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02_経理のしごと

医療会計の基本を押さえる③「キャッシュ・フロー計算書(C/F)の読み方と活用法」

筆者は人事部出身の社会保険労務士ですが、かつて建設会社で8年、総合病院で2年にわたり経理部門で年次決算や資金繰りなどの実務にも携わっていました(1級建設業経理士、日商簿記2級、FP技能士2級)。本カテゴリーでは、元経理マンとしての筆者の経験などを踏まえつつ、歯科クリニック経営に資する財務会計の基礎知識をご紹介します。

キャッシュ・フロー計算書の目的

キャッシュ・フロー計算書(CashFlowStatement:C/F)は、一会計期間における歯科クリニックの資金(キャッシュ)の収入と支出の流れを明らかにするための基本財務諸表です。

損益計算書(P/L)が「発生主義」に基づいて利益を計算するのに対し、キャッシュ・フロー計算書は「実現(現金)主義」に基づき、実際に手元にある現金預金が期首から期末にかけてどれだけ増減し、期末にいくらのキャッシュが残ったかを示します。

P/L上では黒字であっても、医業未収金の回収遅延や過大な設備投資、借入金の返済によって手元資金が底をつく「黒字倒産」や「勘定合って銭足らず」という事態が起こり得ます。資金繰りの実態を正確に把握し、持続可能なクリニック経営を行うために不可欠な財務諸表です。

発生主義とは代金の受領や支払いの有無に関わらず、売上や費用が発生した時点で損益を計上する考え方です。一方の実現主義とは実際に代金を受領あるいは支払いを確認した時点で入出金を計上する考え方です。

キャッシュ・フロー計算書の構成

キャッシュ・フロー計算書は、資金の動きをその要因ごとに以下の3つの活動区分に整理して表示します。

  1. 業務活動によるキャッシュ・フロー:診療活動など本業の営業・運営活動によって得た(または費やした)資金を示します。
  2. 投資活動によるキャッシュ・フロー:診療用ユニットやレントゲン・CTなどの設備投資、医療機器の購入や売却に伴う資金の動きを示します。
  3. 財務活動によるキャッシュ・フロー:金融機関や福祉医療機構からの資金調達(借入)や、既存借入金の返済に伴う資金の動きを示します。

主な勘定科目(C/F編)

歯科クリニックのキャッシュ・フロー計算書で用いられる主な項目は以下の通りです。

  • 業務活動C/Fの項目
    • 税引前当期純利益(損益差額):P/Lから引き継ぐ手元の利益ベース
    • 減価償却費(加算項目):費用として計上されますが、実際の現金流出を伴わないため、利益に足し戻します
    • 医業未収金の増減:未回収の診療報酬等が増えるとキャッシュは減少します
  • 投資活動C/Fの項目
    • 有形固定資産の取得による支出:ユニットやCT、電子カルテ導入などの設備投資費用
  • 財務活動C/Fの項目
    • 長期・短期借入による収入:金融機関からの新規融資額
    • 借入金の返済による支出:毎月の借入金元本の返済額

通常は費用が発生すると必ず支払いを伴いますが、減価償却費は保有資産の経年劣化に伴う資産価値の低下分を費用に振り替えて減価するだけですので支出を伴いません。一方で費用計上することで利益を圧縮(節税)できるため、内部金融などと呼ばれています。

主要科目の平均値(C/F編)

第25回(2025年)医療経済実態調査における歯科診療所(1施設当たり平均)のデータを参考にして、クリニックの平均的なキャッシュ・フローの推計を試みます。

  • 医業収益:7,740.2万円
  • 損益差額(利益):1,211.5万円
  • 減価償却費:396.7万円
  • 簡易営業キャッシュ・フロー(損益差額+減価償却費):約1,608.2万円

歯科クリニックでは、本業で生み出した年間約1,600万円の資金(業務CF)の中から、既存の長期借入金(平均残高:2,629.6万円)の元本返済(財務CF)や、老朽化した医療機器の更新投資(投資CF)を賄う構造になっています。

個人診療所(損益差額1,562.2万円)では損益差額に院長生活費が含まれるため、実質的な内部留保資金は目減りします。一方、医療法人(損益差額668.0万円+減価償却費538.6万円=約1,206.6万円)では、院長報酬支払い後の残課税利益と減価償却費から着実に返済と投資を行う計画性が求められます。

主な財務分析指標(C/F編)

自院の資金繰りと財務的健全性を評価するために注視すべき主な指標は以下の4つです。

  1. フリー・キャッシュ・フロー(FCF)
    • 計算式:業務活動CF-投資活動CF
    • ポイント:クリニックが本業で稼ぎ出し、自由に使える真の余剰資金です。これがプラスであれば、外部借入に頼らず自力で返済や手元資金の蓄積が可能です。
  2. 簡易キャッシュ・フロー(年間資金生成力)
    • 計算式:当期純利益(損益差額)+減価償却費
    • ポイント:P/L上の数値から簡便に返済原資を測定する指標です。この額が年間の借入金元本返済額を上回っていなければ、資金繰りは次第に圧迫されます。
  3. 債務償還年数(N値)
    • 計算式:有利子負債残高÷簡易キャッシュ・フロー
    • ポイント:現在の資金生成力で借入金を何年で完済できるかを示します。歯科経営では10年以内が健全な目安とされます。
  4. キャッシュ・フロー当利率(医業収益対キャッシュ・フロー比率)
    • 計算式:(業務活動CF÷医業収益)×100(%)
    • ポイント:売上(医業収益)に対してどれだけ効率よく手元現金を生み出せているかを示します。

黒字倒産リスクは診療報酬を例にとるとわかりやすいです。通常、診療月の翌月10日までに社保基金や国保連に対してレセプト請求を行い、保険者から保険負担分が入金されるのがさらに翌月の20日頃です。つまり診療月に医業収入を計上しても、実際に医療保険負担分(医療費の7割)が入金されるまでおよそ2ヶ月のタイムラグが生じます。

一方でその間に従業員の給与や医薬品費、歯科材料費、リース料などの支払いが先行します。地域一番クリニックであっても支払資金がショートすると倒産しますが、これが「黒字倒産」です。そこでキャッシュ・フロー計算書で資金繰りを予想し、短期借入や医療ファクタリングを活用することで事前に資金ショートのリスクを回避します。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/人事コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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