人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は複数の歯科クリニックを運営する医療法人です。この度、理事の役員報酬を改定することになり、月額140万円の役員報酬を支給している理事(健康保険・厚生年金ともに標準報酬月額が上限に達している者)について、来月から月額155万円へ増額改定します。
ところで標準報酬月額がすでに上限に達している場合、報酬を増額しても月額変更届(随時改定)の提出は不要でしょうか?2等級差の判定が困難なため、算定基礎届(定時決定)のみの対応のままでよいか教えてください。
ご相談への回答

すでに社会保険の標準報酬月額が上限に達している場合、役員報酬が増額改定されても随時改定の手続き(被保険者報酬月額変更届の提出)は不要です。ただし、毎年の定時決定(被保険者報酬月額算定基礎届の提出)の手続き自体を省略することはできません。
随時改定(月額変更届)が不要となる理由
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の随時改定は、固定的賃金(役員報酬)に変更があり、改定月から3ヶ月間に支払われた報酬の月平均額と現行の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた場合に、次回の定時決定前に標準報酬月額を改定できる制度です。
しかし健康保険・厚生年金保険の双方で標準報酬月額が上限に達していて、さらに報酬が増額された場合は、標準報酬月額の改定の余地がありません。そのため月額変更届(随時改定の手続き)は一切不要となります。
算定基礎届の提出義務が免除されない理由
一方で、毎年7月10日までに提出する「算定基礎届(定時決定)」については、標準報酬月額が上限に達している場合であっても、健康保険法や厚生年金保険法には算定基礎届の提出を免除する特例や規定は存在しません。
定時決定においては結果的に現在の標準報酬月額(上限額)が据え置かれることにはなりますが、事業主として被保険者の報酬を年金事務所および健康保険組合等へ定期的に届け出る義務がありますので、算定基礎届は通常通り作成および提出してください。
標準報酬月額の上限が引き上げられる場合
なお健康保険および厚生年金保険の標準報酬月額の上限は、それぞれの法令により一定の要件を満たす場合に引き上げを行うルールになっています。また厚生年金保険においては、上限の改定ルールとは別に、政策的に上限の引き上げが予定されています。
- 健康保険法
毎年3月31日時点において、最高等級(50級)に該当する被保険者数の割合が全被保険者の「100分の1.5」を超える場合、政令によって9月からさらに上位の等級を加える改定(上限引き上げ)を行うことができると定められています。 - 厚生年金保険法
毎年3月31日時点において、全ての被保険者の標準報酬月額の平均の「100分の200」に相当する額が、現在の標準報酬月額の上限額を超えており、その状態が継続すると認められる場合は、政令により9月から上限額を引き上げることができます。
なお高所得層の負担の公平化および将来の年金給付充実を図る観点から、2027年9月から2029年9月にかけて、最高等級(現行32等級・標準報酬月額65万円)を段階的に「35等級」まで引き上げる制度改正が予定されています。
本件のポイント
- 現在の標準報酬月額がすでに上限に達している場合、役員報酬が増額されても改定すべき等級が存在しないため月額変更届(随時改定)の提出は不要である。
- 標準報酬月額の上限に達しており、標準報酬月額を改定しようがない場合であっても、毎年の算定基礎届(定時決定)の提出は必要である。
- 一定の要件を満たした場合に、健康保険も厚生年金保険もそれぞれ標準報酬月額の上限を引き上げるルールが存在する。また厚生年金保険は2027年9月から2029年9月にかけて政策的に上限の引き上げが予定されている。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。



