昭和モデルから令和モデルへ
2022年に女性労働者数および就業率が過去最高を記録し、今後もさらなる女性の社会進出と職業生活の可能性が拡大してゆくことが予想されるが、G7やOECD諸国の中では日本の女性労働者の処遇は依然として最下位ランクにあるのが実情である。
そこで政府は、新しい資本主義政策の中核として、男女平等を推進する取り組みを強化し、女性の経済的自立を促進すると発表した。また男女共同参画白書において、男は仕事、女は家庭といった昭和モデルから、日本の将来を担う若い世代が理想的な人生を実現できる令和モデルへ移行すべきと提言している。
統計でみる日本の男女格差
雇用形態の男女比較
総務省統計局の労働力調査(2024年7月分)によれば全国の雇用者数は5,757万人で、性別ごとの正規雇用者と非正規雇用者の比率をみると、男性が正規77.9%:非正規22.1%だったのに対し、女性は正規47.0%:非正規53.0%と、依然として非正規率が高いことがわかる。
特に男性の対前年同月増減値は、非正規雇用から正規雇用への転換が進んでいることを示しているが、女性に関しては正規雇用の絶対数が増えただけで、依然として非正規雇用の待遇に甘んじている女性が多いのではないかと推察する。
G7加盟国の女性管理職の割合
2023年のOECDのレポート「Joining Forces for Gender Equality What is holding us back?(ジェンダー平等のために力を合わせよう。我々を阻害するものは何か?)」の中で、日本の職場における男女差別の実態を、次のように紹介している。
日本はジェンダー平等に関して長年の課題を抱えている。日本はOECD加盟国の中で、労働参加率の男女格差はOECD平均より大きく、多くの母親がパートタイムで働いている。また公的部門の雇用の半分以下を占める日本人女性だが、OECD加盟国の中で公的リーダー職における女性の割合は最も低く、国会議員の議席数も最も少なくなっている。民間部門における管理職の女性の割合も同じである。
Joining Forces for Gender Equality What is holding us back?(OECD2023)
男女間の賃金格差(OECD)
OECDの2022年の統計によると、日本では、男性労働者の賃金の半分しかもらっていない女性労働者は21.3%もおり、性別による賃金格差について、日本はOECD加盟国の中でワースト3位となっている。
男女間の賃金格差は、家事の不平等な分担、同じ技能でも職務や責任が会社内で異なる、女性主体の職業の過小評価など、長年の構造的不平等に起因する頑固な課題として残っている。日本では、フルタイム就労者の男女賃金格差は約22%と、OECD加盟国の中で最大級である。しかし、この格差は2010年以降約6パーセントポイント縮小しており、OECD全体の縮小速度の約2倍となっている。
Joining Forces for Gender Equality What is holding us back?(OECD2023)
年齢階層別労働力人口の男女比較
これは内閣府の発行している男女共同参画白書(令和5年版)から転載したグラフで、男女の年齢階層別の雇用身分の比率を表したものである。男性の正規雇用者が安定した台形状のグラフを描くのに対し、女性は20代後半をピークに正規雇用者が激減している。
これについて同白書では、女性は、正規雇用労働者として働くことと家事・育児等を両立させることに課題を感じ、非正規雇用労働者として働くことを選択している場合が多いことが分かる、と解説している。
家族構成については、昭和60年には全体のおよそ6割を核家族と三世代世帯が占めていたのに対し、令和2年ではおよそ半分に減少している。その代わり単身者が2倍弱に増加しており、女性は家庭に入るもの、といった昭和時代の価値観はもはや通用しなくなっている。
女性の就労に関して留意すべき法令
男女差別の禁止
労働基準法では、女性であることを理由に給与条件を差別することを禁止している。また男女雇用機会均等法では、労働者の募集および採用、採用後の配置、昇進、降格、教育訓練、福利厚生、退職、定年、契約更新など、あらゆる処遇における女性差別を禁止している。
出産育児に関する制度
労働基準法では、産前6週間および産後8週間の女性を就業させることを禁止している。事業主は、産前産後休業中の女性労働者に賃金を支払う義務はないが、その代わり産前産後休業中の生活保障として、健康保険から出産手当金(休業前賃金の2/3)が給付される。
出産すると健康保険から出産育児一時金が支給される。金額は出産した子ひとりあたり48万8千円であり、産科医療補償制度の加入病院で出産した場合には、50万円となる。
