人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院で勤務する歯科衛生士の育児休業の延長について相談です。 本人から「保育園の入園申し込みをうっかり忘れてしまい、育児休業の期限までに間に合わなかった。これから入園の申し込みを行うのでそれまで育児休業を延長したい。」と連絡がありました。
当院の就業規則(育児休業規程)では、延長の事由として「保育所に入所を希望しているが、入所できない場合」と定めています。
- 本人の申し込み忘れにより入所できない場合、育児休業の終了を理由に、復職を求めることは法的に問題はありませんか?
- 当院独自の福利厚生として、育児・介護休業法の定めとは別に、育児休業の延長を認めることは可能でしょうか?
- もし当院独自の判断で育児休業延長を認めた場合、延長した期間の「育児休業給付金」は支給されますか?
全く想定外の出来事が起こり、すでに診療予約で埋まっている来月以降の人員体制の調整など、どのように対応すべきか苦慮しています。
ご相談への回答

スタッフの「うっかりミス」による保育園の申し込み遅延は、クリニックの診療体制にも影響を及ぼすため、非常に頭の痛い問題ですね…。それではご質問の順に法的な観点と、雇用保険の給付実務の観点から整理いたします。
法的な復職命令に問題はないか?:問題なし
育児・介護休業法において、1歳以降の育児休業延長が認められるのは、原則として 「保育所等の利用を希望し、申し込みを行っているが、当面その実施が行われない場合」 に限られます。
今回のケースのように、スタッフが申し込みを失念していた場合は、この要件を満たさず、法的な強制力を持つ延長事由には該当しないため、貴院が休業延長の請求を拒否し、 当初の予定通り復職を求めることに法的な問題はありません。
クリニック独自の判断で延長を認めてよいか?:可能
育児・介護休業法が定める基準は、あくまで「最低基準」です。 貴院がスタッフに対する福利厚生の一環として、 法的な義務を超えて独自の判断で「1ヶ月の休業延長」を認めてあげることは全く問題ありません(むしろ推奨されます)。
この場合、貴院の就業規則(育児休業規程)の定めに準じた、あるいは労使間における個別の合意に基づく「特別の休業」という扱いになります。
延長期間中の「育児休業給付金」は受け取れるか?:原則不可
ここが最も注意すべきポイントです。雇用保険から支給される「育児休業給付金」の延長は、育児・介護休業法に基づいた適正な延長であることが条件となります。
ハローワークでは、1歳以降の給付金延長審査において、 「入所希望日が1歳の誕生日以前であること」や「適切な時期に申し込みを行っていること」を厳格にチェックします。 今回のように申し込みを失念し、誕生日(1歳到達日)時点で選考対象にもなっていない場合、法的な延長事由とは認められず、 独自の延長期間中の給付金は支給対象外となります。
また、虚偽の申請(申し込み忘れを隠して給付金の申請書を作成するなど)を貴院が手伝ってしまうと、不正受給の連帯責任を問われるリスクもあるため、くれぐれもご注意下さい。
本件のポイント

- 申し込み忘れによる「入園待ち」は法定の延長事由に該当しないため、クリニックには復職を命じる権利がある。
- 自院独自の判断で育休延長を認めることは可能だが、その期間の給付金は受け取れない可能性が高いことを本人に説明しておく必要がある。
- ハローワークは「入所できない事実」を証明書等で厳格に審査するため、手続上のミスによる延長は救済されないケースがほとんどである。
- スタッフには「制度の趣旨」を説明し、復職に向けた現実的な話し合い(家族の協力や一時預かりの利用検討など)を行うことが望ましい。
歯科クリニックは少人数で運営されていることが多く、スタッフ一人ひとりの復職時期は経営に直結します。ルールに基づいた毅然とした対応と、状況に合わせた柔軟な配慮のバランスを慎重に検討しましょう。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。



