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就職先としての小売業

2024年9月25日

就職先としての小売業アイキャッチ

小売業界の特徴

小売業はメーカーの製造した商品を、卸売業を経由して仕入れ、自社の店舗に陳列して不特定多数の消費者に販売することで、利益を得る業種である。小売業の代表的なものには、百貨店、総合スーパー、食品スーパー、コンビニエンスストア、ホームセンター、ドラッグストアや家電量販店などの専門店や、ガソリンスタンドなどの燃料小売店などもあり幅広い。

取り扱い商品の違いによる分類を業種といい、例えば食品スーパーやコンビニエンスストアのように品揃えが概ね重複しているものの、出店立地や店舗規模、営業時間帯など販売方法の違いによる分類を業態という。このようにひとくちに小売業といっても実態は多種多様であり、業種や業態によって働き方が異なるため、就活に際しては十分な企業研究を行うべきだろう。

筆者は学生時代にコンビニ、食品スーパー、総合スーパー、卸売市場でアルバイトをしていた。新卒で地元のコンビニ本部に就職し、開発部や直営店の店長などを経験した後、当時北海道に進出を果たしたばかりの大手スーパーに転職し、売り場主任を経て販売課長になった。キャリアチェンジのために31歳で業界を離れたが、ある程度は内情を知っているつもりだ。

スーパーマーケットの組織

本記事では、小売業の体表的な業態であるスーパーマーケットを例に、組織体系や職種の種類、キャリアパスなどを解説してゆく。さて、一般的なスーパーマーケットは本部と店舗で構成されていて、本部は経営戦略の立案機能や経営管理の機能に、また店舗は出店先の商圏に密着した販売機能に、それぞれ特化した完全分業制が大きな特徴である。

本部の組織体制

商品部
商品部は主に店舗の基本的な品揃えを決定し、バイヤーと呼ばれる仕入れ担当者が、食品メーカーの営業担当者と商談を行って商品を一括仕入れする。チェーンストアの場合は本部集中仕入れによって、スケールメリットを活かした価格交渉を行うことができる。そして商品部は商品カテゴリーごとに、全社的な売上高や利益率などに対して数値責任を負う。

営業部
営業部は全社的な営業戦略と販売計画にもとづき、出店エリアごとにチェーン店舗の営業成績の進捗コントロールを行う。営業部は店長職の次のステップとして位置づけられており、ブロック長やスーパーバイザーと呼ばれるエリアごとの営業責任者が、担当エリアの商圏分析を行ったり、商品部と連携して担当店舗のマーチャンダイジングの支援を行う。

開発部
スーパーマーケットの開発部は、商品部や営業部に比べて少数精鋭のチームであることが一般的である。開発部は主に出店用地の確保のために地権者や出店先の地域関係者との調整を行ったり、店舗の建設の際に設計会社やゼネコンなどとの打ち合わせを担当したりする。他部署に比べると大店立地法、都市計画法、中心市街地活性化法などの特殊な専門知識を要する。

管理部
管理部は経理部、人事部、情報システム部、広報部、総務部など、経営管理に必要な専門事項を扱う、少数のスペシャリストで構成された部署である。企業の経営活動全般に対し、コンプライアンスや公的制度などの面からチェック&フォローを行う部門であることが多い。法的な問題が発生した時は、社外の弁護士や税理士、社会保険労務士との連絡窓口となる。

マーチャンダイジングとは小売業者における品揃えの手法である。自前で商品開発できない小売業者が、消費者のライフスタイルに合った自社独自の品揃えを提案することで、競合他社との差別化を図ることができる。

店舗の組織体制

管理職
中規模(売場面積2,000㎡)以上の店舗では、店長、販売課長、総務課長の3役体制であることが多い。店長は店舗の最高経営責任者であり、自店が出店しているショッピングセンターのスムーズな運用のために同友店との連携も担当する。販売課長は店長に代わって店内の販売活動の一切を取り仕切る。そして総務課長は事務や施設管理などの後方業務を管理する。

