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004(制度概要)_雇用政策

医療経営者なら知っておきたい女性活躍推進施策の概要と現状

女性労働者の比率が高い医療業界において、女性活躍推進に関する法令や施策を知ることは、自院の人事マネジメントにおいて必須の要素です。本記事では、女性活躍推進に関する施策の全体像を俯瞰的に把握できるように、特に重要なポイントをまとめています。

女性活躍推進の歴史的変遷と社会経済的背景

M字カーブからL字カーブへ

日本の女性就労は、単なる労働力の確保という枠を超え、現在は「個の能力の最大化」を目指す戦略的なフェーズへと移行しています。かつて1985年に制定された「男女雇用機会均等法」により、募集や採用、配置・昇進における男女の機会均等が法的に整備されました。

その後、労働基準法の改正を経て、女性に対する時間外労働や深夜業の制限が解消され、制度上は男性と同等の働き方が可能となりました。しかし、長らく課題とされてきたのは、結婚や出産を機に離職する女性が多いことによる「M字カーブ」現象でした。

(厚生労働白書より転載)

近年、このM字カーブの底は上昇し、欧州のような台形に近い形になりつつありますが、依然として第1子出産を機に約3割の女性が退職するという現実が残っています。

さらに、就業率の改善とは裏腹に、30代以降に正規雇用比率が低下し続ける「L字カーブ」が、日本特有の構造的問題として浮き彫りになっています。これは、一度正規雇用を離れると非正規雇用に固定化されやすい労働市場の硬直性を示しています。

(厚生労働白書より転載)

女性活躍推進法の誕生

このような状況下で、日本は深刻な少子高齢化と労働力不足に直面しており、持続的な経済成長のためには多様な人材の活用(ダイバーシティ)が不可欠な国家戦略となっています。2016年に全面施行された「女性活躍推進法」は、こうした社会背景をもとに、企業の行動変容を促すために誕生しました。

さらに、令和7年の法改正により、同法の有効期限は2036年(令和18年)3月31日まで延長されることが決定しています。企業にとって女性活躍推進は、もはや福利厚生や社会貢献ではなく、優秀な人材を確保し、組織の生産性を高めて持続的な成長を実現するための「経営戦略の中核」といえます。

一般事業主行動計画の策定とPDCAサイクルの確立

一般事業主行動計画とは?

女性活躍推進を実効性のあるものにするためのロードマップが「一般事業主行動計画」です。この計画は、自社の女性の活躍状況をデータで分析し、課題解決に向けた具体的なアクションを宣言するものです。現在、常時雇用する労働者が101人以上の事業主には、この計画の策定・届出・公表が義務付けられています(100人以下は努力義務)。

行動計画を策定する際には、まず「採用者に占める女性比率」「男女の平均継続勤務年数の差異」「労働時間の状況」「管理職に占める女性比率」「男女の賃金の差異」といった基礎項目について現状把握と課題分析を行います。その結果を踏まえ、計画には以下の4要素を盛り込む必要があります。

  1. 計画期間(一般的に2〜5年程度)
  2. 数値目標(企業規模に応じ、機会提供と両立支援の区分から設定)
  3. 取組内容(目標達成のための具体的な施策)
  4. 実施時期(いつから取り組むか)

実績の検証と改善を継続する

策定した計画は、全従業員への周知、外部(インターネット等)への公表を経て、管轄の労働局へ届け出る必要があります。外部公表の場としては、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」への掲載が推奨されており、これにより求職者等へ自社の魅力を効果的にアピールできます。

重要なのは、計画を策定して終わりにするのではなく、PDCAサイクルを回すことです。計画(Plan)に基づき取り組みを実施(Do)し、定期的に数値目標の達成状況を評価(Check)します。この「評価(Check)」の際に活用されるのが、次に述べる「女性の活躍に関する情報の公表」における実績データです。

目標に届かなかった場合は、要因を分析して改善(Action)を検討し、次期の計画へと反映させます。このサイクルを繰り返すことで、組織風土の根本的な見直しと職場環境の持続的な改善が可能となります。

情報可視化と「えるぼし認定」による企業価値向上

えるぼし認定を取得する意義

(厚労省HPより転載)

2026年(令和8年)4月より、女性活躍推進法の改正に伴い、情報の可視化がさらに強化されます。特に、常時雇用する労働者101人以上のすべての企業において、「男女の賃金の差異」と「女性管理職比率」の公表が必須となります。これらの実績データは、企業の現状を示す「通知表」のような役割を果たし、求職者が企業を選択する際の重要な指標となります。

こうした法的義務をクリアし、女性活躍の取り組みが特に優良な企業として国から認められた証が「えるぼし認定」です。認定を受けることで、厚生労働大臣が定める認定マーク(えるぼしマーク)を求人票や商品、名刺等に使用できるようになり、社内外に「女性が活躍できる会社」であることを強力にアピールできます。

認定の取得方法とメリット

(厚労省HPより転載)

