休日と休暇・休業のちがい
労働者が長い職業生活において持続的に就業してゆくためには、健康かつ安全で文化的な生活が保障されることが不可欠である。それゆえ労働基準法をはじめとする労働法令において、休日や休暇、休業に関するルールを設け、これらを労働者の権利として保障している。
このうち休日とは労働義務の無い日をいう。労働基準法は、労働義務の無い日にもかかわらず、使用者が労働者に労働の義務を課そうとする場合には、労使協定の締結と労基署への届出および通常の賃金に法定休日労働にかかる割増賃金を上乗せすることを義務付けている。
休暇や休業は、特定の労働者に対し、労働日において労働の義務を免除する日をいう。休暇と休業には明確な法的区分は存在しないが、例えば育児介護休業法では、長期に渡る休みを休業、短期間の休みを休暇と表現している。
主な休日の種類
法定休日
労働基準法は、事業主や使用者に対し、1週間に1日、4週間に4日の休日を労働者に与えることを義務付けている。なお労働基準法では法定休日の曜日を特定していないため、何曜日を法定休日とするかは、事業主が任意で決めることができる(就業規則への明記が必要)。
所定休日
所定休日は、法定休日のほかに各事業場において独自に設ける休日であり、所定休日に関する法的な決まりは無い。ちなみに令和5年度の就労条件総合調査によると、法定休日と所定休日を合わせた年間休日数は、企業平均で110. 7日、労働者平均では115. 6日となっている。
振替休日と代休
休日の振替とは、あらかじめ法定休日と労働日を入れ替えてしまうことをいい、代休はいったん労動者を法定休日に就業させておき、事後の労働日に代わりの休暇を取得させることをいう。なお労働時間が36協定の上限内に収まっている限り、必ずしも代休を与える必要はない。
休日の振替を行った場合は、法定休日は労働日になるため、法定休日労働に対する割増賃金の支払いは不要である。一方で代休の場合は、法定休日に労働者を就業させた事実は変わらないため、事業主に法定休日労働に対する割増賃金の支払義務が生じる。
主な休暇の種類
年次有給休暇
労働基準法は、雇入後6ヶ月を経過し、その期間の労働日の8割以上を就業した労働者に対し、10日間の年次有給休暇を付与することを使用者に義務付けている。以後は初回の付与日から1年経過するごとに、法定の日数を加算した年次有給休暇を付与しなければならない。
年次有給休暇は法律で保障された労動者の権利なので、年次有給休暇の取得に際して使用者の許可や承認は不要である。また使用者は労働者が年次有給休暇を取得する時に、休暇の目的を申告させることも認められない。
子の看護休暇と介護休暇
未就学児を養育する労働者は、子の看護や予防接種の受診等のため、また家族の介護を行う労働者は、日常の生活介護や通院の付き添い等のため、育児介護休業法に定める年5日間(対象者が複数の場合は10日間)の子の看護休暇もしくは介護休暇を取得できる。
育児介護休業法は、子の看護休暇あるいは介護休暇を取得する際は、労働者は使用者にその旨を請求する必要はなく、ただ申し出ることで足りるとしている。これらの休業も法律で権利が保障されているため、使用者の承認を介する余地が無いからである。
育児休業および介護休業を取得する場合は、雇用保険から休業開始前賃金の67%〜50%の休業給付金が支給されるが、子の看護休暇および介護休暇については給付金制度は無い。またこれらの休暇を有給とするか無給とするかは事業主の任意である。
生理休暇
労働基準法は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求した場合には、その女性を就業させてはならないとしている。なお通達によると、就業が困難かどうかの判断について医師の診断書は不要であり、「辛そうだ…」といった同僚の証言で十分としている。
生理休暇は1日単位または半日単位もしくは時間単位で付与しても構わないが、使用者が生理休暇を取得できる日数に上限を設けることは禁止されている。なお生理休暇についても、有給とするか無給とするかは事業主の任意とされている。
主な休業の種類
産前産後休業
