人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

私は外来専門の歯科クリニックに勤務する事務長です。当院では突発的な延長診療に備え、所轄の労働基準監督署へ36協定(時間外・休日労働に関する協定)を提出・届出しています。
先日、当院の36協定届を確認していたところ、時間外労働の上限設定について気になる点を発見しました。当院では月単位(月45時間以内)や年単位(年360時間以内)の時間外労働については厳格に管理しており、これまで枠を超えることはありませんでした。
しかし、協定届に記載されている「1日の法定労働時間を超える時間数」を確認したところ、「1日5時間」と記載されており、過去の勤怠データを調べると、年末年始の長期休診あるいは医療費控除を意識した駆け込み受診が12月に集中し、一部のスタッフで1日5時間の残業上限を超えて働いていた日が何度か発生していたことが判明しました。
とりあえず1ヶ月や1年といった時間外労働および休日労働の総枠内には収まっているものの、1日の上限を超過した日が存在するのは事実です。このような場合に労働基準監督署の臨検などで、1日単位の超過まで細かく指摘されたり是正指導を受けたりするものでしょうか?院長に報告して対応を協議すべきか悩んでいます。
ご相談への回答

36協定に定めた時間外労働の上限時間は、1日・1ヶ月・1年といった対象期間の長短にかかわらず、事業主が遵守しなければならない法的な義務です。「月や年単位の総枠にさえ収まっていれば、1日単位の上限時間の超過くらいは多目に見てもらえる…」などということは一切ありません。
判明した事実については速やかに院長へ報告し、36協定届の記載内容の見直しや、貴院における繁忙期の勤怠体制の是正に着手する必要があると思われます。
1日の上限超過でも労働基準法違反
労基法第36条2項4号は、36協定届において「1日」「1ヶ月」「1年」のそれぞれの期間について延長できる時間を定めなければならない旨を明確に規定しています。
36協定の免罰効果は、協定で定めた時間数の範囲内でのみ有効です。たとえ月間残業時間が45時間以内に収まっていても、36協定で定めた「1日5時間」という上限を超えて残業させた時点で、協定の範囲を逸脱した違法な時間外労働(労基法第32条違反)となります。
労働基準監督署の臨検(立ち入り調査)が実施された場合、まずタイムカード等の打刻データと36協定届が照合されます。1日でも協定の上限を超過した実績があれば、監督官から労働基準法違反として「是正勧告書」が交付される対象となります。
貴院において推奨される実務対応
本件についてご相談者様(事務長)から直ちに院長へ報告を行うとともに、クリニックとして以下の再発防止策を講じることを推奨します。
- 36協定「1日の上限時間」の再設定と再届出
協定上の1日あたりの上限設定に実態との乖離がある場合は、年末の繁忙期や急患対応によるリスクを想定し、実態に即した現実的な上限時間へ見直した上で、労使協定を再締結し労働基準監督署へ再度届出を行います。 - 変形労働時間制の活用と業務フローの見直し
年末など特定時期の繁閑差が大きい場合は、「1ヶ月単位の変形労働時間制」の導入やシフト設計の見直しを検討します。また、診療終了後の片付け業務のタスク・シェアを進め、特定スタッフへの過重労働の集中を防ぎます。 - 院内での労務コンプライアンス意識の共有
「年あるいは月の上限さえ守っていれば大丈夫」などという誤った認識を改め、勤怠管理システムのアラート機能を活用するなど、1日・1ヶ月・1年のすべての時間外労働および休日労働の上限を遵守する管理体制を整えます。
本件のポイント

- 36協定で定めた時間外労働の上限時間は、1日・1ヶ月・1年のいずれの単位であっても事業主に遵守義務がある。
- 月間や年間の残業時間が上限枠内に収まっていても、1日の上限時間を1分でも超えて残業させれば労働基準法違反となる。
- 労働基準監督署の臨検調査では1日単位の打刻履歴もチェックされ、超過があれば是正勧告の対象となる。
- 勤務の実態と36協定が乖離している場合は、36協定の再設定・再届出や繁忙期の業務フローの改善を実施すべきである。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。

