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02_経理のしごと

会計仕訳(給与計算①)費用の計上と給与の支払

平均的な従業員数が5名前後といわれる歯科クリニック業界では、院長先生が給与計算と会計記帳を兼務するケースは珍しくありません。一方で給与計算を解説した実務書やWebサイトは巷に溢れていますが、給与の会計仕訳を取り扱った媒体は少ないようです。本サイトでは給与計算にかかる会計仕訳の基礎について、初心者にもわかりやすく解説してゆきます。

給与計算の会計記帳

給与計算にかかる会計記帳は概ね次のパートで構成されます。本記事ではこれらのうち給与費等の計上および給与の支払いに関する会計仕訳について解説し、それ以外のパートは別のブログ記事で順次取り上げてゆきます。

  • 費用の計上:給与費、法定福利費、その他費用(振込手数料等)の計上
  • 給与の支払:総支給額から社会保険料および雇用保険料の被保険者負担分ならびに諸税を控除した差額(手取り額)を支給
  • 諸税の納付:給与支給月の翌月10日までに源泉所得税および個人住民税を納付
  • 社会保険料の納付:給与支給月の翌月末日までに社会保険料(法定福利費+職員預り金)を納付
  • 年末調整:1年間(1月~12月)の給与・賞与の総支給額と各種申告書をもとに年税額を確定して概算額と清算
  • 労働保険年度更新:前年の労働保険年度(4月~翌3月)の賃金総額をもとに確定労働保険料を申告(概算額と清算)

給与等の条件設定

最初に給与支給額や法定控除などの前提条件を設定します。モデルは札幌市内の歯科クリニックに勤務する40代の歯科衛生士で、扶養家族(中学生の子)が1名おり、勤務先は社会保険の適用事業所(健康保険=協会けんぽ・厚生年金保険に加入)です。

具体的な前提条件は次のとおりで、他の会計仕訳の記事も全てこの条件に基づき解説します。なお「経理のしごと」カテゴリーでは社会保険料や各種税金等の計算根拠の解説は割愛します(これらの解説については「人事のしごと」カテゴリーの記事をご覧下さい)。

支給額内訳

支給項目支給額課税区分
基本給280,000円課税
資格給(歯科衛生士)20,000円課税
時間外手当15,000円課税
通勤手当5,000円非課税

勤怠は月末〆切、当月25日支払い(月給制)です。時間外手当は月末にならないと勤怠実績が確定しませんので、翌月の給与で清算(支払い)します。

社会保険料

社会保険料被保険者負担分事業主負担分小計
健康保険料(協会けんぽ・北海道)16,448円16,448円32,896円
介護保険料2,592円2,592円5,184円
子ども子育て支援金368円368円736円
厚生年金保険料29,280円29,280円58,560円
子ども子育て拠出金0円 1,152円1,152円
合計48,688円49,840円98,528円

社会保険料は月末の被保険者資格によって確定しますので、当月分の被保険者負担分を翌月分の給与から控除します。子ども子育て拠出金は全額を事業主が負担します。

労働保険料

労働保険料被保険者負担分事業主負担分小計
雇用保険料1,600円2,720円4,320円
労災保険料0円960円960円
合計1,600円3,680円5,280円

雇用保険料のうち事業主負担分は保険本体部分の保険料+雇用保険二事業(雇用関係助成金等)にかかる保険料です。労災保険料は事業主が全額を負担します。

源泉所得税・個人住民税

諸税(給与関係)徴収税額小計
源泉所得税(扶養家族1名)5,430円5,430円
個人住民税(札幌市)12,500円12,500円

法定控除にかかる条件設定は以上です。なお本記事では給与計算の会計仕訳を簡潔明瞭に解説したいので、法定控除以外の控除(財形貯蓄の積立金等)は設定しません。

会計仕訳パターン(費用の計上・給与の支払)

ここからは「費用の計上」と「給与の支払」にかかる会計仕訳を解説します。「費用の計上」と「給与の支払」の2つの会計仕訳の出来栄えが、年末調整を含めた一連の給与計算の会計処理の精度を左右しますので、しっかり理解しましょう。

会計ルールのおさらい

給与費や福利厚生費、支払手数料(振込手数料)などの費用が発生したら、費用科目として借方に計上します。一方で給与の支払日あるいは社会保険料等の納期限まで現金預金は減りませんので、相手科目は未払費用(貸借対照表の負債科目)として計上します。

給与の支払い=現金預金を出金しますので、貸方に支給額を計上します(資産→減)。法定控除の額を現金預金に戻し入れます(資産→増)が、これらは一時的に事業主が預かり、いずれ納付する義務がありますので、職員預り金に計上します(負債→増)。

会計仕訳その1:費用の計上

給与費や福利厚生費等を借方に計上(費用→増)します。実務では、給与支給日に給与費等の計上と給与の支払いをひとまとめにして会計記帳するのが一般的ですが、本記事では読者の理解促進を優先して、ややまわりくどい仕訳となっているについて予めご了承願います。

(借)勘定科目金額(貸)勘定科目金額(摘要)
給与費_基本給280,000円未払費用_給与費320,000円◯月度給与
給与費_資格給20,000円◯月度給与
給与費_時間外手当15,000円▲月度給与※前月分
給与費_通勤手当(非課税)5,000円◯月度給与
法定福利費_健康保険料16,448円未払費用_社会保険料49,840円◯月度社会保険料
法定福利費_介護保険料2,592円◯月度社会保険料
法定福利費_子ども子育て支援金368円◯月度社会保険料
法定福利費_厚生年金保険料29,280円◯月度社会保険料
法定福利費_子ども子育て拠出金1,152円◯月度社会保険料
法定福利費_雇用保険料2,720円未払費用_労働保険料3,680円◯月度労働保険料
法定福利費_労災保険料960円◯月度労働保険料
支払手数料_X銀行110円未払費用_X銀行110円◯月度給与振込
借方計373,630円貸方計373,630円*****

