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003(制度概要)_社会保険

随時改定(月額変更)はトリガー要件と判定要件の2点をおさえる

「定時決定」と並んで重要かつ複雑なのが「随時改定」です。定時決定と同様に随時改定に苦手意識を持つ方は少くありませんが、給与改定が多い業種は、随時改定(月額変更届)のルールを正確に把握しておくことが、適正な保険料算定と給与計算に直結します。

社会保険料のしくみ

標準報酬月額とは?

健康保険や厚生年金保険の社会保険料は、個々の被保険者の標準報酬月額に、それぞれの保険料率を乗じて算出されます。算出された保険料の額は、原則として事業主と被保険者が折半して負担し、翌月の末日までにそれぞれの負担額を合算して日本年金機構に納付します。

労働保険料(労災保険と雇用保険)が、事業場ごとに、1年間(4月から翌3月まで)に支払った賃金総額をもとに保険料を計算し、年度更新の際に一括で納付するのに対し、社会保険料は「被保険者ごと」「支払いごと」に保険料を計算し、納付する点が大きく異なります。

労働保険と比較して、保険料の徴収・納付事務が煩雑な社会保険では、個々の被保険者に支払った給与の額に保険料を乗じるのではなく、健康保険は50等級、厚生年金保険なら32等級に設定された標準報酬月額にあてはめ、これに保険料率を乗じて保険料を計算します。

標準報酬月額の改定は年一回

標準報酬月額は、新たに被保険者となったタイミングで決定されます。これを(資格)取得時決定といい、取得時決定による標準報酬月額は、月々の給与支給額の多寡にかかわらず、原則として次の8月までそのまま継続されます。

しかし昇給や給与手当の変動などにより、現在の給与支給額と標準報酬月額との間に乖離が生じることが一般的ですので、毎年7月1日時点の被保険者を対象に、4月~6月の3ヶ月間の平均給与をもとに、9月から標準報酬月額を改定(定時決定)します。

随時改定の目的としくみ

随時改定は定時決定の例外的処理

定時決定は年に一度しか行われないため、年の途中で昇給や降給、あるいは昇任等によって報酬が大幅に変動した場合、9月の標準報酬月額の改定を待っていては、実際の給与の支給額と社会保険料との間に大きな乖離が生じ、公平性を欠くことになります。

そこで一定の水準を超える給与支給額の変動があった場合に、定時決定を待たずに、現在の給与支給額に見合った社会保険料に改定するための制度が随時改定であり、随時改定を行う際に、各保険者に提出する届出書が、報酬月額変更届(月変届)です。

随時改定のトリガーとなるケース

随時改定は「固定的賃金の変動」が要件です。一般的には次のようケースが生じた場合に、随時改定に該当するかどうかチェックを行います。

  • 基本給の変動:等級号俸の変更(定期昇給等)や給与テーブルを見直した場合(ベースアップ)が該当します。少額の昇給であっても、現在の標準報酬月額が等級の上限や下限に近い場合は、随時改定の対象となることがあります。
  • 諸手当の変更:昇任に伴う役職手当の付与(あるいは降職による減額)、配置転換による職種給の変更、扶養家族の異動や転居による家族手当、住宅手当の変更などがよくあるケースです。
  • 通勤手当の改定:転居に伴い通勤手当の額が変更になった場合ですが、公共交通機関の運賃改定により、通勤手当の支給額を調整する場合も含まれます。ただし、出勤日数の多寡による通勤手当の増減は、固定的賃金の変動にはあたりません。
  • 現物給与の価額改定:会社が契約して従業員に貸与している社宅のうち現物給与とみなされる額が改定された場合です。2026年10月より現物給与の算定ルールが居室部分のみから住居の総床面積になるため、随時改定の対象者にご注意ください。

随時改定の判定

3つの要件を全て満たすこと

随時改定は、以下の3つの条件をすべて満たしたときに行われます。

  1. 昇給・降給等により、固定的賃金に変動があったこと(前章を参照)
  2. 変動月以後、継続した3ヶ月間の報酬支払基礎日数がすべて基準日数以上であること
  3. 3ヶ月間の報酬平均による等級と、現在の等級との間に2等級以上の差が生じたこと

要件を満たした場合、変動があった月から4ヶ月目に標準報酬月額が改定されます。事業主は「報酬月額変更届(月変届)」を速やかに年金事務所および健康保険組合に提出しなければなりません。なお協会けんぽの場合は、年金事務所を経由して提出します。

