人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、歯科医師・歯科衛生士合わせて10名が勤務する歯科クリニックです。この度、人材紹介会社経由で歯科衛生士を採用することになりました。
ところが、入社直前に候補者から「紹介会社の求人票には『賞与あり』と書いてあったが、クリニックから届いた労働条件通知書には賞与の記載がない。話が違うのではないか?」と指摘を受けました。
当院の規定では、賞与はあくまで業績や評価に応じて支給するものであり、入社初年度は原則として支給していません。事務長が紹介会社に確認したところ、担当者の入力ミスで「賞与あり」と誤って記載されていたことが判明しました。
- 紹介会社のミスであっても、求人票に「賞与あり」と記載されていた以上、当院には賞与を支払う法的義務が生じるのでしょうか?
- 候補者に対し、どのように説明すれば納得を得られるでしょうか。金銭的な補償は避けたいと考えています。
- 今後、紹介会社とのトラブルを防ぎ、求人情報の正確性を担保するための実務的な対策を教えてください。
採用直後のトラブルは、その後の定着率(ES)にも関わるため、誠実かつ法的に適切な対応をとりたいと考えています。
ご相談への回答

求人情報と実際の労働条件の相違は、求職者の信頼を著しく損なうだけでなく、「未払い賃金」を巡る法的紛争に発展するリスクがあります。結論から申し上げますと、紹介会社のミスであっても、求人内容を訂正せずに採用した場合は、求人票の条件が労働契約の内容とみなされる可能性が高いため、早急な是正と誠実な説明が不可欠です。
求人票と労働条件通知書の「整合性」と法的リスク
過去の労働裁判では、「採用時に求人票の内容を変更する特段の合意がない限り、求人票の記載内容がそのまま労働契約の内容になる」という判決が複数出されています。
- クリニックの責任: 紹介会社が誤記したとしても、その情報を掲載し、求職者を誘引したのはクリニック側であるとみなされます。
- 契約の成立: 候補者が「賞与あり」という条件を前提に応募し、クリニック側も条件の相違を告げずに内定を出した場合、法的には「賞与あり」の条件で合意したと解釈されるリスクがあります。
- 未払い請求のリスク: すでに入社してしまった後に相違が発覚した場合、初年度の賞与相当額について金銭的な補償を求められる可能性があります。
候補者への誠実な説明と対応ポイント
まだ入社前であれば、まずは紹介会社の誤記であったことを率直に謝罪し、改めて当院の賞与制度の性質を正しく説明することが先決です。
- 制度の性質を説明: 「当院の賞与は業績・評価連動型であり、支給を100%確約するものではないこと」「初年度は算定期間の関係で無支給となる可能性があること」を、就業規則(賃金規程)に基づき丁寧に伝えます。
- 労働条件通知書の再提示: 誤解を解消した上で、正しい条件を記載した労働条件通知書を改めて提示し、本人の合意を得るプロセスが必要です。この際、本人が辞退を申し出た場合は、無理に引き止めず、紹介会社側と選考の中止について協議することになります。
紹介会社への是正依頼と再発防止策
紹介会社との関係においても、ガバナンスを効かせた対応が求められます。
- 是正依頼と契約確認: 誤記が判明した時点で直ちに紹介会社へ求人票の修正を依頼してください。また、紹介会社との業務委託契約を確認し、紹介会社側の過失による早期離職やトラブルが発生した場合の紹介料の返還特約や免責事項をチェックしておくことも重要です。
- 求人票チェック体制の構築: 今後は職種別・役職別の求人情報テンプレートを作成し、出稿時と公開前に、複数の担当者(院長と事務長など)で内容を確認する仕組みを整えましょう。
本件のポイント

- 採用時に求人内容の変更について明示的な合意がない限り、求人票の条件がそのまま労働契約の内容とされるリスクがある。
- 賞与が「確約ではない」場合は、トラブル防止のため、労働条件通知書に「業績等により支給しないことがある」旨や初年度の取り扱いを明記すべきである。
- 紹介会社のミスであっても、最終的な責任(安全配慮義務や説明責任)はクリニック側にあることを自覚し、誠実な謝罪と説明を行う。
- 「職員の満足(ES)が診療の質を高める(SPC)」という視点から、入社前の条件不一致は最優先で解決すべき経営課題である。
求人トラブルは、スタッフのロイヤルティを初期段階で損なう最大の要因です。正しいルールと仕組みに基づいた採用実務を徹底し、透明性の高いクリニック運営を目指しましょう。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。