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001(制度概要)_労働基準

医療業界にありがちな労働時間にまつわる大きな誤解

医療機関における労働時間管理は、人命を預かる職業倫理と労働法規の遵守を両立させる必要があり、特有の誤解が生じやすい分野です。そこで院長や事務長が知っておくべき正しい勤怠ルールについて、よくある誤解の事例などを織り交ぜつつ解説します。

医療業界で労働時間に対する誤解が多い理由

労務管理のプロが少ない…

筆者は開業前に7年間にわたって医療法人の事務部門で働いた経験がありますが、病院経営の中核を担う院長、看護部長、事務部長であっても、労働基準法をはじめとする労働法令を正しく理解していない、あるいはそもそも知らない…といったケースが散見されます。

例えば看護部長であれば看護管理者の受講過程において労働基準法などを学習しますが、メインは看護管理学なので労働法令は総花的な知識に留まります。また事務部長の多くは医事課出身なので労務管理に疎く、つい医療従事者の事情を優先してしまいがちです。

労働者の権利を主張しづらい風土

医療業界には「患者のために尽くす」という強い職業倫理があり、滅私奉公の名のもとに自己犠牲的な長時間労働やサービス残業を許容する土壌を作ってきたため、「そもそもこれって労働基準法違反では?」などという疑問を差し挟む余地がなかったのです。

また従来の医療提供体制が医師の過重労働に依存する構造であったことも、適正な労働時間管理の浸透を妨げる要因となっています。医師が過酷な勤務に耐え忍ぶ傍で、コメディカルや事務職が「労働者の権利」を主張できるような雰囲気ではありませんでした。

労働時間に関するよくある誤解ワースト5

ここでは筆者が社会保険労務士として日々寄せられる相談や、かつて医療機関の人事部門で働いていたときの経験をもとに、労働時間に関するよくある誤解のうち、「多いな…」と感じているものを5つ厳選し、病院側と社労士との対話形式でご紹介したいと思います。

始業・終業の着替え時間は労働時間か?

白衣の男性のいらすと

ちょっとお尋ねしますが、制服(ケーシーやスクラブ)への着替え時間は労働時間に含まれないという認識で正しいですよね?制服に着替えるのは医療従事者として最低限の身だしなみなので、無給で当然と考えています。

残念ながら、それは誤解です。就業規則などで制服の着用が義務付けられており、かつ事業場内での着替えが強制されている場合、その準備行為は使用者の指揮命令下に置かれた時間、つまり労働時間とみなされます。

社会保険労務士男性のいらすと

勤務時間外の研修や勉強会は労働時間か?

年配の女性のいらすと

終業後や公休日に研修や勉強会を実施していますが、これは看護師の自己研鑽を促すためのものです。あくまでも本人のために、病院が学習の機会と場所を提供しているに過ぎず、労働時間にはならないと思います。

その研修や勉強会が自由参加であり、不参加による不利益がない場合は労働時間ではありませんが、参加が義務付けられているものや、業務上不可欠な内容で実質的に強制参加となる研修は労働時間ですのでご注意ください。

社会保険労務士男性のいらすと

30分未満の残業は切り捨てして良いか?

年配の男性のいらすと

当院では30分未満の残業は、残業として認めない(切り捨て)という勤務ルールです。残業が30分を超えた場合に、はじめて残業時間としてカウントし、残業手当を支払っていますが、これは問題ありませんよね?

それは明確な労働基準法違反です。残業は「1分単位」で計算するのが原則であり「1か月の残業時間の合計」に30分未満の端数がある場合に、これを切り捨てる(30分以上は1時間に切り上げる)処理のみ認められます。

社会保険労務士男性のいらすと

休憩中の電話当番は労働時間なのか?

メガネを欠けた事務員の女性のいらすと

休憩中に受付スタッフに電話当番をさせています。時々、診療予約や問い合わせなどの電話がかかってきますが、実際に電話が鳴らなければ、特にすることもないので、休憩時間として扱って良いのですよね?

