人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

今回、退職を希望しているスタッフ(歯科衛生士)は5月31日付けでの退職を望んでいますが、5月1日に新たに年次有給休暇が20日付与される予定で、この年休を含めて4月中旬から退職日まで有休消化に入ることになります。
- 退職希望日:5月31日
- 退職の申し出日:2月28日 (当院の就業規則:退職申出は3ヶ月前までに行う)
- 次回の有給休暇付与日:5月1日 (付与日数20日間)
- 現在の有休残日数:13日
個人的にはもうすぐ退職するスタッフに20日間もの年次有給休暇を付与するのはどうかと思います。そこで、もし後任者への引継ぎが順調に終わるのであれば、当院としては4月30日付での退職としたいと考えていますが、このような対応は可能でしょうか?
なお退職日を繰り上げることができるなら、離職票(雇用保険の被保険者資格喪失届)の離職事由を「会社都合」で作成しても構いません。
ご相談への回答

歯科クリニックの運営において、スタッフの退職に伴う有休消化の一括消化は非常に頭の痛い問題ですが、ここは慎重な対応が求められます。結論から申し上げますと、 貴院が一方的に退職日を繰り上げることは、法的に極めてリスクの高い行為となります。
退職日の繰り上げは「会社都合」ではなく「解雇」
スタッフが申し出た退職日(5月31日)を、有給休暇の取得を妨げる目的で貴院が前倒し(4月30日)にすることは「解雇」とみなされ、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効となります。
もし強引に繰り上げを行い、それが不当解雇と判定された場合には、少なくとも30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当および本来の退職日(5月31日)までに消化できるはずだった年次有給休暇を取得した場合の賃金相当額を支払う義務が生じます。
年次有給休暇の権利は使用者が付与するのではない
労働基準法における年次有給休暇の権利は、継続勤務期間と出勤率の要件を満たせば、労働者が請求せずとも法律上当然に発生します。5月1日が更新日であり、その日に当該スタッフが在籍していれば、月末に退職する場合であっても新たな有休が付与されます。
したがって「近いうちに辞めるから」という使用者の主観的な理由で、労働基準法により保障された労働者の権利の発生(年次有給休暇の更新)を阻止することはできません。
労働契約を誠実に遵守する義務は労使双方が負う
今回のケースでは、スタッフは貴院の就業規則に則り、3ヶ月以上前に退職を申し出ています。それにもかかわらず、偶然その時期に有休の更新日があるからといって退職日を繰り上げることは、労働契約における「信義誠実の原則」に反する行為といえます。
信義誠実の原則とは、契約の当事者はそれぞれ信義に従い誠実に義務を履行しなければならないとする法理ですが、今回のような対応は他のスタッフへの示しがつかなくなり、院内の士気(モラル)を著しく低下させる恐れがあります。
4月末での退職なら年休買い上げを提示すること
年次有給休暇は労働者が経済的な心配をせずに疲労を回復し、心身をリフレッシュするための制度ですので、原則として買い取りは禁止されています。しかし退職に際して消化しきれない年休については例外的に買い取りが認められています。
そこで件のスタッフにどうしても4月末で退職してもらいたいのであれば、5月1日以降に消化予定だった有休の「買い取り」を条件に本人と話し合い、合意を得た上で退職日を繰り上げることは可能ではないかと思われます。
本件のポイント

- スタッフの意に反する退職日の繰り上げは「解雇」とみなされ、解雇予告手当等の支払いリスクが生じる。
- 5月1日の時点で在籍していれば法定の有給休暇は法律上当然に付与され、事業主側はこれを阻止できない。
- 規則を守って申し出たスタッフに対し、有休更新を逃れるべく違法な調整を行うことは信義則違反となる。
解雇認定された際の解雇予告手当は平均賃金の30日分です。年次有給休暇手当も平均賃金で計算しますが、年次有給休暇は労働日にしか取得できませんので、GWのある5月は所定労働日数が20日に満たないと思われますので、ここは冷静に判断すべきではないでしょうか。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