えるぼし認定には、評価項目の達成度に応じて3段階の認定があり、さらに特に優良な企業には「プラチナえるぼし」という特例認定が用意されています。認定の評価ポイントは、(1)採用、(2)継続就業、(3)働き方、(4)管理職比率、(5)多様なキャリアコースの5項目です。

令和8年4月からは、新たに「えるぼしプラス」「プラチナえるぼしプラス」が新設されました。これは、従来の基準に加えて、月経や更年期、妊娠・出産といった「女性の健康上の特性」への配慮・支援に取り組む企業を評価するものです。

認定マークの取得には、以下のような実利的なメリットがあります。

  • 人材確保の優位性:働きやすい環境が可視化され、優秀な人材の応募増と定着が期待できます。
  • 社会的信頼の向上:ESG投資を重視する投資家や取引先からの評価が高まります。
  • 公共調達での優遇:国の公共調達において加点評価を受けられるため、受注機会が拡大します。
  • 金融面での優遇:日本政策金融公庫の低利融資制度を利用できます。
  • 事務的負担の軽減:プラチナ認定企業は、行動計画の策定・届出が免除されるという大きなメリットがあります。

実務を支える公的ツールの効果的な活用

(厚労省HPより転載)

女性活躍推進を効率的かつ正確に進めるために、国は様々な公的ツールを無料で提供しています。これらを活用することで、人事担当者の事務負担を軽減しつつ、質の高い分析と情報発信が可能になります。

主要なツールとして、以下の5つが挙げられます。

  1. 女性の活躍推進企業データベース:国内最大級のプラットフォームであり、自社の計画や実績を公表するだけでなく、他社の数値を検索してベンチマーク(比較分析)することも可能です。
  2. 男女間賃金差異分析ツール:2022年から義務化の対象が広がった賃金差異について、Excelベースで要因を分析できるツールです。役職や勤続年数ごとの差異を自動算出し、「なぜ差異が生じているのか」という根本原因(管理職比率の低さや残業時間の差など)を特定するのに役立ちます。
  3. アンコンシャス・バイアス研修とチェックリスト:女性活躍を阻む「無意識の思い込み」に気づくためのセルフ診断ツールや動画です。管理職が「女性には責任ある仕事は無理だろう」といったバイアスを解消することで、公正な評価と人材登用が可能になります。
  4. ロールモデル紹介マニュアル・事例集:女性社員が将来のキャリア像を描くための指針として、社内のロールモデルを発掘・紹介するノウハウが提供されています。
  5. 地域ネットワーク:社内だけでは解決できない課題を、異業種交流や地域の勉強会を通じて解決するための情報です。外部の視点を取り入れることで、組織の活性化につながります。

これらのツールを適切に使い分けることで、単なる数値の算出に留まらず、その背景にある課題を特定し、説得力のある説明(情報公表時の注釈欄の活用など)を対外的に発信できるようになります。

女性活躍推進アドバイザーによる専門的支援

(厚労省HPより転載)

専門的支援の主な内容

「何から手をつければいいのかわからない」「自社の課題がどこにあるのか客観的に知りたい」といった悩みを抱える企業に対して、国が実施しているのが「女性活躍推進アドバイザー」による無料の支援事業です。

アドバイザーは、社会保険労務士や中小企業診断士などの国家資格を持ち、かつ特定の研修を修了した専門家で構成されています。支援の内容は非常に具体的で、以下のようなメニューが提供されます。

  • 現状分析と課題の特定:複雑な基礎項目の算出方法やデータの収集方法を指導し、自社の「どこに問題があるのか」を客観的に示します。
  • 行動計画の策定・改定支援:業種や規模に応じた実効性の高い目標設定と取組内容の立案をサポートします。
  • 情報公開の支援:特に算出が難しい「男女間賃金差異」の計算方法や、データベースへの具体的な入力方法を実務レベルで教示します。
  • 「えるぼし認定」等の取得支援:認定基準とのギャップ分析を行い、申請書類の準備や手続きの留意点を助言します。

アドバイザー活用のメリット

通常、1企業につき3回(最大4回まで)の個別コンサルティングを無料で受けることが可能であり、オンライン(Zoom等)または直接訪問のいずれかを選択できます。初回のヒアリングで現状を把握し、2回目で課題設定と施策の検討を行い、最終回で結果の評価と今後の展望を確認するというステップで進められます。

この事業の大きな特徴は、単なる知識の提供だけでなく、各企業の行動変容を促す「伴走型支援」である点です。専門家の客観的な視点を取り入れることで、社内のアンコンシャス・バイアスを解消し、前時代的な価値観から脱却した「生産性の高い組織」への変革を加速させることができます。

事務負担を最小限に抑えつつ、最短距離で認定取得や環境整備を目指す上で、この公的な支援制度の活用は企業にとって極めて有効な選択肢となるでしょう。

筆者(社会保険労務士)は令和8年度の女性活躍推進アドバイザーに選任されました。他の公的経営支援事業と異なり、本事業ではアドバイザーを指名できません(事務局がマッチング)が、ぜひ本事業を積極的に活用し、女性スタッフの採用・定着を促進しましょう。

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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/人事コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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