産前産後休業を終了した日の翌日から、子が1歳になるまでの間、育児介護休業法の育児休業を取得できる。育児休業中の賃金も事業主には支払い義務はないが、雇用保険から育児休業給付金(休業180日まで休業前賃金の最大67%、180日後は最大50%)が支給される。
女性の就業制限
労働基準法の規定により、使用者は、妊娠中の女性が請求した場合は、軽易な作業に配置転換しなければならない。また妊産婦(妊娠中および産後1年を経過しない女性)が請求した場合に、法定時間外労働や法定休日労働、深夜時間帯の就業をさせることを禁止している。
労働基準法では、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求した場合は、使用者は生理休暇を与えなければならない旨を義務付けている。生理休暇は半日もしくは時間単位で付与しても構わないが、生理休暇の取得日数に上限を設けることは禁止されている。
労働基準法では、生後1年に満たない子を育てる女性は、通常の休憩時間以外に、1日2回それぞれ30分の育児時間を使用者に請求することができる旨を定めており、使用者は育児時間中の女性を就業させることはできない。
ハラスメント防止措置
男女雇用機会均等法は、事業主に対して職場におけるセクシャルハラスメントやマタニティハラスメントの防止措置を講じることを義務付けている。具体的には、全従業員への周知啓発、苦情相談窓口の設置、行為者に対する懲戒処分や再発防止教育の実施等である。
社会保険料の優遇措置
健康保険法および厚生年金保険法では、産前産後休業中および育児休業中の被保険者の社会保険料を免除するとしている。また休業後の時短勤務によって賃金が下がった場合は、随時改定の要件に該当しなくても、産前産後休業後もしくは育児休業後の標準報酬月額の改定を行う。
さらに厚生年金保険法には、3歳に満たない子を養育する者(男性や役員も含む)が、前述の改定により標準報酬月額が低下した場合でも、将来、老齢厚生年金を受給する際の年金額の計算においては、低下前の標準報酬月額を用いるという特例もある。
産前産後休業中および育児休業中の社会保険料免除は被保険者を対象としているので役員も含まれる。ただし育児介護休業法において育児休業の対象を労働者としているため、役員は育児休業を取得できない=社会保険料免除を受けられない。
女性が働きやすい職場づくり
一般事業主行動計画の策定等
女性活躍推進法は、女性の職業生活における活躍を推進するため、女性の個性と能力が十分に発揮できるようにすること、また家庭生活との円滑かつ継続的な両立を可能とすることを目的として、従業員数100人超の事業主に一般事業主行動計画の策定等を義務付けている。
具体的には、採用した労働者に占める女性の割合、男女の平均勤続年数の差異、管理職に占める女性労働者の割合等について、現在の状況と今後の改善目標を行動計画に落とし込み、厚生労働省への届出、インターネットでの公表、社内での周知を義務付けている。
女性の職業選択に資する情報の公表
女性の職業選択に資する情報として、従業員数300人超の事業主は次の2項目の全てを、また従業員数100人超の事業主はそれらのいずれかひとつを、求職者が簡単に閲覧できるよう、自社のホームページに掲示する等の方法で、公表する義務がある。
- 女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供
(例)採用労働者に占める女性の割合、採用における男女別の競争率、管理職に占める女性の割合、係長職に占める女性の割合、男女別の中途採用もしくは再雇用の実績等 - 職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備
(例)男女の平均勤続年数の差異、直近10年間の男女別の継続雇用割合、男女別の育児休業取得率、1ヶ月あたりの平均残業時間、有給休暇の取得率等
女性人材の活用まとめ
日本の職場において女性差別やセクハラが無くならない要因のひとつに、日本企業の伝統的慣行であるウェットなメンバーシップ型雇用があげられる。
これは協調性や謙虚さなどといった個人の人柄の良し悪しによって(実態はキーマンのお気に入りかどうかで)処遇を決める適材適所人事のことだが、評価の基準が極めて主観的かつ個人の恣意性が多分に介在するため、不透明かつ不公正、不公平な人事になりがちである。
女性以外にも高年齢者、障害者、派遣労働者などの非正規雇用、また最終学歴など、職種の特性や難易度、専門性とはおよそ関係のない要素にもとづく不合理な人事がまかり通っていることが、今日の日本企業の労働生産性の低さを招いたと考えている。
これらの悪しき雇用慣行を是正し、改善してゆくには、できるだけ多くの職場が可及的速やかにジョブ型雇用および適所適材人事に移行し、客観的な人事評価と納得感のある公明正大な処遇を柱とした、合理的な人事制度を確立してゆくことである。