社会保険料は労使折半で負担します。被保険者負担分は翌月の給与から控除(職員預り金を計上)しますが、事業主負担分(法定福利費)は当月の損益に計上します。これら費用は給与支給日あるいは納期限まで出金しませんので、未払費用(負債→増)とします。

会計仕訳その2:給与の支払

給与支給日に現金預金を出金(資産→減)し、給与費と支払手数料にかかる未払費用と相殺(負債→減)します。なお従業員に振り込まれる金額(手取り額)は、給与費(総支給額320,000円)から法定控除(68,218円)を差し引いた後の251,782円です。

(借)勘定科目金額(貸)勘定科目金額摘要
未払費用_給与費320,000円現金預金320,000円◯月度給与支払い
現金預金16,448円職員預り金_健康保険料16,448円▲月度社会保険料※前月分
現金預金2,592円職員預り金_介護保険料2,592円▲月度社会保険料※前月分
現金預金368円職員預り金_子ども子育て支援金368円▲月度社会保険料※前月分
現金預金29,280円職員預り金_厚生年金保険料29,280円▲月度社会保険料※前月分
現金預金1,600円職員預り金_労働保険料1,600円◯月度社会保険料
現金預金5,430円職員預り金_源泉所得税5,430円◯月度源泉所得税
現金預金12,500円職員預り金_個人住民税12,500円◯月度個人住民税
未払費用_X銀行110現金預金110◯月度給与振込
借方計388,328円貸方計388,328円*****

法定控除のうち、雇用保険料の被保険者負担分と諸税(源泉所得税・個人住民税)は当月分ですが、社会保険料の被保険者負担分は前月分です。これら法定控除は一時的に事業主が預かり、いずれ未払費用(法定福利費)と合算して納付しますので、職員預り金で計上(負債→増)します。

小規模クリニックのケース

医療法人の場合

本記事では、会計初心者が理解しやすいように、費用の計上と給与の支払を別々に起票するパターンを提示しましたが、実務においては給与支給日に費用の計上と給与の支払にかかる会計仕訳をひとまとめにして起票することが一般的です。

また、法定福利費や職員預り金の内訳(補助科目)を詳細に分けて表記したことについて、従業員(被保険者)の多い大組織では、社会保険料などの徴収額と納付額の不整合が起こりやすいため、補助科目を細分化することはエラーの早期発見に有効です。

一方で歯科クリニックは従業員数が10人未満であることが多く、補助科目を細分化し過ぎるとかえって事務の煩雑化を招きます。社会保険料などの不整合は会計帳簿よりも、賃金台帳と標準報酬月額決定通知書などを直接突合した方がむしろ解決が早いです。

そのような理由から歯科クリニックなどの小規模事業者には、次のような会計仕訳がお勧めです。25日の給与支給日に費用の計上と給与の支払いを同時に記帳しますので、ひとつの伝票に全て仕訳が収まります。

(借)勘定科目金額(貸)勘定科目金額(摘要)
給与費_基本給280,000円現金預金320,000円◯月度給与
給与費_資格給20,000円◯月度給与
給与費_時間外手当15,000円▲月分給与※前月分
給与費_通勤手当(非課税)5,000円◯月度給与
法定福利費_社会保険料49,840円未払費用_社会保険料49,840円◯月度社会保険料
法定福利費_労働保険料3,680円未払費用_労働保険料3,680円◯月度社会保険料
現金預金68,218円職員預り金_社会保険料48,688円▲月度社会保険料
職員預り金_労働保険料1,600円◯月度労働保険料
職員預り金_源泉所得税5,430円◯月度源泉所得税
職員預り金_個人住民税12,500円◯月度個人住民税
支払手数料_X銀行110円現金預金110円◯月度給与振込
借方計441,848円貸方計441,848円*****

補助科目の過度な細分化は避けるべきですが、給与費は損益分岐点分析や給与制度見直しのため、また社会保険料と労働保険料は算定基礎届や労働保険年度更新の事務効率のため、さらに源泉所得税と個人住民税は年末調整や納税通知との照合のため、補助科目を分けた方が良いでしょう。

個人開業の場合

個人開業の歯科クリニックでなおかつ従業員数が5人未満の場合は社会保険の強制適用事業所に該当しませんので、法定福利費および職員預り金のうち社会保険料にかかる会計仕訳は不要です。つまり前述の仕訳から「法定福利費_社会保険料↔未払費用_社会保険料」と「現金預金↔職員預り金_社会保険料」の2行を削除します。

したがって個人開業の歯科クリニックに勤務する従業員は自身で国民健康保険と国民年金に加入し、保険料を納付することになりますが、たとえば職場が北海道歯科医師会国保のような国保組合に加入している場合は、事業主が健康保険料(および介護保険料・子ども子育て支援金)を従業員の給与から控除して納付することになります。

なお国民年金には国保組合のような職域別の保険者がありませんので、やはり法定福利費や職員預かり金は生じません。一方で労働保険料および源泉所得税ならびに個人住民税は、勤務先が医療法人か個人開業かに関係なく、同一のルールが適用されます。

給与計算の会計仕訳シリーズ第一弾は、給与にかかる費用の計上と給与の支払いの基礎的な仕訳パターンのご紹介でしたが、仕訳の多さや複雑さに驚かれた読者も少なからずいたのではないかと推察します。しかし給与計算にかかる会計仕訳の大部分が給与計算の会計仕訳に集約されており、ここさえしっかりマスターできれば後は難しくありません。

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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/人事コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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