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001(制度概要)_労働基準

有期雇用契約の上限と更新。医療従事者や事務員を期間雇用する場合に注意すべき「2つの壁」

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

はじめに

歯科クリニックの経営において、歯科助手や受付スタッフを「有期雇用契約」で採用することは一般的です。しかし、多くの院長先生が「有期契約なのだから、期間が満了すればいつでも自由に契約を終了(雇止め)できる」と誤解されています。

しかし有期雇用には労働基準法による「1回の契約期間の上限」と、労働契約法による「通算5年での無期転換」という、いわば「2つの壁」が存在します。

特に、長年クリニックを支えてきたベテランの助手スタッフが「通算5年」を超えて勤務する場合、法的な権利関係は劇的に変化します。本記事では、院長が知っておくべき有期雇用のルールと、トラブルを防ぐための制度設計のポイントを解説します。

有期雇用の期間制限と「高度専門職」の例外

原則としての「3年上限」と人身拘束の防止

労働基準法第14条では、有期労働契約の「1回あたりの契約期間」に上限を設けています。歯科助手や受付、事務職などの一般職については、不当な人身拘束を防止する観点から、最長で 「3年」 と定められています。

したがって、これらのスタッフと一度に「5年契約」を締結することはできません。もし3年を超える期間を定めたとしても、法的には自動的に3年の契約に短縮されます。

歯科医師と社労士に認められる「5年上限」の特例

一方で、例外的に1回の契約期間を 「最長5年」 とすることが認められているケースがあります。これが「高度の専門的知識等を有する労働者」の特例です。

この高度専門職は法令により12の職種が定められており、医師や 歯科医師 が含まれますが、注意が必要なのは、 歯科衛生士や歯科技工士、歯科助手は対象外 であるという点です。

なお、この特例が認められる国家資格には、医師・歯科医師のほか、弁護士や公認会計士、そして我々社会保険労務士も含まれています。

労働契約法の「5年ルール」と無期転換権

通算5年を超えた時に発生する「無期転換申込権」

1回あたりの契約期間とは別に、労働契約法第18条には「無期転換ルール」が定められています。これは、同一の事業主との間で有期契約が更新され、 通算契約期間が5年を超えた場合 、労働者の申し込みによって、期間の定めのない「無期労働契約」に転換できる権利(無期転換申込権)が発生する仕組みです。

例えば、1年契約を5回更新し、6年目に入ったタイミングでスタッフが「無期にしてください」と申し出れば、その次の契約(7年目)から無期雇用契約となります。

院長は拒否できない!自動的に成立する無期雇用

この無期転換申込権は非常に強力な権利です。スタッフが申し込みをした時点で、 院長側の承諾があったものとみなされ、拒否することは一切できません

さらに、2024年4月の法改正により、無期転換申込権が発生する更新の際には、労働条件通知書等で「無期転換を申し込める旨(申込機会)」と「転換後の労働条件」を 書面で明示することが義務化 されました。この明示を怠ることは労基法違反となるため、適切な契約管理がこれまで以上に求められています。

契約更新の期待権と「雇止め」の法的ハードル

反復更新によって生じる「更新への期待」

「5年経つ前に契約を終了させれば問題ない」と考えるのは早計です。

労働契約法第19条(雇止め法理)では、たとえ有期契約であっても、契約が何度も反復更新され、実態として無期雇用と変わらない状態であったり、スタッフが「次も更新される」と期待することに合理的な理由がある場合には、安易な更新拒絶を禁じています。

歯科クリニックのように、長年同じメンバーで診療を続けている現場では、この「更新の期待権」が成立しやすく、期間満了を理由としたサヨナラは容易ではありません。

客観的・合理的な理由なき雇止めは「無効」のリスク

雇止めを適法に行うには、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。スタッフの勤務態度が極めて悪い、あるいはクリニックの経営が著しく悪化して整理解雇が必要な状況であるなど、明確な理由がなければなりません。

理由なき雇止めは「不当解雇」と同等に扱われ、裁判になれば負けるリスクが非常に高くなります。また、無期転換権の行使を免れるためだけに5年直前で雇止めをすることも、脱法行為とみなされる恐れがあります。

まとめ

歯科助手や受付スタッフの有期雇用を管理する上で、押さえておくべきポイントは以下の通りです。

  • 契約期間の単位: 歯科助手や衛生士は原則「最長3年」。歯科医師(および社労士等の高度専門職)は「最長5年」が1回の契約上限です。
  • 5年の壁: 通算5年を超えて更新する場合、スタッフには「無期転換申込権」が発生し、院長はこれを拒むことができません。
  • 2024年改正: 無期転換の権利が発生するスタッフに対し、その旨を書面で告知する義務が新設されました。
  • 雇止めの厳格化: 契約満了での終了であっても、更新への期待がある場合は、解雇と同様の厳しい正当理由が求められます。

「身内感覚」の強い歯科業界だからこそ、口約束ではなく、法に基づいた透明性の高い雇用契約の締結が不可欠です。複雑な契約期間の管理や、無期転換を見据えた就業規則の整備については、高度専門職である社会保険労務士などの専門家を活用し、クリニックのガバナンスを強化することをお勧めします。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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