はじめに
第三者行為災害とは、労災事故の当事者について、労使以外の第三者が関与して発生するものです。本記事では第三者行為災害の定義と労災保険との調整の仕組み、また医療機関においてありがちな第三者行為災害の主な事例などについて解説します。
第三者行為災害とは
通常の労災事故との違い
第三者行為災害とは、労災保険給付の原因である災害が、労使以外の第三者の加害行為などによって生じたものを指します。
通常の業務災害では、労災保険に対する給付請求権のみが発生しますが、第三者行為災害の場合は、これに加えて第三者(加害者)に対する民事上の損害賠償請求権の双方を取得することになる点が大きな違いです。
第三者行為災害の第三者とは?
労災保険における「第三者」とは、保険関係の当事者(事業主および労災保険と被災労働者およびその遺族)以外の者をいいます。
医療機関においては、患者やその家族、出入業者、あるいは訪問診療先の施設管理者などがこの「第三者」に該当します。また、通勤途中の交通事故の相手方も典型的な第三者です。
第三者行為の保険給付の調整
業務災害の補償責任を負うのは事業主です。しかし事業主の資力不足によって補償不能あるいは不完全な補償にならないよう、労災保険が代行するルールです、したがって第三者行為災害においても労災保険と損害賠償の二重取りは認められず、以下の調整が行われます。
- 求償(先に労災保険が支払われた場合):労災保険(政府)は支払った給付額の限度で、被災者が持つ損害賠償請求権を代位取得し、第三者に請求します。これは災害発生後5年以内の給付が対象です。
- 控除(先に損害賠償を受けた場合):労災保険(政府)は受領した賠償額(慰謝料等を除く)の限度で、労災保険給付を行わないことができます。これは災害発生後7年以内の給付が限度となります。
- 届出の義務:労災保険から保険給付を受けようとする者は、遅滞なく「第三者行為災害届」を労働基準監督署長に提出しなければなりません。
第三者行為災害の事例
マイカー通勤時の自動車事故
労働者がマイカー通勤や徒歩で通勤しているときに、第三者が運転する車両と衝突して被災するケースです。この場合、まずは自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)からの支払いを優先し、不足分を労災保険で補うのが一般的な運用です。
診療時における患者からの暴力
診察中の医師や看護師が患者から暴行を受けるケースは、原則として第三者行為災害(業務災害)に該当します。これが個人的な怨恨によるものでない限り、業務に付随する危険が現実化したものとみなされます。
近年は、患者等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)による精神障害も、労災認定の評価対象として法令や通達に明記されていますが、これも第三者行為災害です。
その他の第三者行為災害の事例
- 訪問診療先での事故:在宅医療や訪問看護の際、訪問先施設の設備の欠陥(階段の破損や床の滑り等)により負傷した場合、施設管理者が第三者となり、その管理不備を理由とした第三者行為災害となる可能性があります。
- 給食委託業者が食中毒事故を起こした場合:職員食堂を外部委託しているケースで、委託業者の衛生管理不備により職員が食中毒を発症した場合、当該業者が第三者となります。医療機関側は受託者の衛生管理状況を点検・確認する義務を負っています。
第三者行為災害に関連する重要論点
事故の被害者に対する使用者責任
自動車事故において、自院の職員にも過失が認められる場合、事故の相手方から民法上の使用者責任を問われるリスクがあります。これを防ぐため、以下の対策が経営上不可欠です。
- マイカー通勤を自院の基準にもとづいた許可制にして無免許運転、無車検運行を排除し、一定額以上(対人無制限等)の損害保険の加入を義務付ける。
- 公用車の定期的な整備・点検を徹底し、安全運行管理体制を整える。車検切れなどもってのほかですが、タイヤやワイパーブレードの摩耗は見落としがちです。
自院の職員に対する安全配慮義務
医療機関の管理者は、職員が安全に働けるよう環境を整える安全配慮義務を負っています。
- カスタマーハラスメント対策:患者からの暴力や暴言に対し、相談窓口の設置や複数名での対応、警察との連携など、組織的な対応体制を整備しなければなりません。適切な対策を怠った状態で職員が被災した場合、病院側が安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。
- 委託業者の選定と管理:給食や清掃などの外部委託にあたっては、契約金額だけでなく、業者の業務管理体制やスタッフ教育の質を精査すべきです。委託先での事故であっても、医療機関側が適切な監督を怠っていたとみなされれば、責任を免れることはできません。委託先が加入している賠償保険も要チェックです。
まとめ
労務担当者でも第三者行為をよく知らない…という方は珍しくありませんが、第三者行為災害への備えは、単なる事故処理の手続きに留まらず、職員の心身の健康を守り、ひいては持続的な医療経営を支える重要なリスクマネジメントであることを認識しましょう。
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