人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院では、経験豊富な高齢のスタッフを積極的に雇用しており、就業規則では60歳を定年と定めて運用しています。しかし、期間の定めのある有期雇用契約で働くスタッフには、法的に「定年」という概念がありません。そのため、60歳以降に入社された方が5年を超えて勤務し、その後に「無期転換権」を行使された場合の対応に課題を抱えています。
実際、他院では75歳のスタッフから無期転換を申し込まれ、トラブルに発展したケースもあると聞きました。このような高齢スタッフによる無期転換申込を防止し、適切な雇用継続を行うための対策や実例があればご教授ください。
ご相談への回答

労働集約型産業である医療機関や介護施設において、ベテラン層の活用は貴重な戦力となりますが、有期雇用の更新が5年間を超えると「無期転換ルール」への対応が不可欠となります。そこでご相談のケースについて、有効な対策を2つ提案させていただきます。
対策その1:無期雇用転換除外の特例認定を申請する
定年再雇用後のスタッフに対して、就業規則等で「70歳をもって契約更新を終了する」と明記していても、再雇用後に通算5年を経過すれば無期雇用転換権が発生します。この権利発生を回避しようと5年満了時に「雇止め」を行うと、不当解雇とみなされる法的なリスクを伴います。
そこで、都道府県労働局(または所轄の労働基準監督署)において、「有期雇用特別措置法に基づく特例認定」 を受ける方法が有効です。この認定を受けることで、定年再雇用後のスタッフについては、無期雇用転換権の発生を除外することができます。
ただし、これはあくまで「定年時に無期雇用であった者が、定年後に引き続き有期雇用で再雇用された場合」に限定されます。定年(60歳)を過ぎてから有期雇用契約で入社したスタッフには、この特例認定は適用されない点に注意が必要です。
対策その2:定年を65歳に引き上げる
貴院のように高齢者の新規採用が少なくない場合は、思い切って 「定年を65歳に引き上げる」 ことも検討に値します。 つまり最初からすべての従業員を無期雇用で雇い入れ、65歳で定年を迎える制度設計に修正するのです。
どのみち高年齢雇用安定法により、65歳までは継続雇用や再雇用制度などによる雇用確保措置義務があるため、定年引き上げによる実務上の懸念事項は、退職金の調整を除けばそれほど多くありません。
そして全員が無期雇用契約の状態で65歳の定年を迎えるようにすることで、前述の「有期雇用特別措置法に基づく特例認定」を、65歳再雇用後のすべてのスタッフに対して適用できるようになります。
もし70歳到達により契約を終了したとしても、法に定める70歳までの就労確保措置(努力義務)を果たしていることになり、法的なリスクも極めて低く抑えられます。
本件のポイント

- 定年再雇用後の無期転換権の発生を回避するには、有期雇用特別措置法の特例認定申請が有効である。
- 特例認定は「定年時に無期雇用だった人」が対象であり、定年後に新規採用された有期雇用の人には適用されない。
- 定年を65歳に引き上げ、最初から無期雇用で受け入れることで、全従業員に再雇用後の特例認定を活用できる土壌が整う。
- 無期転換権の発生を嫌って安易に「雇止め」を検討することは、紛争や不当解雇のリスクを招くため避けるべきである。
典型的な労働集約型産業かつ対人サービス業である医療・介護業界において、スタッフの経験年数が医療・介護サービスの質に直結すると言っても過言ではありませんので、高齢スタッフの活用と世代交代の両立は不可避の経営課題だと考えています。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。