売場部門
食品スーパーの場合は、青果、鮮魚、精肉の生鮮3部門と、惣菜、日配、グロサリー、日用雑貨などの非生鮮部門、そしてチェッカーなどのカスタマーサービス部門で構成されている。各部門の長は主任やチーフなどと呼ばれており、その下に部門の特性に応じた販売スタッフが配置されている。生鮮部門と惣菜部門は商品加工作業を要するため人員数が多めに配置される。

店内の売上シェアは日配、グロサリー、日用雑貨などが大部分を占めるが、利益率は生鮮部門と惣菜部門の方が高い。ゆえにこれらの部門を商圏に合わせて最適に配分し、店全体で適切な売上ボリュームと利益率を目指すことを粗利ミックス戦略という。

小売業のキャリアパス

新入社員
ここでは一般的な販売職のキャリアパスを例に解説する。まず新卒で入社するとたいていはそのまま店舗に配属され、先輩社員からのOJTを通じて商品陳列、店内外のクリンネス、商品発注、在庫管理、接遇応対など、店舗販売の基本動作を学ぶことになる。人事制度がしっかりした企業では、定期的にOFF-JTによる座学での集合研修なども行ってくれる。

売場主任(チーフ)
入社して3年ほどで売場主任に昇進し、配下の社員やパートタイマー、アルバイトをマネジメントしながら、担当部門の売上予算と利益予算の達成を目指す。売場主任が効率的に業績マネジメントを行うためには、販売分析や労務管理などの基礎知識を習得する必要がある。部門によっては10名前後の大所帯となるため、リーダーシップも求められる。

コース選別(ラインとスタッフ)
売場主任の次のステップからライン部門とスタッフ部門に分かれてゆく企業もある。ライン部門は営業部など、営業活動の中核部門であり、スタッフ部門はそれぞれの専門分野においてライン部門を支援する商品部や管理部などである。ライン部門は生え抜きから幹部を目指してステップアップしてゆくが、スタッフ部門は専門家を中途採用することも多い。

店長・販売課長
30歳半ば〜40歳にかけて販売課長あるいは店長のポジションに就く。売場主任までは自身の実務経験の延長線上にポストがあったが、販売課長からは未経験部門も含めて数値責任を負ってゆくことになる。ゆえに販売課長は主任達の自主性を尊重しつつ、主任単独では処理できないイレギュラーを拾って本部や他部門と協議し、迅速に解消してゆく調整能力が求められる。

ブロック長・スーパーバイザー
店長のうち、本部に異動してブロック長もしくはスーパーバイザーとして、地区ごとに系列店の店長や販売課長を支援する場合もある。かつては店長達の中でも古参のアガリのポジションという印象が強かったが、今どきは店舗オペレーション、組織マネジメント、マーケティング分析に精通し、ファシリテーション能力に長けた社内コンサル的な位置づけである。

全国にチェーン展開している大手企業では、昇進と転勤がセットになっていることが多いが、例えば昇進は売場主任までだが、転勤は同一市内のみといった、昇進よりワークライフバランス優先のキャリアを従業員が選択できる制度のある企業も少なくない。

小売業で働くメリット・デメリット

業界の良い点

合理主義的な風土
小売業界の黎明期に米国式チェーンストア理論を提唱し、多くの経営者に影響を与えた故渥美俊一先生の指導もあり、小売業界ではかなり早い段階から勘と経験、気合と根性などといった精神論的な仕事のやり方を否定し、理論と実践にもとづく科学的アプローチを重視してきたため、他の業界に比べて合理主義的な風土が醸成されているのではないかと思う。

質の高い人材教育
バブル時代、チェーンストア各社はスクラップアンドビルドに熱心だった。これは積極的に新規出店を繰り返しつつ、採算に見合わなければさっさと撤退して、より有望な商圏に出店し直すという経営戦略であるが、この急速な出店攻勢を支えるべく、特に大手リテーラーでは、進出先で採用した人材を短期間で戦力化するために独自の人材育成プログラムを確立していた。

