はじめに
法人か個人開業かに関わらず、従業員に給与を支払う事業主は税法上の給与支払者に該当し、従業員に給与を支払う都度、源泉所得税および個人住民税を徴収・納付する義務を負っています。本記事では前回の記事「会計仕訳(給与計算①)費用の計上と給与の支払」に引き続き、前回控除した諸税の納付にかかる仕訳を解説します。
諸税の徴収と納付
給与支払者は所得税法および地方税法に基づき、従業員に給与を支払う都度、源泉所得税および個人住民税を徴収し、翌月10日迄に事業所を管轄する税務署(源泉所得税)あるいは従業員の住所地を管轄する市町村(個人住民税)に納付する義務を負っています。
なお源泉所得税は1年間に支払った給与の総額に基づき年税額を確定しますが、これには賞与も含まれるため、賞与支給時も源泉所得税を徴収して納付しなければなりません。一方で個人住民税は確定した税額を12ヶ月間で分割納付する仕組みなので賞与からは控除しません。
給与等の条件設定
前回の仕訳(職員預り金)
納税にかかる会計仕訳は、前回の「会計仕訳(給与計算①)費用の計上と給与の支払」の続編として解説しますので、給与支給額や税額などは前回と同条件です。前回は給与の支払時に、次のように源泉所得税と個人住民税を給与から控除し、職員預り金に計上しておく仕訳パターンをご紹介しました。
| (借)勘定科目 | 金額 | (貸)勘定科目 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 現金預金 | 5,430円 | 職員預り金_源泉所得税 | 5,430円 | ◯月度源泉所得税 |
| 現金預金 | 12,500円 | 職員預り金_個人住民税 | 12,500円 | ◯月度個人住民税 |
会計ルールのおさらい

税金の納付=現金預金の出金なので貸方に現金預金を計上し(資産→減)、相手科目として職員預り金を借方に計上します(負債→減)。これは前回の反対仕訳ですが、これにより前月末時点の現金預金(納税額)と職員預り金(負債=納税義務)残高を相殺します。
貸借対照表のパターン図はいわばそれぞれの勘定科目(資産科目、負債科目等)のホームポジションだと思って下さい。これらの科目が増える時はホームポジション側の借方・貸方に計上し、減る時は反対側に計上します。
会計仕訳パターン(諸税の納付)
現金預金と職員預り金を相殺する
それでは今回の会計仕訳の解説です。◯月の翌月10日迄に従業員の給与から天引きした源泉所得税と個人住民税の額を納付します。前章(会計のおさらい)で概ね解説済みですが、納税により現金預金(資産)が減少し、一方で職員預り金(負債)が消滅しますので、前回と正反対の会計仕訳を行います。
| (借)勘定科目 | 金額 | (貸)勘定科目 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 職員預り金_源泉所得税 | 5,430円 | 現金預金 | 5,430円 | ◯月度源泉所得税 |
| 職員預り金_個人住民税 | 12,500円 | 現金預金 | 12,500円 | ◯月度個人住民税 |
納税時の注意点
源泉所得税および個人住民税は国税庁あるいは市町村の指定する様式に納税額や納税月を記入し、最寄りの金融機関の窓口で納付しますが、現在はe-Tax(源泉所得税)やeLTAX(個人住民税)などで申告および納税を済ませる事業者が増えています。
なお大きな事業所では個人住民税の納付先が多数の市町村に及ぶため、給与計算ソフトの住民税マスターと会計システムの補助科目に市町村名をそれぞれ登録し、市町村ごとに徴収額と納税額の照合チェックを行うことが一般的です。
納税にかかる会計記帳が終わったら、必ず「職員預り金」科目の元帳集計を行い、「◯月分給与」分の職員預り金(源泉所得税・個人住民税)残高が相殺されていることを確認してください。
補足:年末調整との連携
源泉所得税と個人住民税の違い
所得税の計算期間は1月~12月ですが、この期間に徴収・納付した源泉所得税(概算額)と、年末に確定した年税額との差異を清算するのが年末調整です。語弊を恐れずに言うなら、月の徴収税額が多少間違っていても、年末調整で本来の税額に正しく修正できます。
年末調整が終わると、翌年1月末迄に従業員の住所地を管轄する各市町村に給与支払報告を提出します。各市町村では事業者から提出された給与支払報告に基づき新年度の税額を決定し、5月頃に新たな納税通知書を事業主および納税者(従業員)に送付する仕組みです。
小規模事業者の納税特例
給与の支払いを受ける従業員数が10人未満の小規模事業者は、納期限の特例が適用される場合があります。この特例は源泉所得税(国税)と個人住民税(地方税)の両方に用意されており、所定の様式で主務官庁に届け出ることで、特例の適用を受けることができます。
- 源泉所得税の特例:常時給与を支払う従業員数が10人未満の源泉徴収義務者について、2期に分けてまとめて納税できる制度。第1期(1月~6月分)=7月10日迄、第2期(7月~12月分)=1月20日迄
- 個人住民税の特例:常時給与を支払う従業員数が10人未満の特別徴収義務者について、2期に分けてまとめて納税できる制度。第1期(6月~11月分)=12月10日迄、第2期(12月~翌5月分)=翌6月10日迄
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(国税庁) 特別徴収税額の納期限の特例に関する申請書(札幌市)
まとめ
源泉所得税や個人住民税の納付特例は財務基盤の脆弱な小規模事業者にとって経営上のメリットが大きいですが、職員預り金を運転資金に充当したままいざ納税のタイミングで納税資金が足りない…ということにならないよう、月次キャッシュ・フロー計算書で資金繰りのチェックを行うことを推奨します。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。



