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001(制度概要)_労働基準

時間外労働の原則と例外を正しく理解して法令違反を防止する

時間外労働の管理はコンプライアンスの遵守のみならず、スタッフの健康維持や採用力の強化に直結する極めて重要な経営課題です。本記事では労働基準法における時間外労働の原則的ルールから、2024年4月に施行された医師・歯科医師の働き方改革などを解説します。

残業は本来禁止されている

法定労働時間の原則的ルール

労働基準法第32条では、労働時間の上限として「1日8時間、1週40時間」という法定労働時間を定めており、これを超えて労働させることを原則として禁止しています(労働基準法の時間外労働とは、法定労働時間を超える残業をいいます)。

ただし、病院やクリニックなどの「保健衛生の事業」のうち、常時10人未満の労働者を使用する事業場は「特例対象事業」に該当します。この特例により、小規模な診療所の場合、週の法定労働時間は44時間まで認められます(1日の上限は変わらず8時間です)。

時間外労働には36協定が必須

法律で時間外労働が禁止されているにもかかわらず、多くの職場で残業(時間外労働)や休日出勤が行われているのは、労働基準法第36条(法定労働時間の例外)にもとづく労使協定、通称「36協定」を締結し、労働基準監督署に届け出ているからです。

36協定を届け出ることで、法定労働時間を超えて労働させても刑事罰を科されないという「免罰効果」が発生します。なお時間外労働が適法になるのではなく、あくまで「処罰されない」だけであり、36協定の有効期限が切れ、更新を失念すると刑罰が科されます。

変形労働時間制を導入した場合

「1か月単位の変形労働時間制」などを導入している場合は、36協定を締結・届出しなくても、特定の日に8時間、特定の週に40時間(特例事業は44時間)の法定労働時間を超えて労働者を働かせることが可能になります。

しかし、変形労働時間制を導入した場合でも、あらかじめ特定した所定労働時間を超える場合や、変形期間全体の法定労働時間の総枠(週平均40時間または44時間)を超える場合には、依然として36協定の締結と割増賃金の支払いが必要となる点に注意が必要です。

時間外労働の基本的ルール

36協定さえあれば無制限に残業できるか?

結論からいえば、36協定を締結・届出しても、無制限に残業を命じられるわけではありません。36協定(一般条項)を締結した場合の時間外労働は、原則として「月45時間、年360時間」以内と定められており、これを超えるとやはり法令違反となります。

特例条項つき36協定で上限を引き上げる

通常予見できない業務量の大幅な増加など、臨時的な特別の事情がある場合に限り、「特別条項」を付加した36協定を締結することで、限度時間を引き上げることができます。ただし、以下の条件を全てクリアしなければなりません。

  • 時間外労働が年720時間以内
  • 時間外労働と休日労働の合計が、単月で100時間未満
  • 時間外労働と休日労働の合計が、2〜6か月平均で80時間以内(過労死ライン)
  • 月45時間を超えることができるのは、年6回(6ヶ月分)まで

違反には厳しいペナルティが科される

36協定を締結せずに時間外労働をさせた場合や、協定で定めた上限、あるいは法律上の強制的な上限規制(年720時間等)に違反した場合、使用者(残業を命令した管理職と事業主の両方)は「6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金」に処せられます。

医師・歯科医師の働き方改革

働き方改革における時間外労働の上限

医師・歯科医師については、その業務の特殊性から時間外労働の上限規制の適用が長らく猶予されてきましたが、2024年4月から本格的に規制が開始されました。対象は病院や診療所に勤務する全ての「勤務医」であり、医師のみならず歯科医師も含まれます。

残業時間の基本的な上限は3つのランク

医療機関の機能や医師の役割に応じて、以下の3つの水準(ランク)が設定されています(実際にはもう少し細かくランク分けされていますが、本記事では要旨の紹介程度にとどめ、詳細の解説は別の記事に譲ります)。

  • A水準(原則):時間外・休日労働が年960時間(月100時間未満)以内
  • B水準・連携B水準(地域医療確保):地域医療体制の維持のためにやむを得ず長時間労働が必要な場合、都道府県知事の指定により年1,860時間(月100時間未満※例外あり)以内
  • C水準(集中的技能向上):研修医や高度な技能修得を目指す医師を対象に、指定により年1,860時間(月100時間未満※例外あり)以内

医師・歯科医師の労務管理における注意点

医療機関の管理者は、医師や歯科医師の労務管理において、以下の健康確保措置を講じる義務があります。これらの実施状況については医療監視(医療法第25条にもとづく立ち入り調査)において重点的にチェックされるため、規定や記録の整備が不可欠です。

