人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院では、スタッフ(歯科医師、歯科衛生士、歯科助手)への福利厚生と生活支援を目的として「社内貸付金制度」を運用しています。 現在、住宅購入資金の貸付金利を2.5%、急な出費などその他の貸付金利を1.0%に設定していますが、この利率が一般的な水準と比較して妥当なのか判断に迷っています。
福利厚生を充実させてスタッフの経済的な安心感に繋げたいという思いがある一方で、あまりに低すぎると税務上の問題があるとも聞きました。利率を設定する際の考え方や、参考となる基準があれば教えてください。
ご相談への回答

スタッフのライフイベントや不測の事態を支援する貸付制度は、職員満足(ES)を高め、組織への帰属意識(ロイヤルティ)を醸成する有効な施策です。 ただし、勤務先が従業員に「お金を貸す」という行為には、法的な制約と税務上のルールが伴います。
利息制限法などの法律の上限を守る
まず、利率を設定する大前提として、利息制限法や消費者契約法で定められた上限を超えてはいけません。 福利厚生目的であれば上限に達することは稀かと思いますが、注意が必要なのは「返済が遅れた場合の遅延利息」です。遅延損害金の利率についても、これらの法律の制限内に収める必要があります。
また、労働基準法第17条「前借金相殺の禁止」は、スタッフへの貸付金と毎月の給与を一方的に相殺して支払うことを原則禁止しています。ゆえに返済はスタッフの自由な意思に基づく合意(賃金控除の労使協定等)の上で行う必要があり、また貸付は労働契約ではなく金銭消費貸借契約において実施すべきです。
著しく低利率による給与課税リスク
金利を無利息、あるいは市場に比べて著しく低く設定した場合、スタッフは「本来支払うべき利息を免除された」ことになり、その差額分が「経済的利益の供与(給与所得)」とみなされ、源泉所得税の課税対象となる可能性が高いです。
これを避けるための一般的な方法は、院内貸付金の原資を調達する際に要したコスト(借入金利)と同等以上の貸付金利を設定することです。
- クリニックが外部から資金を借りて原資とする場合: その借入金利(運転資金の利率等)以上の金利を設定していれば、原則として課税されません。
- クリニックの自己資金を原資とする場合: 国税庁が定める「基準となる利率」を参考にします。令和8年時点の目安は0.9%とされており、これを超える利率であれば給与課税の心配はほぼありません。
貸付利率設定の合理的な目安とは?
ご相談にある「1.0%〜2.5%」という数字は、現在の市場金利と比較して決して高いものではありませんが、以下の指標を参考に微調整を検討されても良いでしょう。
- 住宅(長期)貸付の場合: 融資額が大きく期間も長いため、「長期プライムレート」(令和8年6月時点で3.15%程度)を基準にするのが合理的です。ご相談の2.5%はこの水準を下回っているため、念のため所轄の税務署に給与課税の有無を確認しておくとより安全です。
- その他の短期貸付の場合: 1年以内の少額貸付であれば、TIBOR(東京銀行間取引金利)や前述の国税庁が提示している目安(0.9%以上)を参考に、事務手数料程度を上乗せした利率で設定するのが一般的です。
本件のポイント

- 福利厚生としての貸付制度は、サービス・プロフィット・チェーン(SPC)を回す「内部サービスの質」向上に寄与する。
- 金利は国税庁の目安(0.9%)や長期プライムレート(約3.15%)を基準に設定し、給与課税のリスクを回避する。
- 返済を給与から天引きする場合は、労働基準法に基づいた適切な労使協定を締結し金銭消費貸借契約で実施すべきである。
- 住宅資金と生活資金で利率に差を設けることは、貸付の性質(金額・期間)に合致した合理的な運用といえる。
スタッフの生活に配慮するはずの福利厚生制度が、不適切な金利設定によって税務調査での指摘事項にならないよう、客観的な指標に基づいたルール作りを心がけましょう。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


