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004(制度概要)_雇用政策

医療機関における採用ブランディング手法と注意すべき公告規制

広告は単なる情報伝達にとどまらず、組織の理念を社会に問い、ステークホルダーと信頼関係を構築するパブリック・リレーションズとして捉える必要があります。一方で医療機関は厳格な公告規制が適用されるため、採用プロモーションにおいて注意が必要です。

求人広告は医療法の広告規制外

医療機関の求人広告を作成する際、まず「医療法上の広告規制」の対象になるか否かという点について確認が必要です。厚生労働省の指針によれば「医療機関の職員募集に関する広告」は、通常は医療広告とは見なされませんが、次の点に注意しなければなりません。

  • 誘引性と特定性の回避:募集広告の形態をとりながら、実質的に患者の受診を誘引する意図があり、医療機関名が特定できる場合は、医療広告規制が適用されます。例えば、求職者向けの情報として「最新の○○機器による画期的な治療」を過度に強調するような表現は、誇大広告や比較優良広告として是正の対象となり得ます。
  • 労働条件の明示義務(職業安定法):2024年4月の法改正を含め、求人票や広告には「就業の場所」および「従事すべき業務」の変更の範囲を明示することが義務付けられています。これは入職後のトラブルを防ぐための重要事項であり、改正労働基準法でもこれらの項目について労働条件通知書への明示義務が定められました。
  • 掲載明示項目の遵守:求職者の信頼を高めるため、事業内容、雇用形態、賃金(固定残業代の有無を含む)、試用期間、応募資格(公的資格の要否)などの必須項目を正確に記載しなければなりません。特に医療職は資格確認が前提となるため、免許証の原本確認を行う旨およびその方法などもあらかじめ明確にしておくべきです。

医療機関の広報は信頼確立優先

民間企業の広告が主に「消費拡大」や「利益追求」という経済的尺度を主要な目的とするのに対し、医療機関の広報は「ステークホルダーとの信頼確立」に重きを置く点に決定的な違いがあります。ステークホルダーとの信頼確立のポイントは主に次の3点といわれています。

  • 社会的責任(CSR):医療は情報の非対称性(医療機関と患者との間の知識格差)が著しいため、医療機関には高い透明性と説明責任が求められます。民間企業のブランディングが「商品の差別化」を競うものであるのに対し、医療機関のブランディングは「地域医療における自院の存在意義の確立」を目的とします。
  • 非営利性の制約:一般企業は「売上」を最大の評価指標にできますが、医療機関は非営利原則に基づき、広告によって不当に患者(あるいは求職者)を誘引し、不必要な医療を提供するような不当な利益追求を厳に慎まなければなりません。
  • 表現の品位:医療広告ガイドラインは「品位を損ねる内容」を禁止しており、費用を過度に強調したり、ふざけたドタバタ的な表現を用いたりすることは、職員募集広告であっても、医療機関としての社会的信頼を損なうリスクがあります。

Web時代のブランディング戦略

現代の採用プロモーションでは、従来の紙媒体(求人紙等)からWeb媒体の「AISAS(注意→興味→検索→行動→共有)」モデルへと変化しており、Web媒体は自院が独自で開設・運用するオウンドメディアと、他社が運営するポータルサイトの利用が主流です。

  • 自院ホームページの役割:求職者は必ず自院のサイトを確認します。ホームページは診療実績(手術件数、平均入院日数など)や教育体制、福利厚生(託児施設の有無など)を具体的に発信することが可能なので、求職者との情報の非対称性を解消し、「選ばれる病院」としてのブランドを構築できます。
  • インターナル・ブランディングの重要性:良い評判も悪い評判もすぐにSNSで拡散されてしまう昨今は、院内向けのブランディングも大事です。現職のスタッフが自院の価値観を誇りに感じ、職場の魅力をSNS等で発信する「全職員が広報担当」の仕組みを構築することが、強力なリクルートとなります。
  • SNS活用の安全管理:SNSを通じた情報発信は有効ですが、患者のプライバシー保護は絶対の義務です。職員が個人のSNSで業務上の情報をやり取りしたり、患者が特定されるような投稿を行ったりしないよう、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠した運用ルールが不可欠です。

採用活動は信頼のマネジメント

医療機関におけるブランディングの成功は、職員満足(ES)が医療の質を支え、それが患者満足(PS)と経営の安定に繋がるというサイクルを回すことにあります。

求人広告において、「アメニティ(施設の綺麗さ)」や「給与」といった外在的な要素だけでなく、「どのような価値観(Value)を大切にし、どのような医療を目指しているか」というビジョンを明確に打ち出すことが、共感性の高い人材を引き寄せる鍵となります。

メイヨー・クリニックの事例(The needs of the patient come first=患者のニーズを第一とする)のように、「技能よりも価値観」を優先した一貫性のあるメッセージ発信こそが、民間企業には真似できない、医療機関特有の強固なブランドを形成する土台となります。

自院のミッションやバリュー、CSR活動など抽象的な情報のみならず、病院機能や労働法令により事業者に義務付けられている雇用に関する各種実績などの人事情報の開示・更新も忘れないようにしましょう。以下、主要な開示情報を列挙しますのでぜひご確認ください。

参考資料

常時雇用する労働者数が300人を超える企業は、正規雇用労働者の採用数に占める中途採用者の割合を毎年少なくとも1回、公表しなければなりません。

常時雇用する労働者数が300人を超える企業は、男性の育児休業等の取得割合もしくは男性の育児休業等+育児目的休暇の取得割合を毎年少なくとも1回、公表する義務があります。

常時雇用する労働者数が101人以上の企業は、女性の職業選択に資する情報を概ね年1回、定期的に公表しなければなりません(企業規模によって公表すべき項目数が異なります)。

  • 労働者数301人以上の企業: 以下の区分から1項目以上、合計4項目すべての公表が必要です。
    • 男女の賃金の差異(必須項目)
    • 管理的地位にある労働者に占める女性の割合
    • 職業生活に関する機会の提供に関する実績(女性の採用割合、男女別の採用競争倍率などから1項目以上選択)
    • 職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績(男女の平均勤続年数の差異、男女別の育児休業取得率などから1項目以上選択)
  • 労働者数101人〜300人の企業: 上記項目のうち、男女の賃金の差異を含む2項目以上の公表が必要です。

新卒者等の募集を行う際、企業には次の各類型から1項目以上の情報提供が求められます。年1回の公表義務はありませんが、募集・採用時に公開すべき情報です。

  • 募集・採用に関する状況: 直近3事業年度の新卒採用者数・離職者数、男女別人数、平均勤続年数。
  • 職業能力の開発・向上に関する状況: 研修の有無・内容、自己啓発支援の有無、メンター制度の有無。
  • 雇用管理に関する状況: 前年度の月平均所定外労働時間、有給休暇の平均取得日数、前年度の育児休業取得者数(男女別)。

令和8年度診療報酬改定において、ベースアップ評価料を算定する医療機関は、毎年8月に当該年度の賃金改善状況を報告する「賃金改善中間報告書」を提出する必要があります。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/人事コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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