労働基準法では、出産予定日から6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、出産日から8週間の女性を労働させることを原則として禁止している。なお産前休業については女性労働者が休業することを希望しない場合は、出産予定日まで就業させても構わない。
一方で産後休業(出産日の翌日以後)は女性労働者の希望に関わらず、使用者は女性労働者を就業させることはできない。ただし産後6週間を経過した時に、医師が軽微な労働であれば就業できると診断した場合は、最後の2週間に限り就業させることができる。
産前産後休業できるのは自ら出産する女性労働者に限られる。休業中は、健康保険から休業前の賃金の2/3が出産手当金として支給されるため、事業主には休業中の賃金を保障する義務は生じない(もし休業手当を支給した場合は出産手当金が減額調整される)。
育児休業
1歳未満の子を養育する労動者は、子が1歳に達するまで育児介護休業法に定める育児休業を取得できる。育児休業は子が1歳に達するまで2回に分割して取得することも可能であるが、出産した女性は産前産後休業が優先されるため、産後8週間を経過後に育児休業を取得できる。
育児休業は男性労働者も取得できるが、男性の育休促進のため令和5年に出生時育児休業制度が創設された。これは産後8週間の間に28日分の出生時育児休業を一括もしくは2分割で取得できるもので、原則の育児休業と併用することで、子が1歳になるまで4回に分けて休業できる。
育児休業期間中は雇用保険から育児休業給付金が支給される。給付金の額は、出産から180日までは休業前賃金の67%、180日後は50%が上限となっている(男性が出生時育児休業から通常の育児休業に移行した場合は休業日数を通算して給付金を計算する)。
介護休業
育児介護休業法に定める対象家族を介護する労働者が使用者に申し出た場合は介護休業を取得できる。介護休業は93日分を一括もしくは3分割して取得することができ、休業期間中は雇用保険から休業前賃金の40%(当面は67%)を上限に休業給付金が支給される。
育児休業も介護休業も、すでに労動者の権利として法令によって保障されているため、休業にあたって使用者に請求したり、使用者の承認を得る必要はなく、申し出るだけで足りるものとされている。
介護保険法は6ヶ月間の状態により要介護(介護保険給付の対象)かどうか判定されるが、育児介護休業法では2週間にわたり常時介護もしくは随時介護を要する状態であれば、介護休業の取得要件を満たすとしている。
事業主に帰責する休業
労働基準法は、会社の資金繰りや商材の調達不能によって事業場が休業を余儀なくされたために、使用者が労働者に対して自宅待機を命じるような場合は、事業主は労働者に対して平均賃金の6割以上の休業手当を支払う義務がある旨を定めている。
労災による療養のための休業
労働者が業務災害により被災し、療養のために賃金を受けられない状態が続いた場合は、休業4日目から労災保険より休業補償給付金が支給されるが、最初の3日間については、労働基準法の災害補償義務にもとづき、事業主が平均賃金の6割以上の休業補償を行わねばならない。
前述の休業手当は労動者が労働可能なのに事業主の都合で賃金を得られないことに対する補償であり、後述の休業補償は労動者が労働不能となっていることに対する生活保障である。ゆえに前者は休業した日のみ支払えばよいが、後者は休日分も含めて支払う必要がある。
労働基準法にもとづく事業主の休業補償義務はあくまでも業務災害に限られる。通勤災害や複数業務要因災害は労働基準法に規定されていないため、これらの休業の最初の3日間(待機期間)において、事業主の休業補償義務は生じない。
休日と休暇・休業のまとめ
使用者(特に管理職)の無知によって、労動者の権利として法令で保障されている休暇や、事業主が取得を拒否できない休業などを、使用者の許可制としている事業場は少なくない。
またせっかく事業主が健康保険料や雇用保険料の半額(法定福利費)を負担しているにも関わらず、社内において休業手当金や給付金の積極的な活用が不十分な事例も散見される。
「人を大切にする企業」などとPRするのも結構だが、その企業の人事制度の良し悪しは、休日や休暇などの日頃の運用に如実に現れるものである。ゆえに自社に誤った運用があれば直ちに是正し、全ての管理職に対し就業ルールについての再教育を行うべきだろう。