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001(制度概要)_労働基準

医療経営における公的介護制度と人事管理のポイント

医療経営において超高齢社会への対応は、患者へのサービス提供のみならず、働くスタッフの生活支援(人事管理)の両面で避けては通れない最重要課題です。本記事では育児・介護休業法にもとづく介護支援制度を中心に、関連する公的制度や法令の要点をまとめます。

超高齢社会と介護の現況

医療サービス提供者から見た介護

わが国は世界でも類を見ないスピードで超高齢社会に突入しており、2050年には3人に1人が高齢者になると推定されています。これに伴い医療のパラダイムは「治癒(キュア)」中心の病院完結型から、生活を支える「ケア」中心の地域完結型医療へとシフトしています。

このような社会情勢において、医療・介護が連携して高齢者を支える「地域包括ケアシステム」の構築が進められており、中でも歯科診療は口腔ケアを通じて誤嚥性肺炎を予防し、摂食・嚥下リハビリテーションで生活機能の維持・向上を支える重要な役割を担っています。

現在は「多死時代」であると同時に、高齢者が多くの歯を持つ「多歯時代」でもあります。厚生労働省と日本歯科医師会が提唱した8020運動の成果も相まって、在宅や施設での継続的な口腔管理(シームレスな口腔ケア)へのニーズはますます高まっています。

経営者(人事管理)から見た介護

医療・介護現場は典型的な労働集約型産業であり、サービス価値は「人的資源」に依存します。一方で、歯科従事者の採用難や離職は深刻な経営課題です。

現在、働き盛りの世代が家族の介護を担う「ビジネスケアラー」の増加が社会問題となっており、仕事と介護の両立ができずに離職する「介護離職」の防止は、事業主が果たすべき重要な社会的責任です。

仕事と介護の両立を図り、スタッフが安心して働き続けられる環境を整える「職員満足(ES)」の向上が、巡り巡って質の高い医療提供(PS)と経営の安定に繋がってゆくため、診療サービスのみならず、人事管理の視点からも介護を考えてゆく必要があります。

介護と仕事を両立する公的支援制度

要介護状態(負傷、疾病、心身の障害により2週間以上常時介護を要する状態)にある対象家族を介護する労働者は、育児・介護休業法により雇用継続のための支援を、また雇用保険法により経済的支援を受けることができます(休業給付金は別記事で解説します)。

介護休業

要介護状態にある対象家族を介護する労働者は、使用者に申し出ることで、対象家族1人につき、通算93日まで介護休業を行うことができます。介護休業は最大3回まで分割して取得でき、使用者は労働者からの介護休業の申し出を拒否することができません。

あわせて雇用保険から、休業開始前賃金の原則67%相当の「介護休業給付金」が支給されます。なお介護休業に対しては、2025年に新設された育児休業給付金を補完するための出生後休業支援給付金のような制度は設けられていません。

介護休暇

育児休業における「子の看護休暇」に該当するのが「介護休暇」制度です。対象家族の通院の付き添いや介護サービスの続き、その他の世話など、1年度につき、対象家族が1人なら5日、2人以上なら10日を限度として取得できます。時間単位での取得も可能です。

労働者から請求された場合、使用者は介護休暇を拒否できませんが、労使協定を締結することで、入職6ヶ月未満の労働者や週の所定労働時間が2日以下の労働者について、介護休暇の対象外とすることができます。また介護休暇は無給で構いません。

介護のための時短勤務

介護のためにフルタイム勤務が困難な労働者について、所定労働時間を短縮する措置です。なお「3歳に満たない子を養育するための時短措置」のように「1日6時間以下」といった具体的なルールは設けられていない点に注意が必要です。

事業主は、介護休業とは別に、利用開始から3年間で2回以上利用できる「所定労働時間の短縮(時短勤務)」、「始業時刻の変更(フレックスタイム制等)」、または「介護サービス費用の助成」などの措置の中からいずれかを講じなければなりません。

まぎらわしい介護制度を交通整理する

ここで介護にまつわる公的制度のうち、人事管理に密接に関係する介護保険制度、育児・介護休業制度、労災保険制度の介護補償等給付について、それぞれの目的や介護の要件等の相違などを整理してみます。

介護制度の目的のちがい

  • 介護保険法:加齢に伴う要介護状態に対し「自立した日常生活」を営むための支援(現物給付)を「被保険者本人」(40歳以上)に提供します。
  • 育児・介護休業法:対象家族を介護する「労働者(介護する側)」の雇用継続を支援するため、休業や休暇の権利、労働時間の配慮を事業主に義務づけます。
  • 労災保険法の介護補償等給付:業務災害や通勤災害により重度の障害(第1級・第2級)を負った「被災労働者本人」に対し、介護費用の実費を補填します。

要介護の対象者のちがい

  • 介護保険法:日常生活の基本動作に支障がある状態が「6ヵ月間以上」継続する見込みを要件とし、市町村による要介護認定が必要です。被保険者本人(40歳以上)が対象ですが、40歳〜64歳の第2号被保険者は特定疾病による場合に限られます。
  • 育児・介護休業法:負傷・疾病等により「2週間以上」常時介護を要する状態を要件とし、介護保険より短い期間のニーズに対応。労働者が介護する配偶者、父母、子、祖父母など特定の家族(同居・扶養の有無問わず)が対象となります。
  • 労災保険法の介護補償等給付:業務災害や通勤災害による重度の傷病あるいは障害等級(第1級または第2級)の傷病年金もしくは障害年金受給者である「被災労働者本人」が対象となります。

医療経営者として介護とどう向き合うか?

医療・介護連携の要となる歯科診療

外来通院が困難な高齢者に対し、歯科訪問診療を積極的に展開することが求められます。通院困難な理由が要介護状態である場合、歯科医師はケアマネジャー等と連携し、「口腔機能管理計画」にもとづく継続的な管理(歯科疾患在宅療養管理料等)を行います。

また、がん手術等の「周術期」における口腔機能管理は、肺炎等の合併症予防に極めて有効であり、医科歯科連携の鍵となります。

歯科クリニックの経営者がすべきこと

スタッフが直面する介護問題を他人事とせず、法を上回る柔軟な支援体制を構築することが、求人力と定着率の強化に繋がります。介護休業等の申出を理由とした解雇や降格などの不利益な取扱いは厳禁であり、職場での嫌がらせ(ケアハラスメント)を防止する措置を講じなければなりません。

また、小規模なクリニックであっても、スタッフの労働時間を適正に管理し、ライフイベントに応じた多様な働き方(時短勤務やワーク・シェアリング)を許容する組織文化を醸成することが、持続可能な経営を実現する道となります。

医療経営者は、地域包括ケアの提供者として介護に向き合うと同時に、従業員の介護離職防止も責務です。本記事は、介護保険、育児・介護休業、労災保険の各制度の目的・対象者・期間の違いを整理しました。スタッフ支援と経営安定化の一助となれば幸いです。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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