はじめに
病院経営や歯科クリニック運営において、スタッフのライフイベントに合わせた仕事と家庭の両立支援は、離職防止と有能な人材確保のために不可欠な戦略です。本記事では、育児休業や短時間勤務措置などの主要な制度について解説します。
出産や子ども子育て支援の全体像
少子化対策を背景に、国は出産・育児に関する公的支援を急速に拡充しており、その特徴は雇用施策(出産や子育てと仕事の両立のための措置)と社会保険制度(出産や子育て中の経済的保障)の二本柱で推進されていることです。
出産に関連した制度
出産前後の母体保護を目的とした制度です。
- 就労制限等(労働基準法):産前産後休業(産前6週・産後8週)、妊産婦の時間外労働・深夜業の制限、軽易な業務への転換、育児時間(生後1年未満の子に対し1日2回各30分以上)などがあります。
- 経済的保障(健康保険法):出産育児一時金(原則50万円)や、休業中の所得を補填する出産手当金が支給されます。
子育てに関連した制度
出産後の子育てを支援する制度です。
- 子育てと仕事の両立(育児・介護休業法):育児休業、出生時育児休業、子の看護休暇、育児のための所定労働時間の短縮措置(時短勤務)などが定められています。
- 経済的保障(雇用保険法):育児休業給付金や出生時育児休業給付金のほか、令和7年度からは「出生後休業支援給付」や「育児時短就業給付」が新設され、休業や時短勤務による収入減を補填する仕組みが強化されています。
育児休業は3つの制度をおさえる
育児休業(通常の育児休業)
育児休業は、労働者が1歳に満たない子を養育するために取得できる休業です。原則は子が1歳に達するまでですが、保育所に入所できない等の特別な事情がある場合は、例外的に1歳6ヶ月、最大2歳まで延長が可能です。
パパ・ママ育休プラス
父母がともに育児休業を取得する場合、取得可能期間を子が1歳2ヶ月に達するまで延長できる制度です。これにより、夫婦が協力して育児に従事する時間を確保し、女性の職場復帰の円滑化や男性の育児参画を促しています。
出生時育児休業(産後パパ育休)
子の出生後8週間以内に、最大4週間(28日)まで取得できる男性の育休取得促進を目的とした制度です。通常の育児休業とは別枠で取得でき、2回に分割して取得することも可能です。産後の女性の負担が重い時期に、柔軟に休業を取得できることが特徴です。
育児休業で誤解されがちな論点
男性と女性の育児休業開始時期はちがう
子を出産した女性労働者は、産後8週間の「産後休業」が法律上義務付けられているため、通常の育児休業は産後休業終了後から開始されます。一方、配偶者が出産した男性労働者は、子の出生日から出生時育児休業や通常の育児休業を開始することが可能です。
男性は出生時育児休業を積極的に活用せよ
残念ながら日本の多くの職場では、男性労働者がまとまった期間を育児休業するのは難しい状況にあります。そこで出生時育児休業を取得し、通常の育児休業に移行することで、子が1歳になるまでに計4回にわたって柔軟に育児休業を取得することが可能となります。
育児休業の繰り上げや繰り下げはできるか?
1歳未満の子に係る育児休業は、予定日前の出生などの一定の事由がある場合に、1回に限り開始予定日の繰り上げ請求できます(使用者は拒否できません)。一方で、介護休業とは異なり、開始予定日の繰り下げを認めるかどうかは使用者の任意とされています。
子の看護休暇・時短勤務措置の概要
法改正により子の看護休暇の対象拡大
子の看護休暇は未就学児を育てる労働者が子が病気になった時に年5日まで(子2人以上は年10日まで)休暇を取得できる制度でしたが、2025年の法改正により、対象となる子が小学校第3学年修了前まで、対象となる事由が学校行事への参加等に拡大されました。
時短勤務の措置は3歳前後で2パターン
- 3歳に満たない子を養育する労働者
事業主は、3歳に満たない子を養育する労働者(育休中を除く)が希望する場合、原則として1日6時間とする短時間勤務制度を設けなければなりません。なお1日の所定労働時間が6時間以下の短時間労働者は、この制度の対象外となっています。 - 3歳から小学校就学前の子を養育する労働者
3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対しても、法令により列挙された始業時刻の変更や在宅勤務、短時間勤務などの中から、自院の事情に応じて複数の措置を講じ、労働者が選択できるようにする義務(努力義務を含む)があります。
その他の子育てに関する制度
残業を免除する「所定外労働の制限」や、1ヵ月24時間・1年150時間を超える残業を禁止する「時間外労働の制限」、深夜業を免除する「深夜業の制限」も、小学校就学前のまでの子を養育する労働者の請求にもとづき適用されます。
子育て支援で若手人材の採用と定着促進
くるみん認定取得で子育て企業をPR


次世代育成支援対策推進法は、従業員100人超の企業に対し、従業員の仕事と子育ての両立を支援するための「一般事業主行動計画」の策定と届出を義務付けており、基準を満たした企業は子育てサポート企業として「くるみん」認定を受けることができます。
くるみん認定を取得し、自院のホームページなどに掲示することで、若手人材をリクルートにおいて、自院のブランディングに大きく寄与します。くるみん認定には手軽に始められる「トライくるみん」認定や最上位の「プラチナくるみん」認定などもあります。
医療業界の特徴や注意すべき事項
医療・歯科業界は女性が多く人材不足が深刻なため、仕事と育児の両立支援が不可欠ですが、年配の管理職の中には理解が不十分なケースも珍しくなく、妊娠・出産・育休を理由とした不利益な取り扱い(マタハラ・ケアハラ)の防止が喫緊の課題といえるでしょう。
また、子の看護休暇や時短勤務に対応するため、多職種連携やワーク・シェアリングによる柔軟な体制構築が必要です。常時300人超の病院等では男性育休取得率の公表義務があり、職場結婚の多い医療従事者にとって、これが働きやすさの可視化に繋がります。
まとめ
適切な育児支援体制の構築は、スタッフのエンゲージメントを高め、結果として患者への質の高い医療提供と経営の安定化をもたらす重要な経営課題です。育児支援体制を構築するポイントは雇用施策と社会保険制度を理解し、適切に活用することです。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。
