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001(制度概要)_労働基準

労使トラブルを未然に防ぐ!経営者であれば必ず押さえておきたい「労働契約の5つの基本原則」

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

はじめに

歯科クリニックの経営において、歯科衛生士や歯科助手との雇用関係のスタートとなる「労働契約」は、最も頻繁に行われる手続きの一つです。しかし、小規模なクリニックでは「言った、言わない」の口約束で済ませてしまい、後の未払い残業代請求や解雇を巡るトラブルに発展するケースが少なくありません。

健全なクリニック運営のためには、労働契約がどのような原則に基づき、どのような義務を伴うのかを正しく理解しておく必要があります。本記事では、労働契約法が定める「労働契約の5つの基本原則」を中心に、歯科現場での実務ポイントを解説します。

労働契約は労使それぞれの義務と権利

労働契約の本質は非常にシンプルです。それは、労働者が「労働を行う義務(労務提供義務)」を負い、使用者がそれに対して「賃金の支払義務」を負うという合意です。義務と権利は表裏一体の関係ですから、労働者には「賃金を受け取る権利」、使用者は「労働力を提供してもらう権利」をそれぞれ有しているともいえます。

歯科現場に当てはめると、歯科衛生士がプロフェッショナルとして診療補助や予防処置に従事し、院長がその対価として給与を支払うという約束が成立した時点で、労働契約は法的な効力を持ちます。この契約は、必ずしも書面によることを要しませんが、後述する通りトラブル防止には書面化が不可欠です。

労働契約を支える「5つの基本原則」

労働契約法第3条では、労働契約の基本的な理念として以下の5原則を定めています。

  1. 労使対等の原則:労働者と使用者が、対等の立場において合意により締結・変更すること。たとえば院長が雇い主の強い立場を背景に、スタッフに対して不利な労働条件を一方的に押し付けることは認められません。
  2. 均衡考慮の原則:例えば正社員とパートスタッフなど、就業の実態(仕事の内容や責任の重さ)に応じ、バランスのとれた処遇を考慮すること。
  3. 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)への配慮の原則:育児や介護など、スタッフの私生活との調和に配慮すること。
  4. 信義誠実の原則:労使双方が契約を遵守し、信義に従い誠実に権利を行使し、義務を履行すること。
  5. 権利濫用の禁止の原則:契約に基づく権利を濫用してはならないこと。例えば、合理的な理由のない人事異動や懲戒処分は無効となります。

「合意」があっても無効になる? 労基法の強行法規的性質

ここで注意しなければならないのは、労働契約においては民法の「私的自治の原則」と「民事不介入の原則」は適用されないという点です。これらは契約の当事者さえ合意していれば、契約内容を自由に決めてよく、契約内容を巡ってトラブルになっても国家権力は関知しない(民事で争え)という契約法理の基本原則です。

しかし労働基準法は「強行法規的性質」を持っており、法律が定める最低基準に達しない労働条件を定めた契約は、たとえ契約の当事者(使用者と労働者)が合意していたとしても、その部分について無効となります。例えば「残業代は一切支払わない」という契約内容は無効とされ、労働基準法のルールが強制適用されます。

歯科クリニックにおける「書面確認」の重要性

労働契約法では、契約内容について「できる限り書面により確認すること」を努力義務として定めています(注;労働基準法は雇入れ時に必ず書面で労働条件通知書を交付することを義務付けています→別の記事で詳述します)。

歯科クリニックは高度な専門職が集まる職場であり、個々のスタッフの職域や職責が多様です。採用時に「基本給に何の手当が含まれるのか」「将来の就業場所や業務の範囲はどうなるのか」といった事項を書面できちんと明示することは、スタッフの理解を深めるだけでなく、クリニック側のガバナンスを強化することに繋がります。

また、サービス・プロフィット・チェーン(SPC)の視点からも、明確な契約に基づいた公平な処遇は、職員満足(ES)を高め、ひいては診療の質の向上と患者満足(PS)を生み出す起点となります。

まとめ

労働契約は、単なる「雇い・雇われる」という関係を超えた、法的な権利と義務の束であり、労働契約5原則に基づいた誠実な契約の締結は、スタッフとの信頼関係を築く第一歩です。

多忙な院長先生が、最新の判例や法改正を反映した契約実務をすべて把握するのは困難な場合もあります。募集時の条件と入社後の実態に齟齬が生じないよう、定期的に自院の契約形態を点検し、必要に応じて社会保険労務士などの専門家からアドバイスを受けることをお勧めします。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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