人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、歯科医師である私(院長)のほか、歯科衛生士4名、受付・歯科助手3名(計8名)が勤務する歯科クリニックです。この度、入職5ヶ月目の歯科助手から「適応障害」の診断書が提出されました。診断書には「5/14〜6/13までの1ヶ月間、休職および自宅療養を要する」とあり、当人は5/14から休業に入りました(なお、当人の希望により5/13までは有給休暇を消化しています)。
就業規則では勤続半年以内の休職期間を1ヶ月と定めておりますが、①6/13までに医師の診察を受けさせ復帰か延長かを判断する対応でよいか、②有給消化後の休職期間を院長の判断で6/30まで延長することは可能か(傷病手当金の申請も可能か)、実務上の留意点をご教示ください。
ご相談への回答

復職判断は産業医の専門的意見を聴取するのが定石
復職判断のタイミングについては、ご認識の通り休職期間が満了する前(本件では6/13まで)に主治医の診察を受けさせ、就労可能かどうか判断を仰ぐ対応で問題ありません。
ただし実務上、「主治医の診断書のみ」で安易に復職を許可することは非常に危険です。主治医はあくまで患者である本人の訴えをもとに「治療上の通院・療養」の可否を判定する立場であり、歯科クリニックの現場で求められる受付業務やアシスト業務といった「職業遂行能力(復職に耐えうるか)」まで把握しているわけではありません。
したがって復職可否について、産業医学の専門家である産業医の意見に基づき判断するのが労務管理の定石ですが、産業医の選任義務がない従業員50人未満の事業所であっても、地域産業保健センターなどを活用することで、医学的な裏付けを得ることができます。なお、復職判断を誤り病状が悪化した場合、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われたり、私傷病が労災事故に転嫁されたりするリスクが生じます。
事業主都合の休職延長は休業手当の支払義務が生じる
有給消化後に休職に入った後、診断書記載の期間を超えて貴院の判断のみで一方的に休職期間を延長すること(6/30まで伸ばす等)は原則として認められません。
本人が延長を希望している場合や、段階的な復帰プラン(短時間勤務等)に合意している場合は問題ありません。しかし、本人が復職を希望し主治医からも「就労可能」と診断されているにもかかわらず、貴院側の事情(念のための措置など)として休職を延長させた場合、それは「事業主都合による休業(労働基準法26条)」と判定されます。
この場合、延長期間中について平均賃金の60%以上の休業手当を支払う法的義務が発生します。
休業手当の支給中は傷病手当金は支給されない
傷病手当金は、業務外の傷病により労務不能となり、給与の支払いを受けられない期間に対して健康保険(協会けんぽ・組合健保)から支給される制度です。傷病手当金の申請には「労務不能であったこと」を裏付ける医師の証明が必要です。
もし貴院の判断で休職期間を延長し、それに伴い「休業手当」を支給した場合、その期間は「賃金(または手当)が支払われている状態」となるため、傷病手当金は支給されない(または差額調整される)ことになります。医師の診断書の証明期間と、クリニック側の休職発令期間・給与支払状況との整合性を整えて申請を行うことが不可欠です。
原則として国民健康保険には傷病手当金はありません。また歯科医師会国保などの国保組合の場合は、国保組合ごとに給付要件や給付内容が異なりますので、自院の加入している国保組合にお問い合わせ下さい。
本件のポイント

- 復職判断は主治医の診断書だけに頼るのではなく、業務遂行能力を見極めるため産業医の意見を踏まえて判断するのが労務管理の定石である。
- 本人が復職可能と判断されているにもかかわらず事業主都合で休職を延長させる場合は、平均賃金の60%以上の休業手当支の払いが必要となる。
- 事業主都合により休職が延長され、休業手当が支払われている期間は、重複して傷病手当金(協会けんぽ・組合健保)を受け取ることはできない。
- 段階的な職場復帰(時短勤務や業務負担の軽減)を実施する場合は、その内容を復帰プランにまとめ、あらかじめ本人と書面で合意しておく。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。