報酬支払基礎日数は3ヶ月すべて

算定の対象となる3ヶ月間の各月の支払基礎日数は、被保険者の区分に応じて以下の通り定められています。

  • 通常の労働者(正社員等):いずれの月も17日以上
  • 短時間就労者(4分の3基準を満たす準社員等):いずれの月も17日以上
  • 短時間労働者(社会保険に加入するパート等):いずれの月も11日以上

定時決定と随時改定の大きな違いは、前者は1ヶ月でも報酬支払基礎日数に達した月があれば、その月の報酬の額をもとに標準報酬月額の改定を行いますが、随時改定はあくまでも臨時的措置ですので、3ヶ月全てが報酬支払基礎日数をクリアしている場合に限ります。

また、定時決定(および産休・育休明けの改定)では、短時間就労者について「3ヶ月すべてが17日未満の場合は15日以上の月で算定する」という特例がありますが、随時改定においてはこの特例もありません(短時間就労者と短時間労働者の違いは定時決定の記事を参照)

総支給額と標準報酬月額に2等級の差

2等級以上の差を判定する際は、基本給だけでなく残業手当などの「非固定的賃金」も含めた総報酬額で計算します。つまり随時改定のトリガーは固定的賃金の変動のみを対象としますが、随時改定の要否はあくまでも総支給額で判定する点に注意が必要です。

なお、残業代をガンガン稼いでいた係長が、課長(管理職)に昇任したとたん、一時的に総支給額が減ってしまうことがあります。固定的賃金は上がったものの、残業代が無くなって総報酬の平均額が下がってしまった場合は、随時改定は行われません。

随時改定の例外

随時改定の対象とならないケース

以下のようなケースでは、報酬に変動があっても随時改定は行われません。

  • 固定的賃金の変動がない場合:残業代だけが大幅に増えて2等級以上の差が生じても、基本給や役職手当などの固定的賃金が変わっていなければ随時改定の対象にはなりません(次回の定時決定で反映されます)。
  • 一時的な変動:例えば感染症に罹患した疑いがあり、医師の診断が確定するまで自宅待機(休職)を命じられた場合は、平均賃金の6割以上の休業手当が支給されますが、この場合は固定的賃金の変動には該当しません。

保険者算定が行われるケース

通常の算定方法(3ヶ月平均)で報酬月額を算出することが著しく不当であると認められる場合には、保険者算定が行われます。たとえば過去に遡って昇給が行なわれた場合に、未払い分の差額を一括して清算する場合などは、調整分を除外して算定します。

固定的賃金の改定が行なわれた時期と業務の繁忙期が重複した場合、3ヶ月の総支給額の平均が、年間の平均総支給額と著しく(2等級以上)乖離する場合には、年間平均額にもとづいた改定が認められることがあります。

随時改定のバリエーション

産前産後・育児休業終了時の改定

産前産後休業や育児休業の終了後に、子の養育のために時短勤務で復職した場合、時短勤務によって給与が下がるのに、休業前の標準報酬月額にもとづく社会保険料を負担させるのは不合理なので、随時改定よりもさらに緩い要件で標準報酬月額を改定できる制度です。

たとえば産前産後・育児休業終了時の改定は、固定的賃金の変動は要件ではなく、総支給額に1等級以上の差が生じていれば可能です。判定期間の3ヶ月間の全ての月が報酬支払基礎日数17日(短時間労働者は11日)をクリアしていなくても構いません。

定年再雇用時の改定

定年退職後に再雇用される場合、いったん労働契約を終了し、新たな労働契約を締結することになりますが、健康保険法や厚生年金保険法では、1日の空白もなく引き続き再雇用される場合は、雇用が継続しているものとみなし、被保険者資格を喪失することができません。

もっとも定年再雇用の場合は、定年前に比べて給与が大幅に下がるケースが大部分ですが、随時改定が行なわれるまでの3ヶ月間において、定年前の社会保険料が継続されるのは不合理なので、退職日の翌日(=再雇用日)に資格の喪失と資格の取得を同時に行う「同日得喪」が認められています。

同日得喪により、再就職した日から、新たな給与の額に応じた、新たな標準報酬月額が適用されることになります。

標準報酬月額は年に一度しか改定しない(定時決定)ため、定期昇給以外のイレギュラーな給与改定を想定して随時改定という特例があります。さらに随時改定では適切に処理できない産育休明けや定年再雇用のために、随時改定の要件を緩和したさらなる特例があります。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/人事コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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