いいえ、電話当番のために待機している状態は「手待時間」であり、使用者の指揮命令下に置かれているため労働時間です。休憩中は労働から完全に解放されていなければならず、休憩時間を別途与えねばなりません。

社会保険労務士男性のいらすと

管理職はタイムカードの打刻は不要か?

あごひげを生やした白衣の男性のいらすと

当院の看護部長や事務部長は残業代の対象外なので、タイムカードによる出退勤打刻をさせていません。労働基準法にも「管理監督者は労働時間や休日規定の適用除外」と明記されているので、問題はないと考えています。

労働基準法上の管理監督者であっても深夜労働の規定は除外されず、また労働安全衛生法は管理職を含む全ての労働者に対し、タイムカード等により労働時間を記録する義務を定めているため、出退勤の打刻は必要です。

社会保険労務士男性のいらすと

意外と知られていない労働時間の計算方法

兼業や副業した場合の労働時間の計算方法

医療業界では、基幹病院に勤務している医師や歯科医師が、非常勤Dr.として地域の診療所の専門外来を兼務したり、若手医師が勤務先以外の病院で当直のアルバイトをしたりする、いわゆる兼業や副業は以前から行なわれていました。

ここで注意すべきは、異なる勤務先での労働時間は通算されるということです。そして通算した労働時間が法定労働時間を超えた場合は、法定労働時間を超えて勤務させることとなった勤務先が、割増賃金の支払い義務を負うことになります。

兼業・副業時の勤務時間は、まず①所定労働時間を通算してから、次いで②時間外労働(法定労働時間を超える労働時間)を通算します。

  • 所定労働時間の通算=「労働契約を締結した時期」の先後で通算する
  • 時間外労働の通算=「時間外労働が発生した時刻」の先後で通算する

健康診断を受診する時間は有給とすべきか?

労働安全衛生法にもとづく健康診断の実施は事業者の義務ですが、健康診断を受診させる時間を労働時間とみなすべきか否かについては、その健康診断が一般健康診断(雇入れ時健診、定期健診、夜勤従事者健診)か特殊健康診断かによって異なります。

  • 一般健康診断:あくまでも安全配慮義務にもとづき労働者の健康状態を把握するために実施すべきものですので、労働時間とみなす(賃金を支払う)義務はありません。なお厚生労働省のガイドラインは「有給(労働時間)とすることが望ましい」としています。
  • 特殊健康診断:電離放射線業務等、特定の有害業務に従事する労働者が対象であり、特殊健康診断の実施は有害業務に従事させるための必須要件ですので、受診時間は労働時間として扱わなければなりません。終業後の受診は残業手当の支払いも必要です。

ところで「健康診断は使用者の命令により受診するので、法律上当然に労働時間となるのではないか?」という誤解も多いですが、労働者が健康診断を受診するのは業務命令ではなく、労働安全衛生法において「労働者の義務」として定められているからです。

誤った労働時間管理が招く2つのリスク

未払い残業代と付加金の支払い命令

法令に違反した労働時間管理は未払い残業代の請求や、36協定違反による罰則(拘禁刑や罰金)の対象となります。特に意図的な賃金不払いについては、裁判所から未払金と同額の「付加金」の支払いを命じられる可能性があります。

医療監視で特例水準指定が取消される

医療監視(医療法第25条の立入調査)では、医師や歯科医師の労働時間管理が重点的にチェックされます。客観的記録の不備、面接指導の未実施、勤務間インターバルが確保されていない等により、特例水準の指定取消などの厳しい処分を受ける可能性があります。

医療業界に多くみられる労働時間にまつわる5つの誤解と、意外と知られていない労働時間の2つの計算方法について解説してきましたが、労働基準法は労働法令の中でも行政取締法規と呼ばれ、厳しい罰則が設けられているため、細部にわたる適正な労働時間管理が必要です。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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