人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院を運営する理事長から、「ベテランの歯科技工士であるAさんの労働契約を、来月から『業務委託契約』に切り替えるように」と指示を受け、対応に困っています。
Aさんは現在、期間の定めのない正職員として勤務しており、社会保険や労働保険にも加入しています。理事長は、業務委託に切り替えることで、クリニックが負担している社会保険料(法定福利費)や定期昇給などの人件費を削減したいという意向のようです。
しかし、長年当院で勤務しているAさん本人が、こんな突然の話に納得してくれるとは思えませんし、そもそもこのようにクリニック側の都合で労働条件を勝手に変えてしまっても法的に問題はないのでしょうか?
ご相談への回答

社会保険料等の負担軽減を目的に、雇用関係を業務委託(請負)関係へ切り替えようとすることは、極めて高い法的リスクが伴います。
「労働契約」と「業務請負契約」は全く異質
まず正しく理解しておくべき点は、 「業務委託契約」は労働契約の一形態ではなく、事業者間の商取引契約である ということです。
雇用から委託へ切り替えるということは、現在の労働契約を一度終了(退職)させ、Aさんを「個人事業主」として独立させた上で、新たに貴院から仕事を発注する契約を結び直すことを意味しますので、単なる「労働条件の変更」とは全く次元が異なる話です。
一方的な契約切り替えは「解雇」に該当する
労働契約法において、労働契約の終了や労働条件の変更は、 「労使の合意」に基づくことが基本原則 です。
Aさんが自ら「歯科技工業で独立して、今後は外注先として前職の仕事を請け負いたい」と希望した場合は問題ありませんが、クリニック側の都合で一方的に労働契約を解除し、業務委託への移行を強制することは、事実上の 「解雇」 とみなされます。
このような一方的な契約終了は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない限り、 「解雇権の濫用(不当解雇)」として法的に無効 です。
形式上のみ委託は「偽装請負」とみなされる
たとえAさん本人の合意を得て業務委託へ移行したとしても、実態が伴わなければ 「偽装請負」 という別の問題が生じます。契約上は「業務委託」であっても、以下のような実態であれば、法的には「労働者」であると判断されます。
- Aさんに貴院からの依頼を受けるかどうか決める権限がない。
- 依然として貴院から業務の進め方について具体的な指示・命令を受けている。
- 報酬の決め方が従前の賃金と変わらない(勤務時間や勤務日数等で計算)。
この場合、労働者としての権利(社会保険への加入義務や残業代の支払い、有給休暇の付与等)が消滅せず、後から遡及して保険料や未払い賃金を請求されるなどの甚大なペナルティを科されるリスクがあります。
本件のポイント

- 業務委託は「事業者間の契約」であり、労働者としての保護(賃金・労働時間・休日)から外れることを意味する。
- クリニック側からの一方的な労働契約の解除および委託切り替えは不当解雇とみなされ、無効となる可能性が高い。
- スタッフ本人の真の自由意思(独立開業の希望等)による合意がない限り、契約形態の変更は行うことはできない。
- 実態が伴わない見せかけの業務委託(偽装請負)は、コンプライアンス違反として厳しいペナルティの対象となる。
労働契約から業務委託契約への変更は、起業した経験の無い労働者には極めてリスクが高く、また事業主側にも諸刃の剣となる危険な選択です。もし人件費削減をチラつかせてこのような提案をする人事コンサルタントが近寄ってきても、絶対に取り合ってはいけません。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。