マネジメント経験
スーパーの売場主任は一般企業の係長に相当するが、部門によっては10名前後のメンバーが配置されるため、課長レベルのマネジメントスキルを学ぶことができる。また中型店の販売課長は、非正規雇用も含めて70〜80名くらいの部下を抱えることになり、自身の未経験部門も含めて売場主任を束ねながら営業目標を達成してゆくため、部長職の働き方を疑似体験できる。

大手ほど資本力とマンパワーを活かして職種別、階層別のきめ細やかな人材教育プログラムを用意しており、また小売業では部下達の仕事を通じて自部門の成果を上げてゆかねばならないため、必然的にマネジメントスキルが磨かれる。

業界の悪い点

地味な単純作業
小売業の仕事は、仮説にもとづき販売計画を立案し、計画に従って販売活動を行い、販売結果を分析・検証して次回の販売計画に活かしてゆくことだが、チームメンバーが一丸となって大きなセールを成功させ、目標数値を達成した時などはやりがいを感じる。一方で仕事の圧倒的大部分は、売場での商品陳列やクリンネスなどの地味な単純作業の繰り返しである。

低賃金
小売業界の平均年収は雇われ役員や管理職クラスも含めて低い。そもそも商品単価や利益率の低い商品を、労働集約型(人件費大)の装置産業(設備費大)で販売するのだから、個々の従業員への還元が少なくなるのは仕方ない。ゆえに自身も含めて同僚達の暮らしぶりは総じて質素だった記憶がある。もし高級外車やタワマンに興味があるのなら違う業種をお勧めする。

長時間労働
小売業といえば長時間労働の代表格であり、リスキリングに充当できる時間もお金も乏しいため、店員のままキャリアを終える人も少なくない。かつて「お客様の笑顔が俺達の喜び」などと、やりがい搾取みたいな事を言っていた上司もいたが、顧客満足が先か従業員満足が先かと問われたら迷わず後者である。なぜなら不幸な人間が他人を幸せにできるはずがないからだ。

私がキャリアチェンジしたのも、都合よく使い回されて店員で終わるのは嫌だったから。おかげで幅広い専門的知見を習得できましたが、もし小売業に戻るとしたら小型店の店長に興味があります。これまで培ってきた多様な経験を活かして25年ぶりに再挑戦してみたいですね。

キャリアアップのためのオススメ資格

昇進に必須の資格

日商販売士(1〜3級)
日本商工会議所の公的資格で、店頭での接遇や商品管理、販売分析、店舗運営、経営戦略など、レベルに応じて1級〜3級が設定されており、経営者から一般職まで、小売業経営に関するあらゆるノウハウを網羅的かつ体系的にまとめた秀逸な資格。「販売士は役に立たない資格」などという人もいるが、理論と実践の質をバランスよく高めてゆくことが昇進への近道である。

食品衛生責任者
食品販売店や飲食店などの商業施設は、食品衛生法にもとづき、食品加工を行う作業場に衛生管理責任者を設置しなければならない。食品スーパーの場合は生鮮3部門と惣菜部門などの責任者に取得の義務がある。食品衛生責任者の資格は、事業場を所轄する保健所の開催する講習会を受講すれば取得でき、資格証もしくは表札を作業場に掲示しなければならない。

防火管理者
商業施設など多数の者が利用する建物の火災予防のための資格で、消防法により一定の規模の建物は、その施設の管理者でなおかつ防火管理者講習を修了した者を防火管理者として選任し、所轄の消防署に届け出ることになっている。防火管理者として届け出る者は店長などに限られるが、防火管理者講習は店長職以外の者も受講することができる。

衛生管理者(第2種)
労働安全衛生法では、常時50人を超える従業員を使用する事業場において衛生管理者を選任し、労働基準監督署に届出することを使用者に義務付けている。衛生管理者は職場の労災のうち健康障害に関する防止対策を講じるのが仕事であり、免許を取得するには都道府県労働局の実施する試験に合格しなければならない。なお小売業は第2種衛生管理者免許でよい。

