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001(制度概要)_労働基準

歯科クリニック経営が抱える業界特有の人事課題と4つの戦略

歯科クリニック経営における人事管理は、有資格者による専門職集団という特性と、小規模組織ゆえの密接な人間関係、そして深刻な人材不足という特有の課題を抱えています。本記事ではその特徴、問題点、および今後の課題について簡潔にご紹介します。

歯科クリニックの組織構造と人事管理における特徴

歯科クリニックは、歯科医師、歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士、受付事務といった多種多様な専門職種で構成される「職能別組織」としての側面を持ちます。

  • 小規模経営と労働集約性
    歯科クリニックの約6割は歯科医師1名体制で運営されており、個人経営が約74%を占めています。医療サービスは「生産と消費が同時」に行われるため、人的資源がサービスの価値を決定づける労働集約型産業です。
  • タコツボ化の懸念
    専門職集団であるがゆえに、病院組織におけるタテ割り意識は強烈です。各スタッフが自らの専門領域に閉じこもり、組織全体の経営や患者サービスを俯瞰できなくなる「タコツボ化」のリスクもあります。
  • 管理者の二面性
    院長(歯科医師)は臨床のリーダーであると同時に、経営者として人事管理を担わねばなりませんが、こういった管理者としての二面性により、臨床と経営の優先順位の葛藤(医経分離の矛盾)が生じやすい環境にあります。

歯科クリニックが直面している人事管理のリスク

現在の歯科経営において、最も深刻な問題は「人材の確保」と「職域の曖昧さ」です。

  • 深刻な歯科衛生士不足
    約8割のクリニックが歯科衛生士を雇用しているものの「応募がない」「経済的に無理」といった理由で確保に苦慮している実態があります。昨今の採用難の状態は、既存スタッフの負担増を招き、さらなる離職を呼ぶ悪循環を生んでいます。
  • 職場の人間関係による離職
    スタッフが辞める最大の理由は、給与や仕事量よりも「人間関係」にあります。小規模な密室空間での業務はストレスが溜まりやすく、1人の不適切な人材が周囲の優良なスタッフを離職させるリスクを孕んでいます。
  • 無資格者による業務代行のリスク
    歯科助手が術者として直接口腔内に手を入れることは禁じられています。しかし、人手不足を背景に歯科医師や衛生士が行うべき業務を助手が代行したり、診療録の記載を事務員に丸投げするケースがあり、これは法的なリスクを伴います。
  • 労働条件の不備
    従業員10人未満の小規模なクリニックでは就業規則の作成義務がないことから、労働時間、休憩、残業代の支払い(36協定)などの就業ルールが不明瞭なことが多く、労務コンプライアンス違反や労使トラブルの原因となったりします。

歯科クリニック経営を取り巻く社会経済情勢

  • 物価高騰と賃上げ圧力
    2024年度の調査では、歯科医療機関の約3割が「経営の見通しが立たない」あるいは「閉院を検討」しており、その主な理由は「物価高騰による経費増」です。スタッフの賃上げ原資を診療報酬で補填しきれない中、医療機関の持ち出しで給与を引き上げざるを得ない苦しい現状があります。
  • 医療DXへの対応負担
    オンライン資格確認や電子処方箋、医療情報システムの安全管理(二要素認証の導入等)など、IT化に伴う新たな業務知識の習得と管理負担がスタッフに課せられています。医療DX以外にも労働安全衛生関係の届出が、事業規模を問わず電子申請が義務化されるなど、DX対応は喫緊の課題です。
  • 健康管理とハラスメント対策
    歯科医師の働き方改革による時間外上限特例の撤廃、カスタマー(ペイシェント)ハラスメント防止措置の義務化、ストレスチェックテストの対象事業所および社会保険の適用労働者の拡大が予定されている等、小規模クリニックといえども人事管理体制の構築は不可避な時代となりつつあります。

経営基盤を強化するための4つの人事戦略

健全な経営を維持するためには、単なる「労務管理」から、スタッフを人財として活かす「人的資源管理(HRM)」への転換が必要です。高い従業員満足度こそ良質な医療サービスの源泉ですから、人件費をコストと見るのではなく投資と捉えるべきです。

  • ES(従業員満足)からPS(患者満足)へ
    「職員満足(ES)が顧客満足(PS)を生み、それが利益につながる」というサービス・プロフィット・チェーン(SPC)の構築が重要です。スタッフが仕事にやりがいを感じ、プロとしての誇りを持てる環境が、医療の質を担保します。
  • 理念(Mission)と価値観(Value)の共有
    自院の理念と価値観を明確にし、採用の段階でこれらの合致を確認することで、ミスマッチによる早期離職を防ぎます。理念は自院の存在目的であり、価値観は理念を実現するために必要な考え方や習慣(行動規範)なのです。
  • 教育研修の体系化と円滑な運用
    臨床スキルだけでなく、接遇、コミュニケーション、医療安全などの教育を計画的に行う必要があります。OJT(職場内訓練)とOff-JT(職場外訓練)を組み合わせ、クリニカルラダーなどのキャリアパスの構築がスタッフ定着に寄与します。
  • 事務部門(経営管理部門)の強化
    臨床と経営は良質な医療サービス提供の車軸の両輪です。院長が臨床に専念できるよう、医事や労務、会計を担当する事務スタッフの専門性を高め、クリニック全体の最適化を図る体制を整えることが、持続的な経営の鍵となります。

歯科クリニック経営における人事管理とは、人を活かすルールづくり、仕組みづくり、ヒトづくりが全てです。スタッフ一人ひとりが自発的にクリニック運営に参画し、チームとして機能する組織文化を醸成することが、厳しい経営環境を生き抜く唯一の道と言えます。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/人事コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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