  • 労働時間の客観的な把握:タイムカード等による正確な記録
  • 宿日直許可の活用:断続的な業務で労働密度が低い場合(寝当直等)は、監督署の「宿日直許可」を得ることで、その時間を労働時間規制から除外可
  • 勤務間インターバルと代償休息:特例水準(B・C水準)の医師には、原則9時間の休息確保と、確保できなかった場合の代償休息の付与義務あり

時間外労働と割増賃金の関係

割増賃金を支払う3つのパターン

労働基準法が使用者に支払いを義務付けている割増賃金には、「労働時間の総量」に適用するものと「労働させる時間帯」に適用するものがあります。

  1. 時間外割増(25%以上):法定労働時間を超えた労働に適用
  2. 法定休日割増(35%以上):法定休日に労働させた場合に適用
  3. 深夜割増(25%以上):午後10時から午前5時までの労働に適用

管理職(管理監督者)は、時間外割増と休日割増の対象外ですが、深夜割増は支払う必要があります。時間外割増と法定休日割増は、労働時間の総量を抑制するためのものですが、深夜割増は健康管理の観点から深夜時間帯の就労規制を目的としているためです。

割増賃金の加算ルールを把握する

  • 時間外+深夜:時間外労働が深夜に及ぶと50%以上(25%+25%)となります。
  • 法定休日+深夜:休日労働が深夜に及ぶと60%以上(35%+25%)となります。
  • 月60時間超の時間外:月60時間を超える残業については、割増率が50%以上に引き上げられます。深夜であれば75%以上となります。

誤解が多い論点ですが、時間外割増と法定休日割増は重畳しません。そもそも法定休日は労働日ではありませんので、法定労働時間や時間外といった概念は存在しません。したがって始業から終業までの全ての時間が法定休日割増(35%以上)の対象となります。

医療従事者が特に注意すべき論点

基幹病院に勤務する医師や歯科医師の場合、主たる勤務先での診療の合間に、非常勤医として他院の外来を受け持つような勤務(兼業・副業)は珍しくありませんが、複数の勤務先の労働時間は通算されます。これについては別の記事で詳しく解説しています。

医師や看護師の当直勤務など、暦日をまたぐ勤務シフトの場合は、始業時刻の属する日の1日の労働時間として扱います。午前零時を境に労働時間がリセットされるわけではありませんので、時間外割増の算定モレが生じないようご留意願います。

時間外労働と労働安全衛生の関係

産業医報告と医師の面接指導

事業者は、時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者の情報を産業医に提供する義務があります。また、以下の医師による面接指導を実施しなければなりません。

  • 一般労働者:月80時間超の残業があり、疲労の蓄積が認められ、本人の申し出があった場合
  • 研究開発職:月100時間超で本人の申し出の有無を問わずに強制的に実施
  • 勤務医:月100時間以上の見込みがある場合に、A水準なら一定の疲労蓄積確認後、特例水準なら原則として事前の実施が必要

労災認定される過重労働の目安

過重労働による健康障害の労災認定において、「月80時間超」の時間外労働が2〜6か月平均で続くこと、または単月で「100時間超」の残業があることは、業務と発症の関連性が極めて強いと判断される目安(過労死ライン)となります。

精神障害についても、直近6か月の強い心理的負荷(月160時間超の残業等)が評価の鍵となりますが、過重労働により労災事故を起こしてしまうと、労働者に対する補償のみならず、ブラックな職場と認識され、人材の採用や定着に支障をきたします。

過重労働によりやむなく離職すると…

離職の日以前6か月のうち、3か月連続で45時間を超える残業があった場合や、1か月で100時間、あるいは2〜6か月平均で80時間を超える残業があった場合、その労働者は雇用保険上の「特定受給資格者」(倒産・解雇等と同等の扱い)に該当する可能性があります。

この場合、一般の自己都合離職よりも失業給付(基本手当)の給付制限が緩和され、所定給付日数も手厚くなるため、過重労働を放置することはスタッフの離職を経済的に後押ししてしまうリスクを孕んでいます。

医療業界に根付く「医は仁術」「滅私奉公」の価値観は、時に客観的・合理的な労務管理を阻害することもあります。しかし、医療従事者であっても労基法が特別に免除されるわけではなく、労働時間管理の基礎的な知識を習得し、適正な労務管理に務めることが肝要です。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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