マネジメント力を磨く資格

日商簿記(3級)
日本商工会議所の簿記検定資格で1級〜3級まである。販売士資格でも売場の計数管理を学ぶことができるが、決算書の仕組みや収益と費用と利益の関係などをより深く理解するために、販売職であっても3級くらいは取得しておきたい。なお商品部のバイヤーに簿記2級の原価計算の知識があれば、メーカーに対してかなり突っ込んだ価格交渉をすることもできるだろう。

FP技能士(個人資産相談業務/3級)
金融財政事情研究会が運営する国家資格であり1級〜3級まである。管理職を目指すのであれば、とりあえず3級を取得して社会保険、税金、損害保険などの知識を習得しておくとよい。たとえば労務管理であれば労災保険や医療保険、老齢年金、年末調整など、施設管理なら火災保険や業務賠償保険など、実務に役立つ知識を広く浅く得ることができる。

東商ビジネス実務法務検定(3級)
東京商工会議所の公的資格で、ビジネス実務に特化した法律知識を学ぶことができる。販売士検定でも小売業に関連した法律知識を学ぶことができるが、東証ビジネス実務法務検定はケースメソッドなども踏まえたより具体的な内容を、ビジネスにおいて想定される様々なシーンごとにわかりやすくまとめているため、より実践的な法律知識を習得できる。

ITパスポート
経済産業省の国家資格で、旧初級システムアドミニストレータ資格の難易度を下げ、より多くの人に受験しやすくリニューアルしたIT系入門資格である。特に小売業ではEOSやEDI、DCMなど、マーチャンダイジングやロジスティクスの運用にITシステムは不可欠となっており、これらの保守は情報システム部門に任せるとしても、運用スキームは理解しておきたい。

インバウンド時代の必須資格

TOEIC(スコア600点)
筆者の暮らす札幌市では、これといった観光名所のない普通の生活エリアにあるスーパーで買い物をする外国人観光客が増えてきており、カタコトの英語でコミュニケーションに四苦八苦している店員を見かけることも珍しくない。そこでビジネス英語に特化したTOEICにチャレンジすることをお勧めする。最初は400点代を目指し、最終的に600点まで到達したい。

TOEICは聞き取りと読み取りなので、自分から積極的に外国人と会話する機会を創ってゆかないと話せるようにならないが、職場限定で最低限必要な英会話ができれば良い、と割り切るなら、英検よりも取り組みやすい。

就職先としての小売業まとめ

筆者の働いていた頃に比べると電子プライスカードやセルフレジなどの新しいツールが増え、EOSとEDIが統合されて伝票事務が削減され、Webチラシによって販売促進が容易になったりと、これまで人力だった作業の多くが自動化されたりして、マーチャンダイジングなどコアな業務に時間を割けるようになったのは良いことだと思う。

一方で物流業界の2024年問題、オーバーツーリズム、そして慢性的な長時間労働と従業員の高齢化など、小売業界の抱える問題も依然として多く存在する。もっとも長時間労働に関していえば、営業時間の短縮と定休日の復活により、ある程度は解消されると思う。利便性も大事だが、無理な経営がたたって地域の生活インフラが丸ごと撤退してしまうよりマシだ。

最後に、本記事は就活生向けの参考記事のように見えるが、実は経営者や採用担当者を想定して、リクルートの視点から小売業の魅力と課題を整理したものである。個人的体験をもとに論じたものなので、全てのリテーラーが当てはまる訳ではないが、GMS、SM、CVSなど10社以上で働いた経験を元にしているので当たらずしも遠からずといったところではないだろうか。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニやスーパーの販売職を経て三十路を機に人事業界に転身。20年以上にわたり人事部門で勤務先の人事制度改革に携わった後に起業。社会保険労務士試験合格。日商販売士1級、建設業経理士1級、FP技能士2級など多数取得。

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