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001(制度概要)_労働基準

医業だから残業は当たり前?36協定の締結・届出なしにスタッフ残業させてしまうとどうなる?

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

はじめに

歯科クリニックの現場では、急患の対応や診療の延長、さらにはレセプト(診療報酬明細書)請求の時期などに、スタッフが定時を超えて働くことは珍しくありません。しかし、法的には、労働基準法(労基法)で定められた法定労働時間を超える残業や法定休日における労働は、原則として「禁止」されています

この「原則禁止」という高い壁を適法に乗り越える唯一の手段が、いわゆる「36(サブロク)協定」の締結と届出です。本記事では、多忙な院長先生や事務長が知っておくべき、残業を適法にするためのルールとリスクについて簡潔に解説します。

「残業の免罪符」:36協定の仕組みと制限

36協定がもたらす「免罰的効果」

本来、法定労働時間を超えて働かせることは法律違反ですが、労使間で「36協定」を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ることで、初めて罰則を免れることができます。これを法的に「免罰的効果」と呼びます。

ちなみに36協定とは「労働基準法第36条にもとづく労使協定」の通称です。労働基準法では、法令において原則禁止とされている条項のうち、労使間で書面による協定を締結すれば法令違反を問わないとするものがいくつか存在します。

原則的な上限:月45時間・年360時間の壁

ところで36協定さえ届け出すれば、無制限に「働かせホーダイ」などということが許されるわけではありません。

法律上の上限は、36協定を締結しても「月45時間・年360時間」と定められています。歯科クリニックの人事マネジメントにおいても、この範囲内で日々の業務を調整することが大原則です。

突発的事態に備える「特例条項」の活用

急患や機械故障に対応する「特別条項」

歯科診療では、予約外の急患対応やユニットなどの診療機械の故障といった、予測不可能な事由が生じることがあります。こうした臨時的かつ特別な事情がある場合に備えて「特別条項付き」36協定を締結することをお勧めします。

特別条項付き36協定では、年間6回(6ヶ月分)までという制限がありますが、月45時間、年360時間を超えて時間外労働をさせることが可能ですから、予期せず法令違反を犯してしまうリスクを回避することができるでしょう。

特例時でも守るべき「絶対的な上限」

特別条項を適用した場合でも、決して超えてはならないラインがあります。それは、「時間外労働と法定休日労働を合計して月100時間未満、年720時間以内」という基準です。

これを超過した場合は事由の如何を問わず、労働基準法違反として厳しい処罰(6ヶ月以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金刑)の対象となります。

割増賃金の目的は経済体ペナルティ

時間外25%、休日35%の割増義務

詳細は別の記事で改めて解説しますが、法定労働時間を超える残業に対し、事業主は通常の賃金の25%以上、法定休日労働には35%以上の割増賃金を支払う義務があります。

この割増賃金の目的は、残業奨励のインセンティブなどではなく、経営者に対する経済的なペナルティです。人件費の負担を引き上げることで、時間外・休日労働を抑制させることにあります。

深夜労働(22時〜翌5時)と健康管理

余談ですが深夜帯(22時~翌5時)の就労にも25%以上の賃金割増が必要です。それは深夜とは本来、人間が就寝して心身を休めるべき時間帯であり、この時間の就労は健康管理上、極めて好ましくないからです。

そのため、やはり深夜労働を抑制するためのペナルティ的なコストとして深夜割増が義務付けられているのです。なお時間外労働や法定休日労働が深夜時間帯に及んだ場合は、時間外割増あるいは法定休日割増に深夜割増が加算されます。

労務コンプライアンス上の注意点

届出なき残業は「懲役・罰金」のリスク

36協定の締結・届出なしに残業させた場合は、法定労働時間違反や36協定締結義務違反を問われます。労使協定の多くは締結すれば良いですが、36協定に関しては所轄の労働基準監督署への届出が必要な点もご注意ください。

また、割増賃金を支払わなかった場合は「賃金全額払いの原則」違反となり、こちらについても6ヶ月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金といった重い刑罰が科される可能性があります。

歯科特有の事情と「1年」の有効期間

無床診療所である多くの歯科クリニックでは、当直義務がなく深夜労働は発生しづらいかもしれません。また地域によっては輪番制の休日診療所があるため、法定休日労働も回避しやすい環境にあります。

しかしレセプト請求時などは残業が発生しやすいため36協定は必須です。なお36協定は届出をした日から効力が生じ、有効期間は「1年間」です。更新を忘れると翌日から「残業禁止」の状態に戻ってしまうため、事務長を置いていない診療所では更新忘れに要注意です。

まとめ

適正な労務管理を継続するためのポイントは以下の通りです。

  • 36協定は「残業の免罪符」: 36協定未届の残業は、重大な法的リスクに直結します。
  • 残業上限時間の厳守: 原則は「月45時間・年360時間」。特例でも「月100時間未満」を守る勤務体制を構築する。
  • 割増賃金は保険料と思え: 適切な人件費コントロールとスタッフのワークライフバランスを両立する。
  • 毎年の更新をルーチン化: 36協定の更新忘れを防止するために年次業務とする。

「柔軟な患者受け入れ態勢」と「労務コンプライアンスの確立」は地域医療サービス提供の車軸の両輪です。適正な時間外労働管理を通じて、地域よし、職員よし、病院よしの三方よしの歯科クリニック経営を目指してまいりましょう。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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