接指導を受診させることを義務付けている。

医師による面接指導の対象
・一般の労働者
 →時間外および休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる場合

・研究開発に従事する労働者
 →時間外および休日労働が月100時間を超えた場合

・高度プロフェッショナル制度が適用される労働者
 →週40時間を超える健康管理時間が月に100時間を超える場合

一般の労働者に対する医師の面接指導は、あくまでも労働者から希望があった場合に限られるが、研究開発職と高度プロフェッショナル制度の適用者については、法定の労働時間に達した場合に、使用者は本人の希望に関わらず、医師の面接指導を受診させなければならない。

使用者は、面接指導の終了後に遅滞なく医師の意見を聴取し、その内容を衛生委員会で報告した上で、対象となる労働者について、作業内容の変更や勤務時間の短縮など、健康確保のための措置を講じる義務も負っている。

長時間労働者の面接指導に先立ち、使用者は全ての労働者(管理職を含む)の勤怠実績を毎月収集し、月に80時間以上の時間外労働および休日労働を行った従業員のリストを産業医に提出しなければならない。

深夜業務従事者の自主的健康診断

労働基準法は深夜時間帯を22時〜翌朝5時と定め、労働安全衛生法では、労働基準法の深夜時間帯における業務を健康上有害な業務として、深夜業務従事者に6ヶ月ごとの健康診断(特定業務従事者の健康診断)を受診させることを、事業主に義務付けている。

さらに労働安全衛生法は、直近6ヶ月において、1ヶ月を平均して4回以上の深夜業務を行った労働者が健康不安を感じた場合は、次回の健康診断の前であっても、自主的に健康診断を受診することができるとしている。

その労働者が健康診断を受診後、3ヶ月以内に健康診断結果票を使用者に提出した場合、事業主が健康診断にかかった費用を負担し、もし異常の所見があった時には、使用者は医師の意見を聴いた上で、深夜勤務の削減など必要な健康確保措置を講じるものとしている。

長時間労働と労災の関連性

近年の労働行政において、労働者が脳血管疾患、虚血性心疾患、うつ病などの精神疾患を発症した場合は、まず長時間労働を疑うのが常識となっている。労働者災害補償保険法においても、これらの疾患と長時間労働との関係について、次のように明示している。

脳血管疾患・虚血性心疾患と長時間労働の関連性が強いと判断される基準
・発症1ヶ月前に月100時間を超える時間外労働があった場合
・発症前6ヶ月間のうち2ヶ月を平均して80時間を超える時間外労働があった場合

うつ病などの精神疾患と長時間労働の関連性が強いと判断される基準
・発症1ヶ月前に月160時間を超える時間外労働があった場合
・発症2ヶ月前に月120時間を超える時間外労働があった場合
・発症3ヶ月前に月80時間を超える時間外労働があった場合

使用者の安全配慮義務

労働契約法では、労働契約書に特段その旨が明記されていなくとも、使用者は労働契約の締結にともない、労働者に対して当然に安全配慮義務を負うとしており、安全配慮義務は労災事故に限らず、長時間労働による健康障害に対しても及ぶものとされている。

安全配慮義務違反に対する罰則はないが、長時間労働により健康を害した労働者が、使用者の不法行為(安全配慮義務違反)を理由に民事上の損害賠償請求訴訟を提起した場合、事業主および使用者が、被災した労働者に対する損害賠償責任を負うことがある。

職業生活と家庭生活の両立

育児介護中の労働時間の制限

育児介護休業法は、育児や介護を行う労働者から請求があった場合には、使用者は次の時間を超えて労働者を働かせることができない旨を定めている。

育児や介護を行う労働者の就業制限
・3歳未満の子を養育する労働者または要介護状態の家族を介護する労働者
 →所定外労働時間を超える就業の禁止

・未就学児を養育する労働者または要介護状態の家族を介護する労働者
 →月間で24時間超もしくは年間で150時間超の時間外労働および深夜労働の禁止

・3歳未満の子を養育する労働者または要介護状態の家族を介護する労働者
 →1日の労働時間を6時間以下とする短時間勤務制度を導入する義務
 ※育児介護休業を取得していない者に限る

介護を行う労働者については、短時間勤務制度を導入する代わりに、事業主が介護費用を補助する方法でもよい。

ワークライフバランスの実現

労働時間等設定改善法では、従業員のワークライフバランスを実現するために、業務の繁閑に応じた始業および終業の時刻の柔軟な変更、適切な長さの勤務時間の設定、年次有給休暇を取得しやすい職場環境の改善に対する、使用者の努力義務を定めている。

またコンビニエンスストアなど深夜業務を行う事業場について、終業から始業まで11時間以上のインターバルを確保することで、深夜業務に従事する労働者の心身の疲労を軽減するための勤務間インターバル制度を導入する努力義務についても規定している。

長時間労働による離職者の救済

失業給付の優遇措置

雇用保険法では、次の要件に該当する長時間労働によって従業員が退職した場合は、特定受給資格者として失業給付(基本手当等)の給付制限を行わず、所定給付日数を延長するなどの救済措置を設けている。

特定受給資格者の要件(長時間労働に関するもの)
離職前の6ヶ月間において、時間外労働と休日労働が、
・1ヶ月あたり100時間以上だった者
・2ヶ月連続して月に80時間超だった者
・3ヶ月連続して月に45時間超だった者

自己都合退職の場合は待機期間(7日間)に続いて1〜3ヶ月間の給付制限期間が設けらるが、特定受給資格者に該当すると待機期間の満了後に失業給付が開始される。また基本手当の所定給付日数も自己都合退職の場合よりも長く設定されている。

長時間労働抑制に関するまとめ

日本の低成長脱却のカギは労働生産性の向上であると言われているが、労働生産性の向上には、良質な人材の獲得と定着が不可欠であることは論を待たない。しかし未だに昭和チックな長時間労働から脱却できていない旧態依然とした考え方の使用者が散見される。

SNSの時代では、職場の良い評判も悪い評判もすぐに人材市場で共有される。賢明な経営者なら本記事の法令を参考に、従業員のワークライフバランスの実現に早急に取り組み、企業ブランディングを確立することで、競合他社に対する人材優位性を発揮できるだろう。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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